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【試し読み】『僕のヒーローアカデミア 雄英白書 桜』

本日10月4日に『僕のヒーローアカデミア 雄英白書 桜』発売になりました!!
発売を記念して、本編冒頭の試し読みを公開させていただきます。

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あらすじ

節分――春のおとずれを祝う行事。 私たちA組の授業で行われた豆まき対決で、鬼役の爆豪ちゃんと人質役のエリちゃんとの距離を縮めようと、色んな作戦を考えたの。 けど、爆豪ちゃんの機嫌がみるみると...。 小説版もみんなで"Plus Ultra"!!


それでは物語をお楽しみください。

PART.1 泣かない赤鬼?

 国の要請で再開されたインターンで、ヒーロー科の生徒たちはそれぞれヒーロー事務所に赴き、個人、そしてチームプレイとメキメキと力をつけていた。
 そんななか、特殊刑務所タルタロスに収監されていたヴィラン連合の黒霧くろぎりが、やプレゼント・マイクと友人だった、白雲朧しらくもおぼろの死体をもとに作られていたことが判明した。
 警察からの求めで対面した二人の呼びかけで黒霧から得られた情報により、敵連合改め超常解放戦線ちょうじょうかいほうせんせんに潜入捜査していたホークスが〝個性〟強化中の死柄木弔しがらきとむらの居場所を特定した。それにより、水面下で超常解放戦線を一網打尽にするべくヒーロー及びヒーロー科生徒を数に入れた大規模な作戦が練られようとしていた。

