【難】意味が分かると怖い話(ストーカー){後編}

陽奈「この写真の人なんだけど」
光「ああ、見たことあるよ。隣のクラスの、えー、名前は何だっけな?ちょっと待って、そうそう、海堂 実(かいどう みのる)って人だ。」
陽奈「よかった、やっと知っている人見つけたよ」

山野 美沙さんの元彼候補になっている人を見つけることができた。学校から帰って山陵学院の知り合いに片っ端から電話をかけること5件目でようやくだ。時刻は既に12時を回っていたが、何とか明日には間に合いそうだ。

陽奈「この人のことで何か知ってることはない?」
光「うーん、友達から聞いた話だけどこの人、不登校らしいよ」
陽奈「不登校?」
光「もう結構長いこと来てないみたいだよ。私も2年になってから見たことないなー」
陽奈「その人って、どんな人だったか分かる?」
光「こういうこと言うのもあれだけど、あんまりいい評判じゃなかったよ。どこにでもいる不良ってかんじ。結構悪い先輩とつるんでたみたいで同じクラスでもそんなに仲良い人とかいなかったんじゃないかなー?」
陽奈「そうなんだ...。」

そうなると、どうしてその海堂って人は美沙さんと会う時に制服を着てたんだろ?もしかして、親には学校に行くと嘘をついて美沙さんと会ってたとか?そんなことを考えていた。

光「何か気になることでもあった?」
陽奈「あ、ううん?大丈夫!」
光「まあ、もし何か気になることがあったらいつでも電話して大丈夫だよ」
陽奈「こんな遅い時間までありがとね!」
光「いえいえ、私も久しぶりに陽奈と話せて楽しかったよ」

とりあえず、元彼の情報は手に入ったし、淳君にチャットだけ入れてそのまま布団に入ることにした。

陽奈「今日は色々あったな。おじさんのお見舞いに美沙さんの相談、美沙さんの元彼の調査と。一体明日からどうなるんだろう?」

意外と疲れていたみたいだ。気がついていたら私は眼を閉じていた。

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淳「やっぱり、被害届けはなかったんですね?」
保村(刑事)「はい、もっとも相談に来たけど届けは出さない場合もありますから、絶対とはいえないですが。届出をみるかぎりそれっぽいのはないみたいです」
淳「ありがとうございます」

山野先輩の相談を受けた際、以前お世話になった保村刑事にここ二週間くらいでストーカー被害の相談がきていないかを相談していたのだが、やはり警察には相談はいってないみたいだ。そもそもこのストーカー事件を見ず知らずの学生に相談していること自体おかしな話である。

淳「それと、二週間前に起きた事件って何かありましたか?」
保村「ああ、それなら1件ありましたよ。商店街の店舗にバイクが突っ込んだって事件で、丁度二週間前の夜に発生したんです。犯人は海堂 実さんって方なんですが身分を証明するものがなく身元の特定に時間が掛かっているみたいです。また被害者は町内会の会長をしている、矢野 健三さんって方です。被害者に大きな怪我はなかったみたいですが、突っ込んできたバイクに驚いて腰を打ち現在入院中、逆に被疑者の方が怪我を負ったみたいで未だ意識不明らしいです。」
淳「被疑者の方が?」
保村「はい、事故が起きた時間帯は既に店のフェンスも閉まっていて、そこに突っ込んだみたいですよ」
淳「まあ、自業自得ですね」
保村「で、この事件がさっきのストーカー事件と何か関わりがあるんですか?」
淳「さあ、それは分かりませんが。ただ警察に相談できない内容だとしたら、他の事件から糸口が見つかるかもしれないと思って聞いただけです」
保村「私としては、あまり内部情報を外に出したくないんですが。それより、情報の取り扱いには気をつけて下さいよ!神宮寺警視から協力するように言われているから相談には乗ってますが、基本的には持ち出しNGですし、ばれたら私も神宮寺警視もまずいんですから」
淳「分かってますよ。誰にも話さないんで心配しないでください」
保村「それと、あんまり危険なことに首をつっこまないように!」
淳「大丈夫ですよ。そういうのを止める人は他にもいるんで」
保村「そうですか。それはいい友達を持ちましたね」

友達...。その言葉に違和感を覚えた。別に仲が悪いわけではない。ただ、友達というほど仲が良いわけでもない。あくまで、二人は真藤 為を追うための隠蓑にすぎないし、二人を個人的なことに巻き込むつもりもない。きっと、卒業したら縁もなくなるだろう。もしかしたら一時の思い出として残るかもしれないが、それも時間とともに色褪せていくだろう。そもそも二人と僕は違う目的で動いてるんだから、その思い出さえも僕とは異なるものになる。それならいっそ中途半端に思い出なんて残さない方がいいのかもしれない。友達なんて枠組みは今もこれからもただの足かせにしかならないんじゃないか、そんな不毛をことを思いながら保村刑事との通話を切った。

淳「ん、結城さんからチャット?」

電話を終えたスマートフォンの画面を見ると、結城さんからチャットがきていることに気がついた。内容は山野さんの元彼が海堂さんということ、素行はよくなく最近は学校にもきていないということが書かれており、最後にどうして内の高校で目撃された海堂さんが制服を着ていたのかという疑問が書かれていた。

淳「これは大当たりだな」

丁度二週間前に起きた事件の犯人が依頼人の恋人、それなら全体の流れに一応の説明はつく。
例えば、山野さんは海堂さんと別れたがっていたが、束縛が強すぎて言い出せなかった。そんな時に、海堂さんが事故を起こしたことを知った。この機会を逃すまいと山野さんは海堂さんから逃げだそうとしたが、海堂さんの不良仲間にそのことがばれ、ストーカー行為を受けて逃げることができなくなってしまい、僕たちに相談をした。こんな筋書きなら一応成り立つだろう。もっとも、山野さんの学校に来ていたという嘘の証言についてはまだ説明がつかないが…。

