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激動の一年の振り返り② グローバル化の終焉

1.グローバル化の終焉

(1)これまでの30年間

1989年に「ベルリンの壁」、1991年にソビエト連邦が相次いで崩壊して以降、30年以上にわたって「グローバル化の時代」が続いてきたと言われています。
この間、主要国間の対立が(表向きは)解消し、国際的な経済活動の分業と貿易の拡大、各国間の経済的な結びつきが強化される状況が進展してきました。
日本においても、海外からの観光客によるインバウンド需要が拡大し、円高を背景に国内から海外へ生産体制をシフトさせ、海外からの安価な輸入品への依存度が上昇してきた時期と言えます。
国際的な課題は政治から経済へとシフトし、国家間の協調の中で効率的な生産体制(サプライチェーン)が構築されるなど、各国が「グローバル化の成果」を享受した30年間だったと言えると思います。

(2)近年生まれた新たな状況と認識

・新型コロナ感染症の世界的な拡大
2019年に中国で発生した新型コロナ感染症は、瞬く間に全世界に拡がり、人々の生活や生産活動に大きな制約が課されることとなりました。
そうした中で、これまで当たり前のように行われてきた全世界的な人々や物資の移動は「大きなリスク」として認識されました。
また、グローバル化の中で進んできた他国との結びつきの強さや、重要な資源や物資を他国に依存すること、他国からの観光客に消費刺激を期待することなどは、感染症の拡大などの状況変化によって突然失われうることも認識されました。
つまり、「グローバル化された状況」を当たり前のこととして過度に依存することが改めて「リスク」として認識されることになりました。

・ロシアによるウクライナ侵略
今年2月にロシアがウクライナに侵略を開始する直前まで、国際的には、「各国間で経済的な結びつきが高まっている中で軍事侵攻は合理的な選択肢ではなく、ロシアはウクライナ侵略を最終的には思いとどまるだろう」という論調が少なからず聞かれていました。
ところが、そうした見方をいとも簡単に覆して、ロシアはウクライナに侵攻を開始しました。
強権的な政治体制にある国家の暴走は、予見できないことが改めて認識され、他にもそうした政治体制にある国が、同様の侵略を行うことも現実のリスクとして認識されることになりました。

上記のような状況の変化により、約30年にわたって続いてきた「グローバル化」は「巻き戻し」または「終焉」に向かうと考えられるようになりました。


(3)来年以降への考察
上記のような新たな状況と認識のもとで、今後は、生産や投資の国内回帰や海外で依存できる国・地域の選別が進むものと考えられます。
つまり、「自分の国のことは自分の国で賄う」、「海外に依存するとすれば政治的信条などが近い、信頼できる国のみ」という原則に立ち返る動きです。
これを一言で言えば「安全保障」であり、その「重要性の再認識」です。
「安全保障」にはもちろん、経済、食料、エネルギーなどを含みます。

(国家安全保障)
これについては、ロシアのウクライナ侵略前から岸田総理は、「防衛3文書の見直し」を指示し、作業が進められてきました。
そうした中でウクライナ侵略が行われたことで、「防衛力の強化」についての国民的な議論が拡大しています。
この点は、次回以降、詳しくみていくことにします。

(経済安全保障)
具体的には、サプライチェーンの見直しのほか、半導体などの重要な部品や物資はできるだけ国内で生産するという考え方などに基づいて議論が進められ、熊本に最新鋭の半導体工場の誘致が決定するなど、大きく政策が動きました。
また、Wi-fiや電波の中継機、防犯カメラなどのインフラにおける中国などの特定の国への依存を回避するという議論も今後強まっていくものと思います。

(食料安全保障)
小麦やとうもろこし、その肥料や家畜の飼料などの輸入の停滞や価格の高騰などを受けて、農業生産を国内に回帰すべきという議論が強まっています。
今後は、米や小麦などの穀物を中心に、食料自給率の向上が改めて重要政策として位置付けられることと思われます。
さらに、これまで生産性が相対的に高くなかった農業分野を、ITや5G、ドローン、衛星技術、AIなどで高度化することで生産性を高める動きが強まり、農業が改めて成長分野として認識されることになると思われます。

(エネルギー安全保障)
天然ガス等の資源・エネルギーの海外依存のリスクが認識されたことで、エネルギーや電力の自給率の向上も大きな課題として認識されました。
そうした中で、再生エネルギーへの移行の重要性が改めて共有された一方で、自然に依存する再生エネルギーの不安定さがリスクになり得ることも同時に認識されました。
こうした状況を受けて、再生エネルギー中心のエネルギー構造への移行の過程として、原子力発電所の再稼働や稼働延長により「原子力発電を最大限に活用する」という考え方が岸田総理から提唱され、国民からも幅広い理解を得つつあります。

上記のように、今後数年間は「安全保障」というキーワードのもとで、生産・流通体制の大規模な見直しが進んでいくことと思われます。
それは国内産業にとって必ずしも危機ではなく、むしろ生産の国内回帰、自給率の向上、国内への投資など、新たなチャンスを生んでいく側面も強いと思われます。
この後の数年間で日本のこの先数十年の成長力が大きく変わってくる、そうした重要性を持つ数年間になると思われます。

(「激動の1年間の振り返り③  国家安全保障戦略の見直し」につづく)

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