 そして、季節は二月。
 桜が咲くにはまだ寒さが厳しい月の頭にある季節の行事、それは節分である。
 地方によってそれぞれ違いはあるが、一般的には、「鬼は外、福は内」と言いながら鬼に豆をぶつけて退治する。
 古来より鬼は日本人にとって身近なものだ。豆まきに、鬼ごっこ、ことわざ。童謡でも歌われ、最近では鬼から電話がかかってくるアプリなどもある。それほどまでに鬼が浸透している要因の一つとして、読み聞かせの定番、『桃太郎』がある。桃から生まれた桃太郎が、おともの犬と猿とキジを引き連れ、悪さをする鬼を退治するのだ。
 鬼退治といえば、桃太郎なのである。
「──というわけで、今日は鬼チームと桃太郎チームに分かれて対決をしてもらいます」
 そう言った相澤の前にいる全員ジャージ姿のA組は、「おお~」と感嘆の声をあげた。もちろん授業なので真剣にやるが、対決となるとどこかゲーム感覚になるのは否めない。
 それに、ここの施設も盛りあげるのに一役買っていた。
 広い空間の中央に小高い山があり、それを取り囲むように森が広がっている。ところどころゴツゴツとした岩が転がっていて、隠れるにしても奇襲をかけるにしてもよさそうなポイントがゴロゴロある。
 生徒たちが浮かれる前に、相澤はサッとボックスを差し出した。
「中に鬼のクジと桃太郎のクジが入ってる。さっさと引け」
 それぞれクジを引きに相澤のもとへ集まるが、面倒くさそうにやってきた爆豪勝己ばくごうかつきに相澤が言う。
「爆豪、お前は引かなくていい。鬼チームだ」
「あ?」
 一人だけそう言われ訝しむ爆豪に、近くにいた上鳴電気かみなりでんきがププーッと吹き出す。
「爆豪、鬼っぽいもんなー!」
「んだと、コラ!」
「理由はあとだ」
 不満そうな爆豪だったが、相澤に言われてしかたなく引き下がる。その間に全員がクジを引き、チーム分けが決まった。
 桃太郎チームは、緑谷出久みどりやいずく麗日うららか茶子ちゃこ蛙吹梅雨あすいつゆ峰田実みねたみのる、上鳴、耳郎響香じろうきょうか瀬呂範太せろはんた芦戸三奈あしどみな尾白猿夫おじろましらお葉隠透はがくれとおる砂藤力道さとうりきどう口田甲司こうだこうじ
 鬼チームは、爆豪、轟焦凍とどろきしょうと常闇踏陰とこやみふみかげ飯田天哉いいだてんや障子目蔵しょうじめぞう切島鋭児郎きりしまえいじろう八百万百やおよろずもも青山優雅あおやまゆうが
「先生! チーム対決にしては人数に差がありますが!?」
「それは圧倒的に桃太郎チームのほうが不利だからだ。今、説明する」
 バッと手をあげた飯田を制して、相澤は桃太郎チームに豆サイズの玉を一人三粒、鬼チームに棍棒を一人一本ずつ渡していった。
「桃太郎チームは鬼に棍棒を当てられたら失格、鬼チームは桃太郎に豆を三回当てられたら失格。豆は一度当てたら終わりではなく、手元にある限りは何度でも使用可能だ。そして、鬼チームの勝利は、桃太郎を全滅させること。桃太郎チームの勝利は、鬼に捕らえられた人質を救出することだ」
「人質?」
 きょとんとする出久たちに相澤が山の頂上を見ながら言う。
「人質役はエリちゃんにしてもらう。あの山の頂上の小屋で人質として捕まっている設定だ。いいか、両チームとも、エリちゃんには本物の人質として接するように」
「………?」
 相澤の視線が最後に自分に止まり、爆豪は違和感に眉を寄せる。そんな爆豪を見たまま相澤は続けた。
「爆豪、お前には特別課題を出す。この授業中エリちゃんと少しでも仲よくなるように」
「……はぁ!?」
 理解に時間がかかったのか、爆豪は少し間を置いて目を見開き驚く。驚いたのは爆豪以外のA組の面々も同様だった。
「今回は人質をとる側だが、これから先、幼児救出の任務もあるかもしれないだろう。そんなとき、幼児に心を開かせることは任務の成否にもかかってくる重要なことだ」
「……っ、んなもん、さっさと救出しちまえばいいだけ──」
「仮に敵の目を盗んで救出する状況だったとして、強引に連れ出されたら幼児にとって、お前は敵と変わらない存在になる。泣かれでもして敵に気づかれたら、幼児を守りながらの戦闘だ。ヒーローにとって最優先するべきは救出者の安全だ。わかるな?」
 有無を言わせない相澤の眼力に、爆豪はぐッとおし黙るしかなかった。
「……では、一〇分後に鬼チームは小屋から、桃太郎チームは森の前からスタートだ。全員配置につけ」
 相澤の言葉に、それぞれのチームが分かれて移動を開始する。
 苛立ちを隠さずズンズンと山を登っていく爆豪に切島が駆け寄って言った。
「爆豪、すげえ課題出されたな。俺も協力するから、エリちゃんと仲よくなろうぜ!」
 飯田たちもそのあとに続いてやってくる。
「もちろんみんなで協力しよう!」
「でも、どうすれば爆豪さんがエリちゃんと仲よくなれるのか……」
 とてつもなく難しい課題に八百万が頬に手を当てながら考えこむ。その後ろで常闇と障子が言った。
「爆豪と幼女……まさに鬼門」
「確かに」
 想像もできない難問に、切島たちが眉を寄せる。そんなみんなの様子を見て、一番後ろにいた青山が言った。
「まずはキラキラの笑顔じゃない? ほら、ボクと緑谷くんみたいに☆」
 その言葉に轟が思い出したように口を開く。
「緑谷はその子と仲いいからな。緑谷を参考にすればいいんじゃねえか?」
「あぁ!? デクが俺を参考にすることはあっても、その逆は天地がひっくり返ってもねえわ!! 頭わいてんのか!」
 一方、森の前へ移動しながら、桃太郎チームも爆豪の特別課題のことを心配していた。
「かっちゃんがエリちゃんと……? 大丈夫かなぁ……?」
 うう~んと考えこむ出久に、お茶子も心配そうに同意する。
「エリちゃんにいつもみたく怒鳴ったりしないといいけど~……っ」
「爆豪ちゃんもそのへんは気をつけるんじゃないかしら? あ、でも、ほかのみんなに怒鳴ってるのをエリちゃんが見て、怖がっちゃうってこともあるわね……」
 梅雨が口の下に指を当てて、困ったように言う。
「いやー、仲よくなるのは普通にムリだろ!」
「先生も残酷な課題出したもんだぜ……」
 ハナからあきらめているような上鳴と峰田に、あきれたように耳郎が言った。
「爆豪の課題が心配なのはわかるけど、とりあえず今はエリちゃんの救出でしょ」
 その言葉に、みんなの顔が引き締まる。出久が頷いた。
「とりあえず、どうやって攻めるか話し合おう」