一先ず、今日起きたことをベッドの上で整理して明日に臨むことにした。

淳「さて、始めるか」

僕は海堂 実が通う山陵学院に足を運んだ。一応早朝にも事故の現場である例の八百屋にも現場検証のつもりでいってみたが、バイクが衝突したであろうフェンスに人がくぐれそうなくらいの穴が空いていたくらいで他に目新しい情報もなかったので早々に拠点を移すことにした。健三さんの方は陽奈が知り合いとのことなので、そちらは任せてこちらは海堂 実の行方を追うことにした。

淳「すいません、ちょっといいですか?」
生徒1「はい?なんですか?」
淳「ここの生徒で探している人がいるんですが、海堂 実って人ご存知ですか?」

僕はもらってた写真を登校中の生徒に見せた。

生徒1「うーん、知らないですね。この人にどんな用事があるんですか?」
淳「いえ、大した用事じゃないんですが、ちょっと知り合いの友人みたいでね。その知り合いが最近海堂さんと連絡が取れなくなって心配だから探して欲しいって頼まれたんですよ。何か事故に巻き込まれたんじゃないかって。結構やんちゃしてる人みたいですので。」
生徒1「そうなんですね。お力になれなくてすいません」
淳「いえ、こちらこそ引き止めてしまってごめんなさい。あ、もし何か思い出したこととかあればこちらの連絡先に教えてもらえると助かります」

そうして連絡先を渡して一人目の聞き込みを終えた。ランダムに登校中の人に声をかけたところで有益な情報を得られる可能性は低いが、「同じ学校の生徒が何か事故に巻き込まれた」可能性があると、噂にでもなれば海堂 実を知っている人から何かしらのアクションがあるだろう。また悪いイメージの噂話は勝手に学内の悪いイメージを持つ人たちと結び付けられる。人気アイドルが自殺すると陰謀論が流れたり、今回の場合だと彼と交友関係のあった不良グループが噂話に関係があるんじゃないかと生徒達が思ってくれれば、彼の仲間から直接連絡が来るかもしれない。それに期待薄だが、もしかしたら普通に海堂 実を知っている人にあたる可能性もある。我ながら効率的なやり方とは思えないが、他の方法も思いつかないので手当たり次第に登校中に声をかけていく。

生徒「海堂さんですか、知ってますよ。その人内のクラスの人なので」
淳「え、彼のことを知っているんですか?」
生徒「はい、海堂くんとは1年の時も同じクラスだったので。でも2年になってから登校してないから最近は顔を見てないですけど。」
淳「登校していないんですか??」

知っている情報だが、いかにも初めて知りましたよという雰囲気をだして相槌を打った。そうすれば勝手に知っていることを全て話してくれるんじゃないかと期待して聞き手に徹する。

生徒「はい、内の学校の不良グループの人と付き合い始めてからですね。」
淳「不良グループ?」
生徒「はい、昼間は学校の授業をサボって、夜中に街で騒いでるみたいですよ。別に暴力沙汰になってるとかそういうのじゃないみたいですけど、普通の学生から見ると、まあ、あまり関わりたくない人達って感じですね」
淳「そうなんですね。ちなみに海堂さんはいつ頃から学校に来なくなったかって覚えてますか?」
生徒「うーん、あまりちゃんと覚えてないですね。1月くらいから徐々にこなくなった気がしますけど...。まあ、進級してるんで後期の中くらいまではちゃんと来てたと思いますよ」
淳「あー、確かに、後期始まって早々来なくなってたら出席日数が足りなくて留年してるはずですもんね」
生徒「まあ、でも2年になってからは一度も見てないですけどね。」
淳「学校に来てた頃の海堂さんってどんな人でしたか?例えばクラスの中心人物だったとか、一人でいることの方が多かったとか」
生徒「仲のいい友達は何人かいたみたいですよ。でも別に目立つタイプってわけじゃなくて、どちらかというと大人しくて真面目なイメージだったかな。だから、不良グループと一緒にいるって聞いたときは結構驚いたかも」
淳「真面目な感じの人だったんですね。そんな人がどうして不良グループの人達と連むようになったんだろ?」
生徒「さあ?それは本人しか分からないことだしね。ただその噂がでてから、クラス内では少し浮き始めてたかも。段々とクラスに居場所がなくなってきてより、不良グループと一緒にいるのが楽になってきたっていうのはあるかもしれないですね」

そう話しながら、表情が少し曇ったのが分かった。自分達の噂話が多少なりとも海堂 実の不登校を助長してしまったことに罪悪感を感じたのだろうか?一先ずここで感傷に浸られて話が終わってしまうのも困るので直ぐに話題を切り替えた。

淳「ところで海堂さんがよく一緒にいたっていう不良の方達について何か知ってますか?」
生徒「あー、確か3年の竹本先輩って人が取り仕切ってる5、6人くらいのグループだったと思いますよ。竹本先輩って、学年でも悪い方の評判があって未成年なのに飲酒やタバコやってたり、夜に無免許でバイクを乗り回したりとか、とにかく評判が悪かったんですよ。どうして退学にならないのか不思議なくらい。中心はその竹本さんって人でそれに憧れた取り巻きが何人かいるって感じのグループですね」
淳「その竹本さんって人普段どこにいるか知ってますか?」
生徒「さあ?そこまでは分からないけど、学校の体育感の倉庫裏を溜まり場にしているって聞いたことありますよ。生徒達の間では放課後あそこには近づかない方がいいって有名なので」
淳「じゃあ、そこにいってみます」
生徒「待ってください。今の話聞いてましたか?」
淳「はい、学校の体育倉庫の裏側に竹本さんがいらっしゃるんでしょう?」
生徒「いや!その後!近づかない方がいいって方!」
淳「ちょっと話を聞くだけですので、大事にはならないでしょう」

