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【試し読み】君のことが大大大大大好きな100人の彼女 番外恋物語 ~ シークレットラブストーリー ~

『君のことが大大大大大好きな100人の彼女 番外恋物語 ~ シークレットラブストーリー ~』発売を記念して、本編冒頭の試し読みを公開させていただきます。


あらすじ

TVアニメ化も決定!週刊ヤングジャンプの大人気連載『君のことが大大大大大好きな100人の彼女』初のノベライズ作品が登場!
恋太郎が24時間で彼女たちと個別デートしたり、記憶喪失になったり、さらには凪乃が宇宙人に乗っ取られたり、巨大ロボットが襲来してみんなで立ち向かったりと、小説でしか読めないエピソードが満載!
さらにカバー、ピンナップ、挿絵は野澤先生描き下ろしという必見の内容です!

それでは物語をお楽しみください。

第一話 密着! 愛城恋太郎二十四時!!

 愛城あいじょうれんろう、十五歳。彼は現在、ウキウキとした様子で街を歩いていた。
 これから、愛おしくて愛おしくてたまらない彼女とのデートなのだ。
 今回は、そんな彼の一日を追ってみよう。

【土曜・午前9時】
「お待たせ羽香里はかりっ!」
 待ち合わせ場所である商店街の時計台前、恋太郎は先に着いていた女性へと駆け寄る。
「ふふっ、全然待ってないので大丈夫ですよ」
 そう言って甘やかに微笑ほほえむ彼女の名は、花園はなぞの羽香里。
 恋太郎の、『彼女』である。
 羽香里は、ちょっと息を荒らげる恋太郎の顔をジーッと凝視する。
「……? 俺の顔に、何か付いてる?」
 疑問符混じりにほおく恋太郎。
「今日も世界一格好いい恋太郎君の眉と目とお鼻とお口が付いてますっ♥」
「ん゙んっ……!」
 可憐なスマイルに、心臓が爆発したかと思った恋太郎は思わず自らの胸を押さえる。なお心臓はしっかり鼓動を刻んでおり、爆発してはいなかった。この程度で爆発していては、愛城恋太郎の心臓は務まらないのである。
「じゃあ、行こうか」
「っ、はいっ!」
 恋太郎が自然に羽香里の手を取って歩き始めると、少し声をねさせた後に羽香里もキュッと握り返してくる。小さく、柔らかな感触が愛おしい。
 そのまま歩くことしばし、辿り着いた先は猫カフェだった。
「この間初めて来たんですけど、推しを見つけちゃったんですよっ」
 という羽香里のリクエストに添ってやってきた形である。
「あっ、ほら早速来てくれましたっ!」
 案内された席につくと、すぐに一匹の猫が羽香里の膝の上に跳び乗ってきた。
「見てください、恋太郎君にそっくり~!」
「そ、そうかな……?」
 本人はあまりピンときていない様子だが、その猫の凜々りりしい眉や力強い瞳は確かに恋太郎を彷彿ほうふつとさせるものである。
「よしよ~し」
 優しい手付きで、羽香里は猫の背中をでていく。
 その様を、恋太郎もまた優しい瞳で見守りながら。
「な、なんか俺が撫でられてるみたいでちょっと照れるな……」
 先程の羽香里の言葉から連想しているのか、少し赤くなった自らの頰を搔く。
「ふふっ」
 そんな彼氏の行動に、羽香里はちょっとイタズラっぽく笑って身を乗り出した。
「こっちも、よしよ~し」
「!」
 対面に座る羽香里に頭を撫でられ、恋太郎は一瞬身を固くする。けれどすぐに、羽香里のするがままに身を委ねた。恋太郎のツンツン髪を羽香里の細い指がいていく、少しくすぐったい感触。お互い何も言わず。この時間を楽しんでいた時だった。
「きゃっ?」
 羽香里の体勢が変わったせいか、膝の上の猫もまた動いた……羽香里の、スカートの中へと。そして、羽香里の内腿うちももをペロリと舐める。
「やんっ♥ もう、イタズラっ子さんなんですから……!」
 可愛かわいい声の後にイタズラ猫を捕獲し、ツンとそのおでこを撫でる羽香里だった。