「ひ、人質役のエリです、よろしくお願いします」
 頂上の小屋に着いた鬼チームは、中で待っていたエリに緊張気味に挨拶された。
「おう! エリちゃん、よろしくな」
「よろしくお願いいたしますわね」
 切島はエリの救出作戦のとき参加していた縁もあり、親しみがわいている。八百万はお茶子たちとともに何度か教師寮に行ったことがあった。だが、ほかの面々はエリの事情をくんだりなどして、面識がある程度だった。
 緊張して手をぎゅうっと握りしめているエリの様子に、轟、青山はいつもどおりマイペースだったが、飯田や常闇や障子は少し緊張が移ったように改まる。
「…………」
 そんなみんなの後ろで爆豪はしかめた顔でエリを見ていた。その視線に気づいたエリが、少し驚いたように肩をすくめる。
「──チッ」
 爆豪が思わず舌打ちをする。それは課題の面倒くささに対してのものだったが、そんなことがわかるはずもなく、エリがビクッとする。
「爆豪くん、女児の前で舌打ちなどっ」
「うるせえな」
 飯田の注意に爆豪はいつもよりおとなしめに返す。だが、ふだん、教師寮での先生たちはエリの前では粗暴な言動はもちろん控えているので、爆豪の言動はエリにとってわずかな恐怖を感じてしまうものだった。
 不穏な空気に、爆豪以外の鬼チームがとまどうように目線を合わせたそのとき、スタートを知らせるブザーが鳴り響いた。切島が少し心配そうにしながらも爆豪に声をかける。
「…………とりあえず、爆豪はエリちゃんの見張りだな!」
「……あぁ!?」
「……えっ」
 ほぼ同時に驚いた爆豪とエリが互いに顔を見合わせ、気まずそうに目をそらした。

