Bruno Mars - 24K Magic
作曲クレジットをめぐる問題やそれに付随するロイヤリティー、Youtubeを始めとした動画投稿サイトでのカバー動画なども相まって、2015年を代表するアンセムとなった「Uptown Funk」。往年のファンクムーブメントと現行のサンプリングミュージックが結集したこの曲は、Bruno Marsをさらにスターダムへと押し上げることになった。
そこでついつい忘れてしまうことが1つ。「Uptown Funk」が”Bruno Marsの作品”として捉えられていること。それ自体は何ら悪影響のないことだが、この曲が収録された Mark Ronson『Uptown Special』にはブルーノ以外にもKevin Parker(Tame Inpara)、Stever Wonderらが参加していること、サンプリングされた数々のクラシックソングが新たな解釈を持って現代にフックアップされた事実など、このアルバムが過去と現在の橋渡し的な役割を担ったことはもう少し表面的に評価されてもいいと思う。
"「Uptown Funk」以降"という常套句に付きまとわれることとなったBrunoの次なるアクションに、世間の誰もが注目していた。誰とコラボレートし、どんな曲をアンセムとするのか?期待しかないこの状況に対し、彼が見せたリアクションとは...
それは、ズバリ「流行のイイトコ取り」。そして、その流行が現在進行形ではなく、むしろ退行していくリスナーの音楽リテラシーに一石を投じるような、オールドスクールなダサさをあえて身にまとっていることに新鮮さを覚えてしまう。先行シングルでシェアされた「24K Magic」に見る華やかさも2016年的とは言えない。しかし、不思議と今のBruno Marsが発するアクションとして、とても腑に落ちる部分があるのだ。最先端ではなく両極端なアイデアを組み合わせていく。実にBruno Marsらしいロマンチズムだ。
大々的にトークボックスを使用しているイントロも"Mr.Talkbox"の異名を持つ:Byron Chambersをイメージしたものであり、流行のプリズマイザー(Francis and the Light, Bon Iverなど)やオートチューン(Daft Punk, Perfumeなど)ではなくあえて”トークボックス”を選んでいることも、そんなロマン溢れるコンダクトであろう。
元々、マイケル・ジャクソン同様に大人数の兄弟の下で育ったブルーノは、音楽一家でもあった環境で英才教育のようにR&B、ヒップホップ、ジャズ、往年のヒットチューンに慣れ親しんでいた。そこで培われた一芸は、自身がホストも務めた〈サタデー・ナイト・ライブ〉で得意のモノマネとして披露されたことで話題を集めたのも懐かしい。
Bruno Marsがなぜこうもスターダムで輝き続けられるのか。それは彼が音楽を独占的に制作することなく、数多の才能をフラスコ内で混ぜ合わせることに長けているからだと思う。要はチームでの化学反応に自身の音楽意欲を混ぜ、それを結実させる能力。しかも2016年のフォーマットに適した全9曲約33分というコンパクトなフォーマットも、時代にコミットするBruno Marsらしいディレクションだ。
チームBruno Mars、というより”Bruno Mars=バンド”であることを強調した方が非常にわかりやすい。実際ライブで演奏するバックバンド、、コーラスから作曲や編曲を担当するクリエティブ面の人物まで、すべてが統率されたプランニングを徹底している。実際、11/18に世界シェアされた最新アルバム『24K Magic』の全収録曲はShampoo Press & CurlBruno (Bruno Mars、Philip Lawrence, Christopher “Brody” Brownの3人からなるクリエティブチーム)が制作クレジットに表記されており、Gファンク、クワイエット・ストームなどのジャンルにBruno自身のインスピレーションともなった80年代後半〜90年代に至るR&B/ヒップホップを加えたトラックが並べられている。
他にも少女時代やBoA、SHINeeなどアジア圏のアーティストからChris Brown, Justin Bieberまでを手掛けたことで知られるThe Stereotypesが「24K Magic」を始め数曲を共同プロデュースしており、アジアンな色調も織り込むことに成功している。それは彼がフィリピン人の母を持ち、アジア産のレゲェやディスコにも免疫があることに由来するのかもしれない。