そういうと、話を聞いてくれてる生徒さんはコミカメを人差し指でグリグリしながら困った顔をしていた。

生徒「まあ、別にいいんですけどあまり問題を起こさないでくださいね...。」
淳「善処しますよ」

心ない返答なのは自覚していたが、やはりまだ不安を覚えているようだった。今度は少し強く目を瞑ったあと上をむいて「うーん」と少しうなりながら決心したように言った。

生徒「一応何かあった時のために私の連絡先をお伝えしますので、困ったらここに連絡ください」

そういうと、スマートホンを取り出して連絡先の交換を行った。この話相手の名前は風見 爽(かざみ そう)という名前らしい。名前のとおり風が似合いそうな茶色の短髪が特徴の少し低身長な女性で、何となく短距離が早そうな見た目である。トップ画の写真も自身が競技場で走っているところを切り抜いているものだったので陸上をやっているのは間違ってないだろう。

爽「私は風紀委員をやっているので学内の揉め事はなるべく起こさないようにしてください。本当は他の学校の人を校舎にいれるのもNGなんですけど同じクラスの海堂くんについて調べてくれているみたいだから見ない振りをするだけなんですからね。ちゃんと何があったかは報告してくだいさいね」
淳「了解しましたー」

風紀委員なのか。どちらかというと廊下を走り回って風紀委員に怒られる側かと思ってたが、それはそっと胸にしまっておいた。
風紀委員の爽さんとはお別れをした後は何人かに話を聞いてみたが特に有益な情報もなかったので一旦放課後までは近くのカフェで時間をつぶすことにした。

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健三「そうじゃ、この人じゃ!」
陽奈「やっぱりそうだったんだ。ちなみに事故があった時にこの人以外に人はいなかった?」
健三「いなかったと思うぞ。少なくとも事故があった後に彼の周りに駆け寄った人はいなかったのー」

実からの情報で美沙さんの元彼が海堂さんということが分かったが、一方で当の本人は病院で入院中ということも淳くんから連絡があったことで、美沙さんのストーカーの犯人が海堂さんでないことも明らかになった。一応海堂さんにはよく一緒に行動している友人がいるみたいだが、そっちは淳くんの方で調べてくれるそうだ。私は健三さんの事件の方を調べることを頼まれた。淳くんは二つの事件は何かしら繋がっていると考えているみたいだ。なので、こうして放課後に二日連続で健三さんの入院先に訪れたのである。

陽奈「じゃあもう一回整理すると、夜中にバイクの音が五月蠅くて目が覚めてしまったので、何となく下の皆に降りたらいきなりバイクがフェンスを突き破って店に入ってきた。で、それに驚いた健三おじさんは腰を打ったと」
健三「そうじゃ、その海堂?というやつが乗ってたバイクも勢い余って店の中のものを壊していきおった!こちらとしては営業妨害もいいとこじゃ!」
陽奈「まあ、そこは健三おじさんが無事だったことが不幸中の幸いってことでしょ!で、その後家の人が事故の音に気がついて救急車を呼んで海堂さんとおじいさんを病院まで運んだんですね?」
健三「そうじゃ。まあその海堂と言うやつも同じ病院にいるみたいじゃがな。そやつ、一言も謝りに来んかと思ったら、同じ病院でまだ入院しとるみたいじゃな!しかし二週間経っても親御さんからも謝罪が来ないとはどういうことじゃ!?普通直ぐにくるじゃろ?陽奈ちゃんもそう思うじゃろ?」
陽奈「そうですよね...」

淳くんからの情報では海堂さんは事故にあった直後身元を証明するものがなかったみたいだから両親にも連絡がいってないのだろう。しかし、両親は警察に届出をだしたりしてないのだろうか?海堂さんの生活習慣は知らないが、子供が二週間も連絡なければ警察に届けて、そこから身元が割れそうなものなのだが...。
その後は健三さんの事件の愚痴などを聞いていたが、昼休みが終わることを理由に病室を後にした。その帰り道に淳くんに報告も兼ねて電話をいれた。

陽奈「やっぱり他に人いなかったって。」
淳「なるほどな。他に何か気になることとかあった?」
陽奈「あと、海堂さんの両親、健三さんのところに謝罪に来てないみたいだよ。私は淳くんから聞いてたから知ってたけど、多分警察がまだ海堂さんの身分の特定ができてないからだよね?ご両親は警察に被害届けとかだしてなかったのかな?」
淳「ああ、そこについてはさっき知り合いの刑事さんに聞いたよ。海堂さんのご両親、警察に相談にいってたみたいだよ。ただ、普段から帰らないことも多い人だったみたいだし、しっかりとした捜査はなかったみたいだ。家出人の中にも直ぐに捜査が行われる【特異行方不明者】に該当しないって説明されたみたいだよ。その結果事故の犯人と捜索願いがでてる人物との関連性に気が付けなかったみたいだな。もっとも海堂さんは事故当日名前すらわからなかったみたいだから、例え特異行方不明だとしても身元がわかったかどうかは半々だと思うけどね」
陽奈「じゃあ、直ぐにご両親と警察に伝えた方がいいんじゃない?」
淳「まあ、そうなんだけど、ちょっと警察の方は待ってくれないか?」
陽奈「どうして?」
淳「念のためにこっちで警察の力を借りたいんだよね。ただ、僕の知っている人の管轄と山陵学院の管轄は異なるからさ。まあ簡単にいうと交渉材料に海堂さんの身元の情報を使っちゃったんだよね」
陽奈「ねえ、昨日も聞こうと思ったんだけど淳くんどうして警察の人とそんなに仲いいの?普通の学生は警察と交渉なんてしないよ?」
淳「まあ、それについては追々ってことで。あと、このことは絶対に誰にも言ったらだめだからな?」
陽奈「はあ、まあ今回のところは詮索しないであげる。というか私だってできれば知りたくなかったんだから誰かに言うなんてことはしないよ。ところで、警察の力が必要ってどういうこと?」
淳「ああ、それは健三さんの事件の調査だよ」
陽奈「ん?どういうこと?淳くんはストーカー事件の方を調査してるんじゃないの?」
淳「まあ、詳しいことは後で話すよ。そっちもそろそろ午後の授業がはじまるんじゃない?」