 ブザーが鳴ったあと、桃太郎チームはそれぞれが山を囲むように分かれ、頂上を目指す作戦をとっていた。高低差がある戦いは、当然低いほうが不利になる。まとまっているところを攻められ全滅させられるより、誰か一人でもたどり着くほうを選択した。
「…………」
 山道の途中で、突然落ちていた枝がパキッと折れた。次の瞬間、岩陰に身を潜めていた障子が現れる。
「葉隠、そこだな?」
「えっ!?」
 隠密行動において右に出る者はいない葉隠が、突然名前を呼ばれて思わず声をあげてしまう。しまったと口を閉じ、あわてて逃げようとするが、障子の複製腕ふくせいわんの耳は枝や葉っぱを踏んだ音を聞き逃さず葉隠の位置を特定し追い詰めた。
「もう逃げられないぞ、葉隠」
「~っ、こうなったらっ」
 葉隠が口の中に隠していた豆をそのまま障子にぶつけようと吹き出した。だが、障子はそれを複製腕の手ですべてキャッチしながら、葉隠に棍棒を当てた。
『葉隠、アウト』
 施設内のカメラで確認している相澤の声がスピーカーから響く。ちなみに、アウトになった生徒は激カワ据置プリズンに入れられる。
「もう~っ、絶対みつからないと思ったのに~!」
 がっくりする葉隠に障子が言う。
「誰が通っても音がするように、さりげなく枝や葉を撒いておいた」
 そのころ、瀬呂は木々の間をぬうようにテープを伸ばしながら移動していた。なるべく最短距離で小屋へ着こうと移動していたが、真っ向から飯田が駆け下りてくる。
「飯田っ?」
「うおおおおっ、俺は鬼だぞぉー!!」
 棍棒をふりかざして迫りくる飯田に、瀬呂がとっさに方向転換し、すんでで避ける。だが飯田はそのスピードを落とさず、木々の間を抜け瀬呂のもとへ。瀬呂もテープを使って飛びながら避け豆を放つが、飯田がそれを駿足でかわし、当てることができない。その隙に死角から棍棒を当てられてしまった。
『瀬呂、アウト』
 相澤の声に、山の中腹までやってきていた尾白が「二人アウトか……」と顔をしかめる。そのとき、正面から棍棒を肩に担いだ切島がやってきた。
「ここから先は通さねえぞ」
 ニッと笑う切島に、尾白が苦笑しつつ身構える。
「……正面突破か」
 切島と尾白が真っ向からぶつかっている頃、その反対側から頂上を目指している出久が、同じく頂上を目指し移動していた梅雨と合流していた。
「今のところ、アウトになったのは透ちゃんと瀬呂ちゃんね」
「うん。頂上に近くなればなるほど遭遇する確率が上がる……ここから先は──」
 気をつけないと、と言おうとしたそのとき、出久と梅雨を囲むように氷壁が現れた。
「余裕だな、緑谷」
「!」
 前方から氷結で滑りながらやってきた轟が、出久に棍棒を向ける。梅雨がとっさに出久を舌で巻いて避けた。
「ありがとうっ、あすっ…梅雨ちゃん!」
「いいのよ」
 手強い鬼の登場に、出久と梅雨は身構える。「先に行って!」と出久が梅雨に声をかけて、梅雨から距離をとるべく駆けだす。
 その間に梅雨も離れようとするが、轟は梅雨を氷結で囲んで足止めをし、すぐさま出久を追う。そして出久の前に氷壁を出し、滑り戻ってくる出久めがけて棍棒を振り下ろす。出久は振り返りざま、豆を指で弾き轟を狙った。だが、棍棒で防がれる。久しぶりの対戦に、二人は子どものようにニヤッと笑った。
「氷壁……轟くんか」
「交戦してるのは……たぶん、緑谷っぽいな」
 移動していたお茶子と耳郎が少し離れた場所に現れた氷壁に気づく。二人も途中で合流したばかりだった。
「とりあえず、小屋だね」と耳郎が周囲を気にしながら、慎重に頂上を目指し、動きだそうとしたそのとき。
「麗日っ、誰か来る」
 耳郎が誰かが近づいてくる音と、何かカチャカチャする音を察知し、二人はサッと岩陰に身を隠す。
(この足音……ヤオモモ? それにこの音……何か持ってる?)
 そう推理した耳郎は、小声でそれをお茶子に告げる。息を潜めている二人に八百万がまっすぐ近づいてくる。完全に位置がバレていると悟った耳郎はお茶子とアイコンタクトして、岩の両側から同時に豆を投げることにした。八百万が岩の近くまで来たタイミングを狙い、二人が同時に投げるその直前、カチッと何かのスイッチを入れたような音がしたあと、ブォォンと重低音が響いた。
「「えっ!?」」
 二人の投げた豆が、八百万が肩から下げている掃除機に吸いこまれていった。唖然とする二人に八百万が笑みを見せる。
「超強力掃除機ですわ。これで豆を回収します」
 一瞬、たじろいだ耳郎とお茶子だったが、八百万からそれぞれ距離を取り身構える。
「そんなの担いでたら防戦一方だよ」
「ええ、ですから攻撃は任せましたの」
 お茶子に応えた八百万の上空に、黒影ダークシャドウに抱えられ飛行してくる常闇が現れた。
「任されたゾー!」
 黒影と常闇の手には棍棒が握られている。
「ちょっ、ま……!」
 あわてる耳郎とお茶子に、黒影と常闇の棍棒が迫る。とっさに逃げる二人だったが、このままではラチがあかないと豆を投げた。だがそれも掃除機に吸い取られてしまった。
 お茶子の顔が歪む。
「やっばい……!」