 と、表面上はギリギリ体裁を保っていた羽香里だが……その脳内はといえば。
(あへへへへへへへへへへへへへへへ)
 あへへへへへへへへへへへへへへへであった。
(恋太郎君に似た猫ちゃんに舐められちゃったということはそれはもう恋太郎君に舐められたも同義ではむしろ恋太郎君に舐められちゃった気がしてきましたあぁむしろ今も舐められているような恋太郎君もっと舐めてくれていいんですよ色んなところをどこでも!)
 妄想はグングン膨らんでいき、今や羽香里の脳内恋太郎は羽香里のいけないところまで舐めちゃっていた。羽香里の頰は上気してきて息も荒く、心臓はトクトクトクトクと早鐘のように脈打っている。その胸のつんとした隆起が下着にこすれる度に、漏れそうになる声を抑えるのに必死だった。そして、彼女の濡れそぼる蜜《これ以上描写すると本屋さんで置かれるコーナーが変わっちゃうので削除されました》

【土曜・正午】
 この後はお稽古の時間だという羽香里と別れ、恋太郎は次の待ち合わせ先である動物園の前へ。すると、そこには既に金髪ツインテールの少女が待っていた。
「お待たせ、唐音からねっ」
「別に、あんたを待ってたわけじゃないんだからねっ!」
 早速ツンデレを発揮する彼女の名は、院田いんだ唐音。
 恋太郎の、『彼女』である。
「それじゃ、行こっか」
 流石さすがにもう慣れたもので、恋太郎は「全然待ってないから気にしないで」と脳内変換して動物園の入場口の方へと歩き始める。同時に、唐音の手を取った。
「っ……」
 唐音は一瞬身を固くしたものの。
「……ふんっ」
 少し赤くなった顔を逸らすだけで、決して拒みはしなかった。

 そうして、園内では。
「ふんっ……ドッシリとした重量感が強そうで、古代生物みたいな見るからに硬そうな皮膚が格好いいかもねっ」
「そうだね、サイは強そうで格好いいよね」
「ふんっ……ペタペタ歩く姿が可愛いし泳ぐ姿はシャープで綺麗なんじゃないのっ」
「ペンギンって、ホント水陸両面で魅力があるよね」
「ふんっ……もっしゃもしゃ笹を食べてるとことか歩いてる姿とか、ぬいぐるみが動いてるみたいで愛らしいだけなんだからっ」
「パンダの可愛さは、宇宙人か何かの介入を疑うレベルだよね」
 そんな感じで、動物相手にはツン成分も控えめな唐音をニコニコ見守る恋太郎という構図がそれぞれの檻の前で展開されていた。
「あっ、触れ合いコーナーだ。唐音、行ってみない?」
「あんたがどうしてもって言うなら、行ってもいいけど!」
「うん、どうしても行きたいんだ! 行こう行こう!」
 恋太郎の提案ではあるが、実際には唐音の視線が触れ合いコーナーの看板に釘付けになっているのを見て促した形である。唐音もそれには気付いており、素直になれない自分をさりげなくフォローしてくれるところにキュンとしていた。
「おーっ、ウサギさんだ! 抱っこしていいんだって! ほら、唐音も!」
「ふんっ……」
 恋太郎に勧められて仕方なく、といったていで唐音はウサギを抱き上げる。けれどその手付きは慎重で、繊細で……抱き上げた瞬間、パァッと瞳が輝く。
「ふわっふわで、もこもこで……」
「うん、可愛いな」
「ヒクヒク動く鼻が可愛いし、よく聞くと『ぶうぶう』って言ってるのも面白くて……」
「うん、可愛いな」
「ほんのり香る草の匂いがたまらない……」
「うん、可愛いな」
「……だなんて、思ってないんだからね!」
 動物相手でもデレが過ぎたのか、ツンと唐音はウサギから顔を逸らす。
 結果、恋太郎の方を見ることになり……バッチリと目が合って。
「うん、可愛いな」
「んなっ……!?」
 先程から恋太郎が、ずっと唐音を見ながら「可愛い」と言っていたことを知る。
「ウサギも可愛いけど、ウサギを可愛がる唐音も銀河一可愛いよ。ずっと見ていたい」
「ななっ……!?」
 恋太郎のストレートな物言いに、唐音の顔が真っ赤に染まっていく。そして、ついには限界を迎えたのだろう。恋太郎に正面からギュッと抱きつく。
「う、嬉しい……」
 ここまでなら、彼女としての素直な行動なのだが。
 見る見る、その腕に力がもっていき……。
「だなんて、思ってないんだからね!」
「彼女との触れ合いコーナーありがとうございます!」
 ベアハッグの形になっちゃうのが、実に唐音であった。