そういわれて時間を確認して、意外と時間が経過していることに気がついた。結局お昼ごはんは食べそびれてしまった。午後の授業に支障がでないか心配だ。体育がないのが不幸中の幸いと思うことにする。

陽奈「うーん、なんか上手くやり込められてる気がするな...」
淳「別にそんなつもりはないよ。まあ結城さんのおかげで大分全体像がみえてきたよ」
陽奈「え?もう犯人分かったの?」
淳「それは、まだだよ。不良グループの人とまだ話せてないし」
陽奈「なーんだ、思わせぶりなこと言って淳くんも分かってないんじゃん」
淳「まあ、重要なのは犯人を見つけることじゃなくて、ストーカーを辞めさせることだからな。そういう意味では進んでいると思うよ」

私の頭はハテナマークで埋め尽くされた。ストーカーを辞めさせるために犯人を探しているんじゃないのか?それとも他に方法があるのか?

陽奈「うーん、よく分からないな〜。とりあえず犯人が分かったらちゃんと教えてね!」
淳「分かってるよ。とりあえず本格的に4限が始まりそうだしそろそろ切るよ」
陽奈「はーい、じゃあまたね」

淳くんとの通話を切った私は急いで教室に戻った。授業中は案の定お腹が鳴り周りからいじられることになった。事情を知っていた智春くんがパンを取っておいてくれなかったら5限は絶対に持たなかっただろう。淳くん、許すまじ。

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淳「あー、よかった。今日はいたみたいですね」
??「誰だお前?」
淳「まあ、誰だっていいじゃないですか。あなた達の友達の海堂さんについてちょっと聞きたいことがあるんですよ。竹本先輩?」
竹本「どうして俺の名前を知っているんだ?」
淳「竹本さん、この学校では有名人ですので。まあ3人のうち誰が竹本さんなのかは今分かったんですけどね。」

竹本さんはムッとした表情でこっちを見返したと思ったら、僕の胸ぐらを掴んできた。

竹本「なめてんのか?お前なんかに話すことはねーよ。これ以上痛い目見たくなければ帰りな!」
淳「タバコに恫喝と、未成年といってもばれたら退学は免れないですよ」
竹本「は、そうだとしてもお前の口を封じれば問題ないだろう」
淳「まあ、口を封じるのは簡単ですよ。暴力に頼らずとも海堂さんのことを話してくれれば今見たことは言わないので。竹本さん達にも友人の居場所が分かるチャンスですし、お互いにとって悪い話じゃないでしょ?」
竹本「お前、海堂の居場所を知っているのか?」

こういう道から外れている人の方が、仲間意識が強いとどこかで聞いたことがあるが案外間違ってないのかもしれない。海堂さんの居場所に反応した。一応何かあったときのために保村刑事には近くにいてもらってるし、通話も繋げていたのだが、この調子なら出番はなさそうだ。

淳「もちろん、知ってます。僕の質問に答えてくれれば直ぐに教えますよ」
竹本「...なんだ」
淳「海堂さん、去年の12月頃からあなた方と一緒にいるようになったと聞いたんですが、きっかけは何ですか?」
竹本「さあな、そんなことは忘れたよ。ただ俺らみたいに学校の授業についていけなくなったり、友達がいないやつが自然とここに集まるようになったんだ。あいつもクラスに居場所がなくて集まってきたくちだよ」
淳「じゃあ、もう一つ、海堂さんと最後に会ったのはいつですか?そしてそのとき何か彼に変わったところとかありませんでした?」
竹本「最後にあったのはもう四ヶ月以上前だな。あいつ彼女ができてから付き合いが悪くなったんだよ。まあ、来なくなるのはあいつの勝手だが、俺らに何も言わずにいなくなるのは気にいらねーから教室まで行ったんだがどうやら学校にもきてねーとのことよ。だから俺らはそれ以降については知らねーよ」

今が5月中旬だから1月くらいから海堂さんは来なくなったということか。
頭の中で時系列を整理する。大体1月くらいに海堂さんに彼女ができて、同時期に海堂さんは学校に来なくなった。そして二週間前に海堂さんは事故に遭って、その直後に美沙さんはストーカーに遭ったわけだ。頭の中で時系列を考えながら竹本さんと話を続ける。

淳「彼女さんについては何か聞いてますか?」
竹本「さあな、だが聞いた話だと結構独占欲が強かったみたいだぜ。最初の方は俺らとの付き合いもあったが、その時も彼女がいることを理由にいち早く家に帰ってたからな」
淳「まあ、それなら単純にそれだけ彼女を大切にしてたと思えなくもないですけど...」
竹本「まあそうだな。俺も自分達の行動が褒められた行動をしていないことは自覚しているさ。俺らみたいな外れもの、縁が切れるなら切った方がいい。だが、あいつが学校に来なくなった理由に俺らのチームを巻き込まないでほしいね。あいつが来なくなったときには俺らのチームにも来なくなってたからな」

