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ヴァーチャルアイドル×悪霊!?『ヴァーチャル霊能者K』西馬舜人インタビュー

昨年発売されるやいなや、「ヴァーチャルアイドルに憑依した悪霊を祓うため、霊能者をプログラミングする」という展開が話題を呼んでいる『ヴァーチャル霊能者K』。著者・西馬舜人さんのインタビューをお送りします。どのようにして本作が生み出されたのか? ぜひご一読ください。

『ヴァーチャル霊能者K』作品紹介

第6回ジャンプホラー小説大賞金賞受賞作品。
大学生の麻生耕司は卒業論文のテーマを求めてヴァーチャルアイドル・香月りんねの誕生日イベントに参加する。しかし、そのパーティーの途上、突如としてりんねが豹変し、会場内の電子機器を一斉に暴走させてしまう。彼女には正体不明の悪霊が憑依していたのだ。
爆発するスマホ、動き出す自動販売機、乗っ取られるSNS、高速で紙を射出するコピー機……全ての電子機器が殺戮兵器と化し、一人また一人と参加者は息絶えていく。
辛うじて生き残った麻生は、自称霊能者や乱暴者、プログラマーの小学生にその母と協力し、電脳世界の除霊を試みる……!

著者・西馬舜人インタビュー

――小説を初めて書いたのはいつごろですか? きっかけと内容を合わせてお聞かせください。

 えーーーーーーっとすみません、覚えていません。
 たしか小学校のときにはもう掌編くらいは書いていたと思います。そして、たぶん中学校から大学生ごろまでは、ほぼ毎日小説の文法で何かしらは書いていた記憶があります。部活として書くのが肌に合わなくてほぼ幽霊部員でしたが、高校のときは一応文芸部でした。テスト期間は机に向かって勉強しているフリをしていながら実は小説を書いていたりして……座学の成績はあんまりよくなかったです。
 純文学っぽいのも書いたし、ライトノベルっぽいのも書いたし、ミステリも書いたし、二次創作とかも書いたかと。ただ内容は言いたくないですね……。事由は恥ずかしいため。

――自身に影響を与えた作品のタイトルと、好きだった点をあわせてお聞かせください。

 これが、無数にあるんですよ! もう、「庵野秀明展」のいろんな特撮やアニメのオープニング・日本映画の予告なんかが絶えず流れ続けるブース」みたいな感じです!
 大監督の名前を出したあとに恐縮なんですが、僕も特撮作品が創作観の支柱として強固なんです。戦隊もライダーもウルトラも全作完走して、もっとマイナーな昭和の特撮やローカル作品もチェックするくらい。だから好きだった点も語りつくせないし、逆にファンだからこそ気になる粗や課題みたいなものを掘って考えるのが大好きなんです。放っとくと、作品を観た人でもついていけないような細部のフェチズムを延々語っちゃうと思います。
 あとこうしてジャンル全体を広く浅くチェックするときもあれば、一個の作品を誰もついていけないくらい深く見るときもあるんです。『金田一少年の事件簿』は単なるモブを含めて、第Ⅱ期までの登場人物全員の名前と顔がわかるくらい読み込みました。しまじろうも一時期アマプラ配信分を全部観て各話の分析してたりします。
 最近はもう、『アイの歌声を聴かせて』にひたすらハマりこんでます。忙しいなかで何度も劇場に通ってセリフも覚えたし、いまは名前のないモブの顔、教室やバスの張り紙までほぼわかります。かなり創りこまれているので裏読みができるし、自分で『アイの歌声を聴かせて』の裏物語を考えたり膨らませたりするのが楽しくてしょうがないんです。今後は確実にこの作品の影響が入り込むと思います。ずっと何かに影響受け続けてます。

――小説だと?