【土曜・午後3時】
 この後は友人との約束があるという唐音と別れた恋太郎は、次の待ち合わせ場所である図書館に向かう。建物の前では、小柄な少女がソワソワした様子でたたずんでいた。
「お待たせ、しずかちゃんっ」
「……!」
 声に反応して恋太郎の方に顔を向けると、連動して癖っ毛もピョンと跳ねて可愛い。
「『私も、今到着したところだ』」
 スマートフォンのテキスト読み上げアプリによって物語の文章を己の言葉の代わりに喋らせる彼女の名は、好本よしもと静。
 恋太郎の、『彼女』である。
「『いざ行かん』『桃源郷シャングリラ』」
 ニコニコ笑う彼女と共に、館内へ。
「今月の新刊で、何かオススメってあるかな?」
「『任せるが良い』」
 新刊コーナーで尋ねると、静はぴょこぴょこ行き来しながらオススメの新刊を指差していく。その姿に、出会った当初も似たようなことがあったなぁと恋太郎はクスリと笑った。そして、今オススメされたものは全部借りようとタイトルを頭に叩き込むのだった。
「流石、詳しいね」
「『たしなむ程度だがね』」
 恋太郎の褒め言葉に、静はテレテレとちょっと頰を赤くする。
 それからふと、静の視線が横へと逸れた。小説の隣、漫画の新刊コーナーだ。
「この図書館は漫画も置いてあるんだね……おっ、これ新刊出てたんだ」
 同じくそちらを見た恋太郎は、追っているシリーズの新刊を何気なく手に取った。
「『それが、そなたのお気に入りか?』」
 静が、恋太郎の手にする漫画に興味深げな視線を注ぐ。
「うん、これが面白くって。大人の男女の恋を描いてるんだけど、二人共普段は社会人として凄く優秀なのに恋のこととなると中学生みたいになっちゃって可愛いんだよね」
 恋太郎の説明に、静は相槌代わりにコクコクと何度もうなずいた。
「最初の方の巻は……借りられちゃってるか。良ければ、今度俺のを貸そうか?」
「『ありがたき幸せ』」
 約束を取り付け、静も嬉しそうだ。
「でも、漫画にも興味があったんだね?」
 静が読むのは、もっぱら小説だ。漫画も読まないわけではないのだろうが、あまり読んでいるイメージはなかった。そう思って尋ねると、静はなぜかちょっと恥ずかしそうに顔を伏せる。そして、そのまま操作したスマホから読み上げられたのは。
「『好きな方の、好きな』〝ものは、好きになりたいと思ったのだった〟」
 という健気な言葉で、恋太郎は「んっ……!」と心臓を押さえた。
「『他にも勧めがあれば』『読んでみたいものだな』」
「そうだな……読みたいジャンルとかあるかな?」
「『恋の話なんて、良いのではなくて?』」
「任せてよ! 一時期めちゃめちゃ恋愛系の漫画読んでたから!」
 その理由については、恋愛について勉強するためという意味合いも強かった。結局活かされることなく、中学までに告白一〇〇連敗を記録するわけだが……今日この日のためだったと思えば、報われる思いだった。
「これは高校生のピュアな恋が凄く尊い漫画でね! こっちは、すれ違いが笑えるんだけど恋愛面も凄くドキドキするやつで! あっ、これも外せないよね! ザ・王道を行く俺様系カレとのちょっと強引な恋愛! それに……」
 次々に紹介していく中でふと、恋太郎は棚差しされたとある漫画のタイトルに目を向けた。恋太郎自身は、まだ読んだことのないものだったが。
(あっ……これ、さっき羽香里が面白いって言ってたやつだな)
 猫カフェでの雑談で出てきたタイトルで、何気なくそれを手に取ってみると。
『!?』
 いわゆる、ティーンズラブと呼ばれているジャンルなのだろう。表紙には半裸の男女が煽情的に絡み合う姿が描かれており、恋太郎は反射的に棚に戻した。静に、あまり刺激的なものを見せるのはまずいと思ったためである。
「ははっ……今のは、俺たちにはまだちょっと早いかもしれないね」
 赤くなった顔でコクコクと何度も頷き返してくる静は羽香里と同じ年齢であり、ちょっと刺激的な漫画を読んでいても全くおかしくないお年頃なのだが。
 それを指摘する者は、この場に誰もいなかった。