 みなが激しい攻防戦を繰り広げるなか、爆豪とエリのいる小屋は沈黙に包まれていた。
 相澤から出された課題は、とてつもなく矛盾した難題である。
 本当の人質としてエリに接しろということは、爆豪もまた鬼役として接することを意味する。なのに、鬼が人質と仲よくなれとは矛盾も矛盾だ。
(ストックホルム症候群にでもさせろってか!? なに考えてやがる……っ!!!)
 ストックホルム症候群とは、敵と長時間行動をともにする異常なストレスのなか、敵に連帯感や好意を抱く現象である。
 ふだんであれば不満を爆発させている爆豪だったが、そんなことをすれば課題達成から遠のくであろうことはさっきのエリの反応で学習している。不満は心の中だけに収めたが、表情まで制御できないのはご愛敬だ。
 それに、爆豪も課題自体は一理くらいはあると渋々納得はしていた。ならば、矛盾ごと呑みこむしかない。
「…………」
 しかし、課題をクリアするための解決策は見当たらない。爆豪は基本、なんでもすぐにこなせる天才型だが、気を遣わなければならない相手とのコミュニケーション術は未知の世界だ。
(──ガキと何話せっつーんだ!)
 そんなとき、さっきの轟の言葉が蘇った。
『緑谷はその子と仲いいからな。緑谷を参考にすればいいんじゃねえか?』
「クソがぁっ!!」
 思わず叫んだ爆豪に、エリがビクッと驚く。爆豪は制御できなかった自分とムカつく幼馴染に舌打ちした。
 絶対に参考にしたくない幼馴染が、気を遣わなければならない相手とのコミュニケーションに長けていると気づいてしまったからだ。身近な参考材料として、これ以上のものはない。けれど、長年染みついたプライドが顔に出る。
「っ!?」
 その鬼のような形相にエリが気づき、本当の人質のように震えあがりながら手をぎゅうっと握りしめた。
 そんなことに気づきもせず、爆豪はまたチッと舌打ちする。
(アイツを参考になんかしねえ……俺は俺のやり方でいく)
 爆豪は考える。
 鬼役として接しながら、子どもの心を開かせる方法を。
(…………そんなもん、あるかぁ!)
 だいたい、鬼役ってなんだ、と心のなかでツッコミながら、爆豪はそっちの路線に早々と見切りをつけた。ならば自分が子どもの頃、人質になったらと仮定することにした。
 子どもの頃、人質になったとして、敵にどう接してこられたら心を開く?
「……~~~っ」
 爆豪は何度も人質になった自分を想像してみたが、何度やっても敵を倒す想像しかできなかった。
(だいたい、敵に心を開く人質なんかいるわけねえだろ)
 万が一、敵と行動をともにしなければならない異常な状況下でも本物の愛情が芽生えるかもしれない可能性があるのは否定できない。けれど、目的を遂げるために、誰かの命を盾にするような相手に心を開くのは、自分を軽んじる行為だ。
(そんなもん、ただのバカだ)
 そう結論づけて、爆豪は頭をガシガシと掻きながら次のプランを考える。短い時間であれこれ考えに考えて……そして、重い口を開いた。
「………………好きな食べ物は何だ」
「……え? ……リ、リンゴです……」
 考え抜いた結果、巡り巡って、一番無難な質問にたどり着いてしまった爆豪だった。
 とまどいながら答えたエリの顔には、どうしてそんなことを訊かれたんだろうという疑問と、そんな質問をしてきた爆豪への不信感が募っていくのがありありとわかる。
(……ただの不審者じゃねえか……っ)
 爆豪は、自分が間違えたことを悟り、とてつもなく険しい顔で頭を抱えた。

 上空からの常闇と黒影の襲撃に、お茶子、耳郎、芦戸、尾白がアウトになってしまった。桃太郎チームで残っているのは、出久、梅雨、上鳴、峰田、砂藤、口田の五人だ。対して、鬼チームは未だ誰一人アウトになっていない。
 いったん退いた桃太郎チームは、事前に決めておいた死角になっている麓の集合場所に集まっていた。
「もう半分アウトになっちまったし、豆は少ねーし……どうする?」
「このままじゃエリちゃん救う前に全滅しちまうよー!」
 深刻な砂藤と上鳴に、梅雨も考えこみながら口を開く。
「少ない豆でアウトにするには、一人一人確実に狙うほうがいいのかしら……?」
 その言葉に出久が頷き、ブツブツと考えこんだ。
「エリちゃん救出を最優先にしたいけど……絶対、鬼チームは攻撃してくるだろうし……やっぱり避けては通れないよね……」
「緑谷、なんか案あんの?」
 峰田に訊かれ、出久はみんなを見回し、そっと口を開いた。

 一方、いったん小屋に戻った鬼チームは、心配が当たっていたことを知った。
 爆豪はこれ以上ないほど苦虫を嚙みつぶしたような顔でこちらをにらんできて、エリは小屋の隅で本物の人質のようにビクついている。仲よくなるどころか、最悪な雰囲気が漂っていた。
 ここは俺がどうにかしなければ、と委員長として飯田が一歩前に出た。
「エリちゃん君! 爆豪くんはこう見えていいところもあるんだ! なぁみんな!」

*この続きは製品版でお楽しみください。


読んでいただきありがとうございました。

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