どうやら最後のが本音らしい。噂に聞く限りだとただの迷惑集団なのかと思っていたが、彼は彼なりに居場所のない人たちの拠り所になろうとしていたのだ。だから、別に海堂がチームから抜けたこと自体はそれほど怒ってはない。ただ、謂れのない濡れ衣を着せられることには我慢ならないとのことらしい。実際チームの中ではリーダとして信頼されているみたいだ。実際に僕が来た時も最初は各々好き勝手話していたが、いざ竹本さんが一言発すると他の人たちは口を閉じて真剣な顔を竹本さんに向けていた。案外芯の通った男みたいだ。こういう人の方が案外仲間にしやすい。

淳「なるほど、あなたが海堂さんの居場所を探しているの仲間のためなんですね」
竹本「まあ、そうだな」
淳「だったら僕と協力しませんか?」
竹本「協力?」
淳「ええ、僕はある事件を追っていた関係で海堂さんの居場所を知っています。この情報を使えば、海堂さんが来なくなった理由についてあなた方が無関係なことを証明できます。その情報と引き換えに竹本さんの連絡先を教えていただければ大丈夫です」
竹本「俺を利用しようというのか?」
淳「察しがいいですね。まあそういうことです。別に僕からの連絡を取るかどうかはあなた次第ですし、デメリットはほとんどないと思いますよ?」
竹本「ちっ、まあいいだろう。」

こうして竹本と連絡先を交換することに成功した。

淳「じゃあ、僕からも彼の居場所をお伝えいたしますね。」

連絡先の交換を終えると僕は、海堂さんが二週間前にバイクで事故を起こしており、入院していることを伝えた。

竹本「バイクか...」
淳「なにか心当たりがあるんですか?」
竹本「まあな、丁度二週間前に俺が持っているバイクがこの前盗まれたんだよ。鍵は俺らのチームの人なら誰でも持ち出せるんだが、あいつが持って行ってたとしたら納得がいく」
淳「そう言えば警察の人はバイクから購入者を割り出せなかったといってましたが、あのバイクは正規品じゃないですよね?」
竹本「まあ、そういうのが得意な人がいるんだよ」
淳「ふーん、まあ今回のことと関係ないからどうでもいいですが。ところで竹本さん、この人に何か心当たりはありますか?」

そういって、スマホから美沙さんの写真を見せた。

竹本「?だれだ、こいつは?お前ら見たことあるか?」

竹本さんは他の仲間に写真を回したが誰も知らないようだった。一応全員の表情を確認したが竹本さん含め本当にだれも知らないようだ。

淳「その人が海堂さんの彼女です。やっぱりご存知なかったですか」
竹本「まあ、顔は見たことなかったからな。知ってたら教室だけじゃなくて、彼女のところにも行ってたに違いない」
淳「まあ、そうですよね」

最初は竹本さん達がチームを裏切った海堂の居場所を探すために、美沙さんのストーカーを行っているのかと思ったが話した限りその可能性は低そうだ。彼らならそんな回りくどいことはしないだろう。となると残った可能性は...

淳「最後に聞かせてください。竹本さんってこの方をご存知ですか?」
竹本「ん?ああ、こいつなら知っているな。お前と同じで海堂が学校に来なくなってから俺らに話を聞きにきたやつだ。ここの学校の生徒じゃ俺らに話かけるなんて相当勇気が必要だっただろうに。あいつもいい女を逃したな」
淳「なるほど、じゃあもしかして海堂さんに彼女ができたって話もしたんですか?」
竹本「ああ、したよ。大体お前に話したことは言ったな。そうしたら青い顔をしてどっか行っちまったよ」
淳「それっていつくらい?」
竹本「あいつが学校に来なくなったくらいだから四ヶ月くらい前か?」
淳「なるほど、ありがとうございます」
竹本「ふん、これで十分か?探偵さん?」
淳「ええ、これで事件は解決できそうですよ」

竹本と別れた後、僕は保村刑事と繋ぎっぱなしだった電話を手に取った。

淳「そちらはどうでした?」
保村「淳くんの想像通り、学校には親御さんから相談がきてたよ。学校から地域の警察に連絡はいってたみたいだが...。こちらと管轄が違うことと海堂さんが事故時に身分証を持っていなかったことが原因で本人の特定に時間がかかってしまったよ。これは捜査における今後の課題だな...。」
淳「全くです。そもそも警察がもっと早く被疑者の身元を特定してくれればこんな事件はきっと起きなかったんですよ?」
保村「面目ないです。お詫びといってはなんだが淳くんから依頼のあった人について分かりましたよ」
淳「どうでした?」
保村「海堂さんとは兄弟みたいですね。名字が違うのは両親が再婚したからみたいです。これについては学校側も認知していましたね」
淳「兄弟ってのは意外でしたね。まあ何かしら関係があるとは思ってましたが...」
保村「それよりも、非正規品を売っている業者について気になりますね」
淳「ああ、聞いていたんですね。まあ、僕にとってあんまり関係ないことなので、そこは警察の方で対応お願いいたします」
保村「で、淳くんはこの後どうするの?」
淳「まあ、犯人は分かったんですが、証拠がないですからね。それに個人的に動機も気になりますし」
保村「まあ、心配はしないが無茶しないことと、何かあったら直ぐに連絡くださいね」
淳「了解です」

こうして保村さんから聞いた情報を踏まえて再度思考を整理して、一本の電話を入れて山陵学園での調査を終えた。


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陽奈「で?何か分かったの?」
淳「まあ、運良く犯人にはたどり着けたよ。あと概ね事件の全体像も分かった。」