 今回の受賞作に影響を与えた作品としては、月村了衛先生の『槐(エンジュ)』を推します! キャンプ場に来た中学生たちが犯罪に巻き込まれて、バラバラだった子供たち・先生たちが協力していくんです。あとは小川一水先生の『天涯の砦』も大好きです。
 高見広春先生の『バトル・ロワイアル』も大好きな作品のひとつです。デスゲーム性が取りざたされることが多いけど、根幹は温かみもあって、人間の絆を多面的に掘り下げた良い青春小説だなと思ってハマりました。もちろん生徒42人の名前や特徴も全員分わかります。
 あとは、今野敏先生や宮部みゆき先生、野沢尚先生や山本弘先生や辻村深月先生の作品が持つバランスのとれた価値観が好きです。登場人物の語る価値観が、さまざまな立ち位置の視点を加味した上で出てくるもので、作者さんがひとつの問題を決して一面的に捉えていないのがわかる。そういう小説を読んでいると、「作者の方が観ている世界には、さまざまな人が思考して住んでいる」と思えて感動するんです。
 やっぱりフィクションを通じて、「それだけこの世界を真剣に見つめている人が現実にいる」と教えてくれるのが小説なんですよね。執筆に際して意識したところではあるので、多少は扱えてたらいいなぁ……と。ちなみにアイドルの話は今野先生の『ICON』を読んだことで題材に据えた気がします。あの作品は本当に凄いです!

――プロデビューを志したのはいつ頃からですか? 最初からプロ志向だったのか、何かのきっかけがあったのか教えてください。

 「なれたらいいなー」レベルも含めて、だいぶ大昔です。
 しかも、島本和彦先生のように「どうせ自分は作家になれる!」と思っていました。文章力はそこまで自信ないんですが、物事を細かく分析するマメなところとか、作品を黙々と書き続けて着実に完成させられるところとか、多少のことではへこたれずに次に繋げようとするマインドとか、そういう部分は「周りより勝ってる!」と思っていました。まずこういうのが「作家のなり方」みたいな本で書かれている必須事項なんです。自己分析するとそういうのは全部当てはまっていたし、逆にサラリーマンの適性は恐ろしく低いと出た……。
 とはいえ、現実的な進路として作家を想定していただけに「いまの時代に専業は厳しい」というのもわかっていたので、一応会社に勤めてから兼業でやろうと思ってました。結局忙しすぎるし、意味のないことでメンタルえぐられるし、いろいろと洒落にならん話だらけで辞めちゃって、やっぱサラリーマンとの兼業作家は無理でしたね……。
 その後はもう、現実的に続けられる進路が作家しかなくなっていたというのが実態です。そうなったら、あとはとにかく仕事をもらって、名前が目に入る作家になるしかないなーと思いながらいろいろやっています。

――小説賞に応募する以前、周囲の方に小説を読んでもらうことなどはありましたか? あった場合は他人に読んでもらうことの影響を教えてください。

 最初にジャンプ恋愛小説大賞の最終選考に残った作品なんかだと、まず知り合いの女の子に読んでもらいました。もともと「その相手を笑わせること」を目標に執筆していて、その意味では成功だったんですよ。そしてその子に「80点」という評価をもらいつつ、応募した結果は最終選考で担当編集がつく……という、まあまあイイ感じの手ごたえでした。
 こういう成功例だけだと影響や効果が精査できないので言っておくと、僕の場合「誰にも見せないまま応募したような小説は、だいたい最終いかずに落ちた」のが現実です。こっちの残骸のほうが多いと思います。トータルで10本いくかもしれない。
 たぶんですが、具体的な名前や顔やパーソナリティがわかるような相手に読んでもらえるように書かないと、「どうせ顔も名前もわからん選考担当が仕事で読んでいるんだから」という精神的なクッションを作ってしまって、執筆態度が無責任になってしまうんだと思います。落ちたときには名無しの選考担当の能力や態度に責任を被せることができてしまうし、「選考担当は仕事なんだから多少拙くても読むのが当たり前だろ」と、心のどこかで思って読み手を慮ること・伝わるように書くことを忘れてしまうかもしれない。
 だけど、名前や顔のわかる知り合いに読ませる想定で書くと責任も生じて、独りよがりなものは書けなくなるんです。まあ、失うものもあるかもしれないですが……(苦笑)。

――受賞作『ヴァーチャル霊能者K』はどれぐらいの期間をかけて書かれたのでしょうか? また、応募するとき自信や手ごたえはあったのでしょうか?

