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21. パラチの人形劇

フィルムがなくなったので(デジカメも iPhoneも使っていませんでしたからね、こんな問題もありました)カメラ屋さんへ行きました。観光案内所の隣にお店を構えています。小さなカメラ屋さんですが、コダックだ、フジフィルムだとどこでも同じです。まぁどれでも同じだろう、などと言いながら買ったりしたのですが、その店のご主人は東洋系で年のころは 60過ぎほどか、ハンチングをかぶっている。おや、気がついてみると日本海軍の旭日旗バッジがついているではありませんか。
「あれ?あのバッジ見てご覧」
なんて二人で話していたら、そのご主人、ニタニタして
「あなたたち、日本から?」
何とこの方は日本出身でした。こんな小さなところに、日本人が3家族いるそうです。その1つがカメラ屋さん、もう1件がお寿司屋さん、最後は忘れました。
ブラジルへは日本からの移民が多い。先日も統計が発表されましたが、海外で日本人が多いのは1番がアメリカ、2番がブラジルだそうです。それからイギリスが続きます。それほど日本に近い国でありながら、知られることの少ない国。

さて、パラチには有名な人形劇があります。Grupoグルッポ Contadoresコンタドレス de Estoriasジ エストリアスという人形劇団でが、Teatroテアトロ Espacoエスパソという劇場を根城に公演をしています。(上の写真はその入り口。)この劇場、100名を収容するのみという小さなもので、中は階段状の座席が5列くらい。舞台がすぐ目の前にあります。入場料を払って中へ入るとすぐに団扇を渡される。冷房がなくて暑いのです。日本でも昔の映画館などでは畳の桟敷があったりして、団扇を持って出掛けたものですけどね。

その暗い舞台の中央に照明を当てて演じられる人形劇は、まるで浄瑠璃を思わせます。黒子がいて、人形を抱えるようにして操作している。ただし、言葉はありません。音楽が流れ、15分間ほどの小さなストーリーが披露されます。テーマは様々ですが、いずれも人形がまるで生きている。ここでは1つだけ紹介します。
バックに流れる音楽は、ブラジルの作曲家 Heitorハイトール Villa-Lobosヴィラ=ロボスの静かなギター音楽。
舞台の中央にテーブルが1つ。人形が動き始めます。

夕食も終り、お婆さんが椅子に座って裁縫をしています。
お爺さんは、手持ち無沙汰に、テーブルの上で木の実を転がして遊んでいる。
お婆さんは黙々と裁縫。
お爺さんはつまらない。木の実を転がしてお婆さんを盗み見る。
お婆さんは知らん振り。
お爺さんは木の実を1個、テーブルからコロンと落とします。
木の実はコロコロと床を転がって、お婆さんがチラッとそれを見る。
そして何事もないかのように裁縫を続けます。
お爺さんは、クスッと笑って、木の実をテーブルで転がす。
そして、その木の実をコロコロッ、床に落とす。
お婆さんは裁縫の手を休めて木の実の行方を追い、クスッと笑います。
そこへ、また木の実がコロコロッ。
お婆さんは口を押さえてクスクスッ。
お爺さんは、お婆さんの傍に寄り、耳元へ何か囁く。
と、お婆さんは口を押さえて笑う。
お爺さんもヒッヒッヒッと笑い、また何かを囁いて……、
二人はクスクス笑いつづける。

15分ほどの時間で、ストーリーはこれだけ。おそらく、今まで共に生きてきた日々が心の中に積っているのです。その挙句の夜の沈黙、そして押し殺した笑い。この2人の人形は、はっきりと人生の黄昏を描いていました。

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