山陵学院での調査を終え、学校に戻ったら早々に結城さんに見つかり調査の報告を求められた既に時間は19時を過ぎており、報告は明日でもいいかと思ってたところで結城さんに見つかりそのまま部室に連行されたのである。別に逃げるつもりはなかったのだが、結果として結城さんに連れてこられたという形になってしまった。

陽奈「淳くんは調査の結果を踏まえてはこの事件どういう風に見てるの?」
淳「今回の事件は一言でいうとストーカ事件ではなく行方不明者の捜索だったんだ」
陽奈・智春「どういうこと??」

部室にいる陽奈と智春から疑問の声が上がった。二人とも山陵学院に行った僕を少なからず心配して残っていてくれたらしい。ちなみに部長の灰崎さんは自分には関係ないといって既にご帰宅されたみたいだ。

淳「まず前提として、美沙さんのストーカー事件の犯人は元彼の海堂さんではないということ。ここは認識あってるよね?」
智春「ああ、もちろんだ。彼は健三さんの店にバイクで突っ込んで現在入院中だからな」
淳「ああ、そうだ。そして、そのことを美沙さんは知ってたんじゃないかな?だからストーカーの犯人候補から元彼の海堂さんは外れていたんだ」
智春「確かにそれだと美沙さんの中で海堂さんをストーカーではないとする理由にはなるが、それだと結局誰が犯人かという疑問に戻ってくるのではないか?」
淳「ああ、美沙さんも当然そう思ったはずだ。一体誰がこんなことをしているのか?美沙さんも怖かったと思うよ。海堂さん以外の誰かが自分の身の回りを調べていて、しかも最悪なことにストーカーは自分と海堂さんの関係を知っている可能性があるみたいだしな。だから僕たちに相談しにきたんだろう」
陽奈「どういうこと?ストーカーが怖いことは分かるけど、海堂さんとの関係を知っていることについては別に最悪ではなくない?本人達は隠してたみたいだけど私たちの学校でも噂になってるくらいだし」

陽奈は当然の疑問を投げかけてきた。

淳「それについては後で話すよ。それよりも先に犯人の方から説明するね。昨日の情報をまとめると、犯人の条件の一つは美沙さんと海堂さんの関係を知っている人というのは確定だったが、それともう一つ、海堂さんが何らかの事件に巻き込まれた可能性があることを知ってたもしくはそれを予想できた人だと思ったんだ」
陽奈「どうして犯人は海堂さんが事故に巻き込まれたことを予想できたと思ったの?」
淳「ストーカーが起きたタイミングが丁度事故が発生した時期と一致してたからだよ。勿論偶然の可能性もあったけど、ストーカーにとって美沙さんの彼氏が事故にあったの知って行動に移したと考えるのは自然だからね」
智春「確かに一番の強敵がいなくなった今がチャンスと考えてストーカー行為に及んだと考えられなくもないな」
陽奈「男性ってそういうものなの?」

陽奈は少し白い目で見ていたが、僕と智春は二人で普通はそんなことはしないと弁明しておいた。

淳「だから昨日の聞き込みでは海堂さんが事故に遭ったことを知っている人がいないかをチェックしてたわけだけど運良く見つけられた」

そう言って、二人に風見 爽さんの写真を見せた。

陽奈「この人が美沙さんを尾けてた人なの?」
淳「ああ、そうだ。風見 爽さんって名前なんだけど、彼女がストーカーの正体だ。さっき連絡とって全て話してもらったよ」
陽奈「でもこの人女性だよ?なんで同性の美沙さんをストーカーなんてしたの?いや、別にそういう趣味を否定してるわけじゃないんだけどもっといい近づき方がありそうだけど...。それにどうしてこの人がストーカーだと思ったの?」
淳「動機については、後で話すとして、まずどうして彼女に疑いを持ったかだ。最初に彼女と話したのは、校門の前で海堂さんについて聞き込みをしていた時だ。最初はただのクラスメイトだと思って話を聞いていたんだが、別れ際に変なことを言っていたことに気づいたんだ」
陽奈「変なこと?」
淳「【他の学校の人を校舎にいれるのもNGなんですけど同じクラスの海堂くんについて調べてくれているみたいだから見ない振りをする】ってね」

風見さんと話した内容の一部始終を伝えたのちに、気になった部分をきりとって二人に話した。結城さんは「どうしてそれが変なことなのだろう?」と疑問を持ったようで、左上の方に視線をそらして、少し考えるそぶりを見せた。一方でその言葉反応したのは智春の方だった。

智春「なるほどな。普通同じクラスの人を外部の人が調べてると分かったら警戒して構内に入れることを許可しないな。勿論写真と名前を見せてるから最初は多少の情報を喋ってしまう人はいるだろう。だが、交友関係を洗って本人を探し出そうとするなんて特別な理由がなければオッケーを出さないだろう。しかも結果を教えて欲しいといって連絡先を交換するくらいだ。少なくとも風見さん本人はただの不登校だとは思ってないと予想がつくな」

智春の解説を聞いて結城さんは納得いったように、「確かに」と言いながら小さく首を何度か縦に振っていた。

陽奈「そっかー、確かに私も知らない人に友達のことを聞かれたとしても話さないなー。何かあったら嫌だし。でもその友達が何かの事件に巻き込まれて行方不明だったら協力して一緒に見つけようとは思っちゃうかも...。一刻も早く見つけてあげたいから...。つまり、その風見さんって人も似たような状況だったってことなんだね」