クワイエット・ストーム調のM7「Calling All My Lovelies」ではLana Del Rey, Eminemなどのプロデュースを務めたEmile Haynieがプロデュース参加。メロウな90'sポップのベターサウンドが2016年の今にはなんとも新鮮だ。曲後半に聴こえる留守電の声は女優のHalle Berryが担当しているとのこと。
M6「Straight Up & Down」ではニュー・ジャック・スウィングのスタンダードナンバーShaiの「Baby I'm Yours」(1993)からトラックを引用している。それを同学年でもあるT-Painにアレンジメントさせているところも、似た音楽の時代背景を持つ者同士の狂信として非常に興味深い。
アップビートやミドルテンポが並ぶ『24K Magic』で2曲の美しいバラードがあることも是非注目しておきたい。M5「Versace On The Floor」とM9「To Good To Say Goodbye」はどちらもディズニー作品のテーマソングとして申し分ないエキゾチックなバラードナンバーである。特に「To Good To Say Goodbye」は御大:Babyfaceがソングライティングにクレジットされている。ことメロウなサウンドエッセンスを加えるため、Babyfaceを起用することに誰も異論はないだろう。彼の手にかかればジャンル問わず、サウンドスケープからリリックまでが艶やかに魅せられていく。有名な事例としてEric Clapton「Change the World」は新たな表現を獲得したと
『24K Magic』は24カラットの魔法以上に、音楽史を参照しつついプロフェッショナルな音楽チームによって作られた堅実なポップアルバムである。2016年の音楽トレンドを引き合いに出すなら、そのダサさも含めてアンチなリアクションと評価することもできるだろう。だが、Bruno Marsがそんな安請け合いをすることなど到底あり得ないことだ。むしろ2016年のBruno Mars”しか”できないこと、彼”だから”できること、その結果が間違いなく時代のランドマークとなることを、彼はすでに確信していたはずだ。
この確信に至る思想と共鳴するアーティストが、ここ日本にも存在し、またほぼ同じタイミングで時代のランドマーカーとなっているのをご存知だろうか。その人物とは、今現在「恋ダンス」ムーブメントを巻き起こしている星野源である。
歴史あるブラックミュージックと自国のポップミュージックを己が解釈で編纂する。さらにヒット作で得た成功のメソッドをそのまま推し進めるのではなく、むしろそれを踏み台に自身のクリエイティビティを更新していく。この流れは「Uptown Funk」と『YELLOW DANCER』、そして『24K Magic』と『恋』で見事にシンクロしている(「Uptown Funk」が『YELLOW DANCER』における制作のインスピレーションの一つであることも本人が証言している:星野源、新作を語る"屋台骨はすごく楽しかったという想い" - antenna)。
Bruno Mars、星野源の先進性の極みは、おそらくThe Weeknd『STARBOY』を持って沸点に達することだろう。The Weekndの場合は過去そのものを殺してまで自身を一新する道を選んだが。
ほぼ同時期にシェアされたA Tribe Called Quest『We got it from Here... Thank You 4 Your service』などと違い、今回の大統領選を反映したトラックが『24K Magic』には存在しない。トランプ当選の報せの頃にはすでにトラックダウンまで終わっていたのだから当然といえば当然なのだが、ポリティカル・コレクトレスを用いてレビューされる作品にならなかったことに自分は少し安心している。政治と音楽が密接な関係性を持つアメリカで、政治的、もしくはスキンカラーなどに起因しない音楽が隅に追いやられがちな風潮がどことなく蔓延していることに不信感があった。そんなニュースのBGMに成り下がるよりも、日常でコメディー番組やテレビスポットに起用されることの方が今の時代貴重ではないだろうか。
『24K Magic』は純粋に週末のカーステレオから流れててほしいと思えるアルバムだ。日曜の昼下がりから黄昏時に至る刹那を、ネオンライトを横目にこのアルバムと走り抜けたくなる。その時は上に挙げた他のアーティストのアルバムも一緒に持って行こう。日常で鳴らすための音楽、Bruno Marsは古から続く音楽の根源を、常に時代の先頭に持っていくために歌い踊っている。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?