 あーーーれは、マジでヤバかったんですよ!
 応募時はホントに時間がなくて、一ヶ月で初稿を書きました。そのあと、担当編集の福嶋さんに「うーん……これだと構成がまだちょっとねぇ……(笑)」と言われて構成レベルの修正が発生したんです。その時点で締切まで残り10日とか、そのくらいタイトなスケジュールでした。
 しかもこの作品の場合、建物の構造のこととか考えないといけないし、オカルトとか電子機器とかITとか調べなきゃいけないこと多いし、事件がパーティー内で起きるから人間がやたら多いし、めんどっちいことばっかりなんです。人間がいっぱい死んだとき、僕としてはかなり助かりました。
 結局どうやって締切までに完成させたのかも、いまを以てわかりません。だから自信や手ごたえみたいなものはなかったです。もしかしたら銀賞か銅賞取れるかな~とはちょっと思ったけど、それも一応募者の主観による都合の良い妄想ですから。
 ただ、そんな土壇場だからひねり出した悪知恵やごまかしが楽しい作品になってると思います。「あーっ、小学生が一晩でこんなことできるわけない!」とどうしようもない問題に気づいたとき、「じゃあもうこういうことにしよう!」と突貫工事でくっつけた屁理屈がいま観ると奇跡的なくらいに筋が通ってて読者の方にもウケてて……ああ、よかった。

――受賞作はヴァーチャルアイドルに悪霊が憑依し、電脳世界で除霊するという奇抜な物語ですが、着想はどこにあったのでしょうか?

 これは、『電光超人グリッドマン』からの着想です。喫茶店で福嶋さんと「戦隊ものとか特撮とか何観てましたー?」って感じの雑談をしていて、そのときグリッドマンの話題が挙がったので、その場で大筋をひらめいて提案したら大ウケしました。最終落ちが立て続いたギリギリの時期でしたけど、何気ないところにヒントはあるものですね。
 僕は95年3月の生まれだから、原体験にが90年代ごろに流行ったインターネットとかサイバーなんちゃらみたいな話とか、ジュブナイルホラーものとかなんです。VHSでぼんやり見ていた『怪奇倶楽部』とかも、確か人工知能の変なキャラから怪現象を解決するヒントが貰えるんですよ。そういう四半世紀前の面白さが入っていると思います。
 あとはTwitterでも書きましたけど、神秘的な力+近代科学の利器という発想は『魔法戦隊マジレンジャー』を受けての衝撃が強かったおかげだったりします。『マジレンジャー』の塚田英明プロデューサーが作品を読んで感想をくださったのは嬉しかったです。

――スマホが爆発する、自動販売機が動き出すなどの殺戮描写はどのように考えていたのでしょうか?

 一部電子機器に関しては、家電系の雑誌に携わっていた友人から話を聞きました。そこからバッテリー系の事故などを調べつつ、もちろんフィクションで盛った描写も多めです。
 自動販売機など電化製品が動くのは、やっぱり特撮モノからの着想ですね。
 たとえば、『ロボット刑事』に出てくるロッカーマンという暗殺ロボットが好きなんですよ。こいつは普段、何の変哲もないロッカーに擬態してそこらへんの草むらとかに立ってるんですけど、誰かが「ん? なんでこんなところにロッカーが?」と開けちゃうと、そいつを中に引きずり込んで抹消する暗殺者なんですね。どう観てもロボット刑事の愉快な相棒みたいなキュートな外見なんですが、声が野太いし、悪いヤツだし、やることエグいんです。そういうかわいいけど怖い奇天烈さの再現ですよね。
 あと『ビーロボ カブタック』という作品も大事なイメージソースです。この作品では、毎回不思議な力に操られた物体が〈スーパー化〉して動き出すんです。時計とか柏餅とか下駄箱とかが、ほぼそのままの形で自立して動いて、騒動を起こす。自動販売機がぴょんぴょん跳ねるのは、カブタックっぽいと思います。読者の方々が『ヴァーチャル霊能者K』を笑って読んでいるみたいですけど、カーレンジャーやカブタックで育った僕にとって、あれはまったく変なことじゃないんですよ! 
 あ。ちなみに、いま挙げた作品は、東映株式会社が運営する「TTFC(東映特撮ファンクラブ)」というサービスにて配信中ですので、作家志望の方はアイディアの宝庫だと思ってぜひご入会の検討を!

――作中では様々な年代の人間が協力し合いますが、自然な台詞を書くために気をつけていることはありますか?