実際その後の聞き込みでも、ほとんどの人は海堂さんのことを知らないと言っていた。本当に知らない人もいれば、あえて言わない人もいただろう。

淳「そういうこと。とはいってもこの辺りの感覚は個人差もあるからまだ確定ではない。単純にセキュリティ意識が薄いって見方もできるし、どうして海堂さんの事故のことを知ってるかっていう疑問も残ったままだ」
陽奈「確かに...」
淳「まあ、風見さんのセキュリティ意識が低いって話はすぐに否定できたよ。その後で海堂さんとよく一緒にいた竹本さんに風見さんの写真を見せたんだが、風見さん行方が分からなくなった海堂さんを心配してたみたいだったし。その時に竹本さん、風見さんに海堂さんに彼女ができたって話とそれ以来海堂さんとは会わなくなったって話をしたみたいだ。風見さん、二週間前の事故に関係なく四ヶ月前からずっと学校に来なくなった海堂さんを心配してたんだよ。だから海堂さんを探している僕を見て話てくれたんだと思う」
陽奈「なるほどね。でもどうして美沙さんをストーカー・・・ストーカーって言っていいのか分からないけど、尾けはじめたんだろう?しかも丁度事故にあった二週間前って、都合がよくない?海堂さんの事故って警察でも被疑者の身元特定ができてなかったわけだから当然風見さんも知らなかったわけでしょ?」

陽奈の質問に合わせて、今度は智春が質問を被せる。

智春「それともう一つ、風見さんが海堂さんを心配して淳くんに話をしたというのは分かった。だが、それだけだとまだ風見さんがどうして美沙さんを彼女と分かったかについて説明がつかなくないか?」
淳「ああ、確かにね。でもそこは推理する必要はないんだよ」
智春「む?どういうことだ?」
淳「もしストーカーの犯人が風見さんだった場合、動機は間違いなく海堂さんの行方になる訳だ。だったら僕たちは情報を持ってるんだから教えてあげればストーカーは自然と終わるだろ?依頼は犯人の特定だからこれで完遂ってわけ」

その言葉に二人はまだ納得しきれてないようだった。

淳「で、ここにくる前に風見さんと連絡をとって会ってきたんだ。まあ推理はさっきの内容であってた訳だよ。丁度知り合いの刑事から海堂さんと風見さんの関係を聞いてたからね。海堂さんのことを教えたらすぐに自分の犯行だって認めたよ」
陽奈「海堂さんと風見さんの関係?」
淳「ああ、一言でいうと二人は義兄弟みたいだね。お互い親の連れ子みたいで、一緒に暮らしているらしい。学校の教職員から聞き取りしてくれたんだ」
陽奈「つまり?」
淳「動機は兄の所在を心配した妹の犯行だったってこと。ここからは本人から聞いた話だけど、お兄さん、まあ海堂さんのことなんだけど、彼女ができてから家に帰らなくなることは多々あったらしい。でも必ず毎日連絡はあったとのこと。ただ二週間前の事故があった日は、兄から連絡が来なくなったから心配になったそうだ。風見さんは竹本さんからきいた情報で、海堂さんから写真をみせてもらったことがあるらしく、彼女が海原高校の生徒だってことは知ってたみたいだ。だから、まずは話を聞こうとうちの高校に来たらしい。その時に偶然美沙さんのことを見つけて尾けていったらしい」

そこまでいうと一呼吸をおいた。

淳「これで二人の質問の回答になったかな?」

二人は納得したような、してなような煮えつかない表情をしていた。まあ、普通に考えてこれじゃあ納得できないよなとは思っていたが...

陽奈「兄の行方探しだったらまずは警察に行くべきじゃないの?」

まずは結城さんから口火を切った。

淳「ああ、それについては被害届けは出てたみたいだよ。もっとも行方不明届を出したのは海原地区の警察と山陵学院の方だったみたいだけど。もしこの二つが同じ管轄だったら、もし警察が行方不明者を生命の危険があると判断してたら、事故の時に海堂さんが身分が分かるものを持っていたら、警察ももっと早く海堂さんを特定できただろうし、被害者家族として風見さんにも情報が入ってストーカー事件なんて発生しなかっただろうな」
陽奈「そういえば、どうして警察は被疑者を特定できなかったの?」
淳「一言で言うと警察の横の連携がうまく機能しなかったことだな。海原地区の警察はもともと帰ることが少なかった海堂さんについて力をいれて捜査してなかったみたいだし、学校側は山陵学院のある東京の警察に連絡入れてたみたいだから、そこの情報共有がうまく機能しなかったんだろう。それに事故の被害者も身分証をもってなかったわけだから、学校に連絡はいってなかったんだろう。まあこういうことにも備えて普段から真面目にするとか身分証を持っておくとかは教訓にしたほうがいいかもな」
陽奈「うーん、不幸な事故が重なったんだね...」
智春「次は俺からいいか?」

結城さんが一応は納得したとおもったら次は智春のターンだ。多分こっちが本命だろう。結城さんも理解していたみたいで一歩下がった。

智春「美沙さんを尾けたのが海堂さんを知りたいだけなら、どうして手紙を書いたり家に入ったりしたんだ?そこまでする必要はないだろう?」

一呼吸置いて答える。

淳「意地悪な質問をするな...。それは、僕より智春の方が詳しいんじゃないか?少なくとも風見さんはそこまでのことはやってないって言ってたよ」

今回の事件の役割分担だが、僕がストーカー事件を、結城さんがバイク衝突事件を、そして智春が美沙さんの護衛を行なっていた。もちろん当の本人には内緒で。だがら家まで入ることはできなかったので、登下校中や外出時に護衛を行なってもたい、ストーカー事件の犯人を見つけたら捕らえるつもりだった訳だが、当の犯人は昨日、今日というよりは、最初の一週間くらいしか尾けていなかったため智春は不審者を見つけられなかったと言っていた。因みに風見さんも尾行中怪しい人は見つけられなかったみたいだった。

