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体験したことのない日常のリアリティ『サンショウウオの四十九日』を読んで

はじめに

朝比奈秋著『サンショウウオの四十九日』(新潮社)を読みました。

読みかけのエッセイを読み終える前に、何か娯楽小説が読みたいと思い、書店をうろうろしていました。
すると、今年の芥川賞受賞作を見つけ、「今年一番に選ばれたものは読んだ方が良い」という気持ちがミーハー心に勝って購入しました。

読了後の全体的な感想ですが、終始、独特な雰囲気に包み込まれました。
それは、主人公の姿、形、行動を文章からありありと想像し続けたからです。

その近しい姿に、昔、『ザ!世界仰天ニュース』というバラエティ番組で記憶した、アビー&ブリトニー姉妹のような、胴体が一つで首が二本、頭が二つある姿を思い浮かべました。

幼少期の私にとって、『ザ!世界仰天ニュース』や『奇跡体験!アンビリバボー』といったバラエティ番組が、多様性の真髄でした。
この作品は、小説もその一つであることを思い出させてくれたのです。

サンショウウオの四十九日のあらすじ

双子の姉妹の杏と瞬は、数カ月ぶりに帰ってきた実家でくつろぎながら、父の出生時の話を聞かされた10年前を思い返す。父・若彦はその兄・勝彦の体内で成育する「胎児内胎児」として生を受け、勝彦が1歳のとき外科手術で取り出されたのだという。自身らも「結合双生児」という特殊な形態で出生した姉妹が、父と伯父の関係性について思いを巡らしたその夜、勝彦の訃報が届く。

出所:『サンショウウオの四十九日』

物語は、双子の姉妹である安と瞬の視点で展開されます。この物語が独特なのは、その安と瞬が身体でつながっているという点です。

「身体でつながっている」。つまり、「結合双生児」という特殊な形態であり、顔の造形や身体つきなど、身体の半分が姉妹で異なっているのです。

物語の中盤では、幼少期の文通のやり取りが描かれますが、相手方の子供たちは彼女たちをうまく想像できない様子が表現されています。

私はこの物語を追体験するように読み進めましたが、ところどころにユーモラスな雰囲気があり、重苦しさを感じさせない内容になっています。読者は、体験したことのない日常にリアリティを感じることができると考えます。

この本が私にもたらした考え方

私の人生を振り返ると、このような特殊な人物と過ごした記憶はありません。
つまり、自分の学級には、このような事情を抱えた同級生がいなかったということです。
幸か不幸か、こうした気づきや価値観、哲学を日常生活で受動的に体験できない人生もあるのだということです。

自分がこれから「結合双生児」になることはありません。しかし、もし自分の子供が「結合双生児」だった場合は、気が気でないだろうと想像します。小説や物語は、こうした前提知識や追体験をもたらしてくれる創造の産物であることを、改めて思い出させてくれました。

COTEN RADIO の深井龍之介さんは、「ビジネスパーソンこそ、小説を読むべきだ」と説いています。その理由は、多様性が重要視されるこの世の中で、ビジネス書では汲み取れない人の感情や価値観などを、小説が教えてくれるからです。なんとなく理解していても、小説を読む勇気が出ないことがありますが、この言葉に触れたことで、小説を読むことの大切さを改めて感じさせられる読書体験でした。

おわりに

私の人生には「結合双生児」と過ごした経験はありませんが、もし自分の子供がそうだった場合は気が気でないでしょう。小説は、こうした特殊な知識や体験を提供し、深井龍之介さんの言葉通り、ビジネス書では得られない感情や価値観を教えてくれることを再認識しました。

読後の心境としては、小説をもっと読もうと思います。それは、多様な感情や価値観に触れることで、人としての深みを得られると感じたからです。
ぜひ『サンショウウオの四十九日』をご覧ください。

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