【土曜・午後6時】
 今日の夕飯は家族で食べる約束だという静と別れた恋太郎の今度の行き先は、プラネタリウム。恋太郎が到着するのと同時に、向こうの角から待ち合わせ相手も現れた。
「流石は凪乃なの、待ち合わせ時間ピッタリだね」
「全員が待ち合わせ時間丁度に到着するのが最効率」
 効率を求める美しい少女の名は、栄逢えいあい凪乃。
 恋太郎の、『彼女』である。
「それじゃ、そろそろ上映時間だから早速入ろう」
 コクリと頷く凪乃と共に入館し、受付を済ませ。
「ここ、ペアシートで見られるんだよね」
 恋太郎と凪乃は、大きなシートに並んで寝転がった。
「身体を動かさず映像が流れていくのを見るだけのデートは効率的」
「そういう理由でプラネタリムを選んだわけではないけどね……おっ、始まるみたいだ」
 恋太郎が微苦笑を浮かべる中、照明が落ちて天井に映像が流れ始める。
 星座に関する解説と共に、それを興味深く眺めること数十分。
 プラネタリムを出た凪乃の一言目は。
「不条理……」
 であった。
「どれもそんな形には見えない。や座がかろうじて矢の形に見えた程度。ただ二つの星を結んだだけのこいぬ座に至っては直線座などに改名すべき」
「ははっ……まぁ確かに、星座ってそういうのが多いよね」
「命名者は慢性的な徹夜状態だった可能性が高い」
「だからといって幻覚的なもので見たわけではないと思うけどね!?」
「もしくは悪ふざけで付けたら思ったより広まって引っ込みが付かなくなった可能性も」
「現代においてもちょいちょい発生するやつだけども!」
 なんとなく予想はしていたが、星座について凪乃は全く納得出来ていない様子だった。
「えっと……ごめん、楽しくなかったかな?」
 そんな姿に、恋太郎はふと少し不安になって尋ねる。
「? 楽しかったに決まってる」
 けれど、凪乃は本当に当たり前のようにそう返してくれた。
「愛城恋太郎と一緒ならどこで何をしていても楽しいから」
 真っ直ぐ目を見つめながらの台詞せりふに、恋太郎の心臓がトゥンクとときめく。
「俺も凪乃と一緒ならどこで何をしていても楽しいし、何なら一緒じゃない時だってエア凪乃を幻視してるから楽しいよ!」
「イマジナリーな私は私ではない」
 恋太郎のはちきれる想いの吐露に、凪乃から冷静にツッコミが入った。
 とその時、凪乃が身体をブルリと震わせる。
「あっ、ごめん気付かなくて! 日が暮れると寒くなってくるよね!」
 恋太郎は迷いなく自らが着ている上着を脱いで、凪乃の肩に掛けた。
「愛城恋太郎は平気?」
「こういう時用に着てきた上着だから、大丈夫!」
 恋太郎は親指を立て、腕まくりしてみせる。
「ありがとう……」
 凪乃は上着に袖を通しながら、襟の辺りに顔を当ててスンッと鼻を鳴らした。
「あれっ、なんか変な匂いでも付いてたかな……!?」
 慌てて尋ねる恋太郎に対して、凪乃は首を横に振る。
「愛城恋太郎の匂いがするだけ」
 少し頰が赤くなったその顔から、決してネガティブな意味ではないだろう。
「そ、そう……」
 なんだか妙に照れくさくて、恋太郎はそっと上空へと視線を逸らした。特に何かの意図があったわけではないが、すっかり暗くなった夜空には幾つもの星がまたたいていて……。
「あっ、ほら見て凪乃! あの位置の星って……」
「……さっきプラネタリウムで解説されていた」
 少し声を弾ませた恋太郎が指差す方に、凪乃も目を向け意図に気付いたようだ。
「直線座」
「こいぬ座ね!?」
 二つの星を結ぶと、こいぬの姿に……あまり見えない星座が、輝いているのだった。

