13. コパカバーナの大晦日
コパカバーナのビーチに、少しだけ触れておきます。
ここはイパネマの北東側にあり、リオの中心街にいっそう近いためでしょうか、リゾート地として最初に人気の中心だったところです。イパネマよりも長い砂浜で、白い砂地の部分もイパネマよりも格段に広い。観光客も、どちらかと言えば、年齢が高めになるような気がします。
毎年、大晦日の真夜中になると大勢の人がここに集まってきます。目的の1つは、新年を告げる花火が打ち上げられるのを見るため。もうひとつには、海の神様に捧げ物をするために、この海岸へ来るというものです。
アフリカからブラジルに伝えられた神話の中に、海の神様がいますが、その神様へ捧げ物をするのが、一年の終りの日。捧げ物をして翌年の幸いを祈るわけですね。この日の夜は、敬虔の心を示すために、誰もが海の神の象徴である白い服を身につけています。
が、実際はお祭りと同じようなものになってしまっている、これはどこでもそんなものですね。ビーチには、500 メール間隔くらいで仮設ステージが並び、そこではロック音楽が演奏されることになっています。ビーチは巨大なディスコと化するわけです。ただしこれは新年の秒読みを待って花火の打ち上げが終ってから。それまで、人々はビーチに沿った広いストリートをぶらぶらと歩いたり、道ばたに座ってビールを飲んだり。白い服に身を包んだ、行く当てのない人々は一様に広がり、潮のような大きな流れになりながら、お喋りを楽しみ、時間をやり過ごしています。
砂浜の上を、ずっと海のほうへ歩いていくと、人はまばらになっていきます。海の神様へ捧げ物をする人たちです。海の中へ、白い花を投げ入れて、願い事をします。波打ち際には、たくさんの花が浮かび、波に揺られていました。こういう所にはよく見られるように、若いカップルが多いものですね。夢を語り、幸せを願う二人を見るのは、心が和みます。
そこで見た光景です。白いワンピースの女性がひとり、年の頃、30半ばという感じだったでしょうか、ゆっくりと波の中に歩を進めていきました。ひざの上まで浸かるあたり、こちらはイパネマと違って遠浅ですから割合に遠くまで行けるのですが、そこまで行って、手にしていたシャンペンの栓をポーンと抜いて、海に捧げたのです。彼女はゆっくりと砂の上に戻ってきて、空になった壜を砂の上に立てました。それから、またゆっくりと、もう1本のシャンペン・ボトルを手に海の中へ向かい、同じことを繰り返しました。2本のシャンペンに託して何を望んだのか、知れようもありませんが、立てられた2本の空の壜の横にじっと立ち尽くし、沖を見ていた女性。この女性には、この年2つの大きな不幸があったに違いない、と僕には思えてなりませんでした。
秒読みがあって、花火が始まり、ディスコが始まり、という陽気な新年の夜の一方では、こういう静かなドラマも見られました。
翌日の新聞によると、打ち上げられた花火は 5,064 発、コパカバーナに集まった人々は200万人だったそうです。
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