 自然な台詞になったかは、正直わかりません!
 でも、もしそう見えたとしたら、物語がシンプルなおかげだと思います!
 たぶんですが、不自然な台詞が発生する理由として一番多いのは「現実的な思考」と「物語としてさせたい派手な行動」との不一致だとか、「ここまでの登場人物の行動原理・思考パターン」と「ここからやりたい展開」との不一致だとか、作者の手に負えない矛盾が発生して、無理にその辻褄合わせをおこなわなきゃいけないときじゃないかと思います。そうなると、台詞も説明的なもの・記号的なもの・大袈裟なものが増えてしまうのかな……と。僕も他の仕事だと悩みます。
 ただ、この『ヴァーチャル霊能者K』の場合、登場人物たちの根っこは「生き残りたい」というわかりやすい行動原理で一致しているし、そのための具体的な方策も見えてきて、これからやることまで全部決まっている状況。起きていることや方策はフィクションですが、「目の前で起きているから信じるしかない」「他に方法がないから頼るしかない」というのが人物の心理として間違ってないので、そこで起こる会話も不自然には見えないんだと思います。
 あとは、主人公の麻生くんが周囲の話をまとめる司会者として優秀なんです。しかも合理的に行動しながらもいろいろな事態や常識破りにも柔軟に対応できるし、周囲の感情を汲み取って理性的に話すので、彼が軸にいれば周囲はあまり物語が脇道に逸れるような疑問を挟まずにみんなついていくことができたのかと……。
 ここは題材やキャラクターのおかげです。全然苦労しませんでした。

――小説を書く際に、小説を読むこと以外で役にたったことがあれば教えてください。

 これは、意外にもコミュ力かも。……いや、僕も正直、学校で目立つタイプではなかったし、「コミュ力がある」とみなされてきた人間ではないんですが、小説や脚本の仕事をせびるのに必要な力は最低限あると思います。
 要は学校で求められるコミュ力って、中身の薄い話や暴論も通せちゃう強引な性格とか、なんとなくの見栄えとかオーラとか立ち位置とかの力が強いと思うんです。だけどここで言いたいのはそういうことではなくて、相手の言いたいことを汲み取りつつ「それってこういうことですか?」と忌憚なく訊けたり、堅い長話になるときに退屈しないように冗談を挟み込んだりできる、そういう事務性・合理性・勇気・甘え・サービス精神の総和みたいなものです。それが備わっていると、いろいろと役に立つんじゃないかなーと思います。
 何しろ、その種のコミュ力があると「ねえ、あれ詳しいよね!? 教えて!」と取材できたり、打ち合わせのときにはどんな案でも躊躇なく発言できたりするんですよ。思った反応が来なかったときにネガティブになりすぎないのも大事です。編集者やプロデューサーから厳しい指摘や直しが入ったとしても、大抵は人格否定の意図はないので、そういうのを誤解しないで取り組むのも大事かと。
 実際にクリエイターの諸先輩方を観ていると、そうしたコミュニケーションの取り方や気さくな性格が作品に反映されていることが多いと思いますね。

――今後どのような作品に挑戦したいか、また構想中の作品などあれば教えてください。

 なんと、一個だけもう叶っちゃったんですよ。さっきからちょこちょこアピールしてますが、「東映特撮の脚本」がやりたかったんです。一応、ジャンプホラー小説大賞を受賞したときに「小説の仕事が着目されて30歳あたりで戦隊とか仮面ライダーとかに関わる」という人生のスケジュールを勝手に立てたんですが、「芸術職採用」というプログラムのおかげで少し前倒しになりました。本編の執筆はまだやらせてもらってないんで、まだまだやりたいことだらけですけど。
 もちろん小説のほうも構想はたくさんあります。脚本も楽しいし勉強になるんですが、やっぱり小説書くのが大好きなんです。だから、ここで入口が開けるといいなと。
 今回の『ヴァーチャル霊能者K』でも、刊行に際して人物の細かい設定やイメージを作り直して整えてみたりしてますし、続編をどうにでも創れるようにはしてありますから、もし求めてくれている方がいるなら地続きの作品も実現させてみたいです。
 あとはせっかくJBOOKSというレーベルからのデビューですので、ノベライズの仕事とかもやっていきたいです。脚本もクビにならずに続いていけば、集英社さんとは長いお付き合いになりそうですね。そうなるともう、やりたいこともやることも山積みです。
 ――ということで、明日も、元気で、がんばるぞ、おう!


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