見出し画像

(フィンランド視察①)世界初の核燃料廃棄物最終処分場「オンカロ」へ

フィンランド視察の初日、羽田からの飛行機が首都・ヘルシンキのヴァンター空港に到着したのが6:20。
そのままバスに乗り、3時間半かけて北西に向かった。
世界初の核燃料廃棄物の最終処分場である「オンカロ」の視察に向かうためだ。

フィンランドは日本と似て、石油や石炭といった化石燃料の少ない国である。
このため早くから風力・水力・バイオマスといった再生エネルギーと原子力エネルギーへの依存度の高いエネルギー政策をとってきた。
現在は、電力における原子力エネルギーへの依存度は35%にのぼり、再生エネルギーも含めたエネルギー自給率は52%程度となっている(日本の自給率は13%程度)。

こうした中で、「現世代が使っているエネルギーの廃棄物は現世代で処理すべき」という考えのもと、1983年には政府が、高レベル核燃料廃棄物の最終処分場を設置する方針を決定した。
その決定を受けて、地質検査や住民投票などの立地選定が行われ、2001年にヘルシンキの北西270キロにあるオルキルオト島に最終処分場の立地を決定し、国会承認した。
これが「オンカロ」(フィンランド語の洞穴)である。
その後、2004年から建設が開始され、現在は全長5キロ、地下の最大深度約450mの坑道がほぼ完成し、今年の春から試験運用開始、2025年頃には本格運用が開始される予定となっている。
ちなみに日本ではまさに今、最終処分場の選定をめぐる文献調査が行われており、今回のオンカロ視察は、立地に関する今後の議論に対して大いに参考になることが期待される。

到着して、ビジターセンターに入り、所長から概要の説明を受けた。
それによると、このオルキルオト島の地下に最終処分場の建設を決定した理由はいくつかあるが、プルトニウムが天然ウラン並みの有害度まで減衰するまでの期間である「10万年」を想定したうえで、
・地表に比べてリスクが少ない(紛争、氷河等による侵食、人為的な略奪等)
・そもそもフィンランドは地震が少ない(10年間でM3以上の地震は0回、日本では4900回)
・他の地域よりも地質が安定している(固すぎず柔らかすぎず、地下水の影響が少ない)
・地域の理解が得られやすい(すでに原発が立地している)
などの理由から、この地に選定されたとのこと。

所長とのランチの後、実際にオンカロに入ることが許可された。
ヘルメットを被り、緊急時のための酸素ボンベを腰ベルトにつけて、車に乗って出発。
地上に開いたトンネルの入り口から坑道に入り、10メートル進むと1メートル下る坑道を、ぐるぐると降って行く。
まさに、リアル「センターオブジアース」だ。
暗闇のトンネルを延々と下っていくと、時間や方向の間隔がなくなるような気がしてくる。
延々に降るかと錯覚し始めた頃、車が止まった。
車で5キロ走り、地下430mほどまで潜ったという。
地上では2℃だった気温が、17℃まで上がっていた。
地下430mというと、東京スカイツリーを地下に向けて逆さまにし、その上の展望台(450m)近くまで潜ったことになる。
この地下430m付近に長さ330mほどの横穴を約100本掘り、それぞれの横穴に重さ2トンのキャニスター(廃棄物のパレットを鉄と銅の容器に入れたカプセル)を30〜40本ずつ埋めていく。
このようにしてキャニスターを埋設した横穴を毎年1本ずつ増設していき、2120年頃まで百年かけて、フィンランドの原子力発電所から出るすべての廃棄物である3250本のキャニスター、合計6500トンを埋設することになるロング・プロジェクトだ。

これだけのコストと手間をかけて「現世代の廃棄物を現世代で処理」しきろうとするフィンランド人の覚悟に純粋に敬意を感じた。
一方で、まだ結論が出ていない課題もあるという。
それは、有害物質が自然に還るまでの10万年の間、廃棄物が誤って掘り起こされないようにするとともに、悪用されないようにするため、この「オンカロ」の存在について、「危険性を警告し続ける」べきか、「完全に忘れさせる」べきか、議論が続いているとのこと。
前者をとれば悪意のある者に掘り返されるリスクが残り、後者を取れば何も知らない者が誤って掘り起こすリスクが残る。
(この辺りの議論は、映画「100000年後の安全」に詳しい。映画としても静謐な映像美の中で壮大な議論を扱う、見応えのある映画です)
このほかにも「10万年」という途方もない期間を想定したプロジェクトには無数の「もし」という疑問がありそうだ。
そもそもこうした何千世代にもわたるプロジェクトを進めること自体が、現在の人類に可能であるのかどうか、大胆さと謙虚さの両方を持ち続けなければ進められないプロジェクトのように感じた。
日本ではこれから、こうした「無数の疑問」に答えを出していかなければならない。

1時間ちょっとの地底ツアーを終えて地上に戻る時、少しずつ地上が近づくにつれて空気が軽くなっていくような、体のどこかに入っていた力が徐々に抜けていくような、そんな気がしていた。
地表に出る直前に一瞬だけ、「地下にいる間に数年経っていたらどうしよう、いや10万年が経っていたら・・・」と考えて鳥肌が立った。
もちろん、地上でも時間は1時間ちょっとしか経っていなかった。
少しだけホッとした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?