【土曜・午後9時】
 勉強の時間だと帰宅する凪乃と別れた恋太郎は、次の待ち合わせ場所である公園へと駆けていった。
「恋太郎ーっ! こっちなのだーっ!」
 恋太郎の姿を見つけて嬉しそうにブンブン手を振る少女の名は、薬膳楠莉やくぜんくすり
 恋太郎の、『彼女』である。
「すみません楠莉先輩、お待たせしちゃいましたか?」
「楠莉も今来たとこだから大丈夫なのだ!」
 八歳程度にしか見えないが、れっきとした高校三年生。恋太郎にとっては年上彼女だ。
「楠莉、今日のために持ってきたやつがあるのだ~。楠莉の~、手作りの~」
 楠莉は持っている鞄をゴソゴソと探る。この流れは、手作りのお弁当……ではなく。
「薬なのだ!」
「わぁい、楠莉先輩手作りの薬だ~!」
 取り出されたのは、試験管に入った薬品だった。楠莉は様々な薬を研究開発しており、その効果の種類は多岐にわたる。
「これは、『公園が一〇〇倍楽しくなる薬』なのだ!」
「へぇ、凄いですね! 飲むと、どういう風になるんですか?」
 ここまでは、素直に感心の面持ちだった恋太郎だが。
「めちゃめちゃ気分がハイになって、幻覚が見えたりするのだ!」
「念のため確認なんですけどそれ大丈夫なやつなんですよね!?」
 大丈夫じゃない感じの説明を聞いて、思わずちょっと声が荒ぶった。
「今の出版社、そういうとこ厳しいんですから! しまってしまって!」
「ちぇー」
 恋太郎に言われ、楠莉は渋々といった様子で薬を鞄の中に戻した。
「薬がなくても楽しいですよ! ほら、ブランコとか!」
「おーっ! 夜の公園ってなんかテンション上がるのだーっ!」
 恋太郎が率先してブランコを漕ぐと、楠莉も目を輝かせてそれに続く。
 そして二人は、公園の遊具をエンジョイしていった。ブランコを全力で漕ぎ、ターザンロープで滑走し、ジャングルジムで追いかけっこした後は、二人で平和に滑り台を滑ったりも。はしゃぐ楠莉を見ていると恋太郎も楽しくて、童心に返ったような気分だ。
「次はシーソーなのだーっ!」
 と、テンションも高くシーソーに座る楠莉に続いて恋太郎が反対側に腰を下ろすが。
「……まぁ、こうなりますよね」
 体重のバランス的に恋太郎の方に一方的に傾いてしまい、思わず苦笑が漏れた。
「なら、『打ち消しの薬』を飲むのだ!」
 試験管を取り出した楠莉は、グイーッとその中身をあおる。するとムクムクムクッと身体が成長していき、瞬く間に豊満な体つきの女性へと変貌した。
 これが楠莉の本来の姿である。『不老不死の薬』の失敗作の影響で普段は八歳程度の肉体になっており、それを打ち消す薬を飲んだ時だけこの姿に戻るのだ。
 こちらの姿ならば恋太郎とのウェイト差も子供の姿の時程ではなく、シーソーでも普通に遊ぶことが出来るだろう……が、しかし。
「……高校生にもなってシーソーで遊ぶというのはどうなのだね」
「あっ、やっぱりこっちの姿だとそう思うんですね!?」
 髪をまとめ、眼鏡をかける楠莉は頰を少し染め恥ずかしそうだった。
 メンタルも肉体に引っ張られるらしく、今の彼女は見た目相応の精神性である。
「それより」
 立ち上がった楠莉は、恋太郎の方へと歩み寄り……その際に、チラリと横を見た。
「夜の公園は……別の楽しみ方もあるのだね」
 恋太郎も視線の先を追うと、茂みの方でイチャついているカップルの姿が目に入る。
「あっ、えっと……」
 既に楠莉はシーソーに座る恋太郎の目の前。更に身体を傾け、顔を近づけてくる。間近に感じられる大人の色香に、恋太郎がドギマギしながら固まっていると……。
 チュッ、と。恋太郎のひたいに、楠莉が口づけた。
「今日のところはこれくらいにしておくのだよ」
 なんて、イタズラっぽく微笑む楠莉。子供の楠莉は無邪気で愛らしいが、こちらの楠莉は大人びて美しい。どちらも魅力的だなぁと、改めて実感する恋太郎なのだった。
「……『公園が一〇〇倍楽しくなる薬』を飲めば、今の姿でもシーソーを楽しめるかも」
「よりヤバい絵面になる気しかしないんで絶対やめてくださいね!?」
 こういう言動も、魅力の一つなのである……恋太郎にとっては。


読んでいただきありがとうございました。
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