智春「まあ、俺も全てを見ていた訳ではないからな。俺がいない間に仕掛けることは可能だろうが、そうだとすると学生の線はないだろうな。一応休み時間とかも家にいってポストを確認したりはしたがそれらしきものはなかったな」
淳「智春が護衛になった瞬間にストーカー行為が無くなったのか...。となると、やっぱり犯人は…。まだ決めつけるのは早いが、警察ではなく僕たちに依頼が来たことと辻褄があうな」
智春「だが、やっぱり動機が分からないな」
淳「風見さんが言うには、海堂さんの彼女は相当束縛が強かったみたいで、別れたがってたみたいだ。でも弱みを握られて逃げきれなかったみたいだよ。彼女の束縛の強さには竹本さんにも相談していたらしい」
智春「だとしたら、美沙さんは何を隠しているんだ?」

二人の会話に結城さんはポカーンとした表情を浮かべていた。

陽奈「まって、もしかして二人は美沙さんの自作自演を疑ってるってこと?」
淳「ああ、そもそも最初からその可能性は考えてたんだ。PCで書かれた脅迫文と家まで入る手口に違和感があった。確かに筆跡を特定させない効果はあるだろうけど、脅迫文としてはインパクトが欠けると思ったし、その割には家に入るというリスクは犯す。家に入れる人なんて限定されるし、毛髪とかを考えると犯人特定のリスクに繋がる。元彼が犯人なら説明できる部分もあったけど、そうじゃないとしたら犯行の目的に一貫性がない。だから、もしかしたら自作自演の可能性もあると思ってたんだ。本当はそれを確かめるために家に上がり込みたかったんだが、智春でもだめとなるとなおさら怪しく見えるな」
陽奈「だったら私が行けばよかったんじゃない?」
淳「さすがに結城さんをそんな危ない目に合わせられないよ」
陽奈「え?」

結城さんは少しだけ顔を赤らめながら困惑して下を向いてしまった。

陽奈「意外とそういうことも考えてくれてるんだね...」
淳「まあ、極力みんなを危険に巻き込まないように配慮はしているつもりだよ。今回だって結城さんに止められなきゃどんな手段でも家に上がり込んでただろうから」
陽奈「ふん、そんなことはさせませーんだ!」

今度はそっぽを向いてしまった。結城さんは感情がストレートにでるというか、表情がころころ変化して見ていて面白いなと素直に感じた。

淳「話をもとに戻そう。これから話すことは推論の粋を出ない、可能性としてあり得るというレベルの話だ。おそらく美沙さんは海堂さんの例の事故になにかしら関わってるんじゃないかな?」
陽奈「事故に関わってるってどんな風に?」
淳「例えば、二人が美沙さんの家にいるときに何かトラブルがあったとしよう。その結果、海堂さんは慌てて美沙さんの家から出ていき、事故を起こし、行方不明になる。そんな時に自分を尾けてくる人が現れた。美沙さんにとってこのストーカーは、事故について知ってたか知らなかったかは置いといて、海堂さんが行方不明になった原因を作った負い目もあり心理的に負担となっていた。ただ警察に相談するのもハードルが高い。だから僕たちに相談した。これなら一応筋は通ると思うけどどう思う?」
智春「確かに負い目があったから俺たちに相談しにきたというのは納得できるな。自作の理由もただ見られてるだけだと、勘違いだとか、自意識過剰だとか思われたくなくてやってしまったのだろう。だからしっかりと作り込んだりはせず、俺が少し護衛にしただけでボロがでたのだろう」
淳「そうだな。一応依頼は犯人をつきとめるだったから、熱りが冷めたころに海堂さんとの関係あたりは聞きだすつもりだったんだろうけど」
陽奈「じゃあ、結局のところストーカー事件の犯人は海堂さんの妹の風見さんだけど、実際は尾けてただけで手紙とかは美沙さんの自作自演だったってこと?相談を受けた時の印象だと、あの怖がりが演技だとおもえなかったんだけど...」

この質問に対しては現状明確な回答はない。だから少し言い方を考える。

淳「全く恐怖がなかった訳じゃないと思うよ。やっぱり元彼が行方不明になったって知ってたらなんらかの事件に巻き込まれたってことを疑うだろうし、その犯人が海堂さんの関係者である自分を狙ってると思っても不思議じゃない。そう考えたら彼女の演技はある程度仕方ないと思うよ。人間、追い込まれてる時は冷静な判断ができないものだしね」
陽奈「うーん、分からなくはないけど...。そういうものなのかなー」

陽奈は一応言葉では肯定してくれているが、表情はあんまり納得できてない様子だった。美沙さんの動機については、僕たちには想像することしかできない。だが、あの涙が彼女の不安を表していることについては同意している。その恐怖がどこからきているものかについては知る由もない。言った通り、海堂さんが誰かに誘拐か、最悪殺されたと勝手に想像し恐怖しているのか、彼女自身に何か負い目があるのか、もっと別の理由があるのか、それこそ本人だけが知ることだ。ただ個人的にはどんな理由があろうと、勝手に僕たちを巻き込んだ美沙さんに共感するつもりはないわけだが。

淳「まあ、これが僕のこの事件に対する考察だよ。もし特に反対意見がなければ、明日美沙さんに報告に行くけどいい?」

そう尋ねると二人はうなずいて応えてくれた。それぞれ、「お疲れさま」や「さすがだな」と労いの言葉をかけてくれたし、僕も二人の協力に感謝の言葉をかけた。結城さんの提案で、みんなでご飯でも食べに行こうかと言われたが、僕は明日美沙さんへの報告もあるし、智春も流石に疲れていたらしく、打ち上げはまた別日として、その日は解散となった。僕は教室に用事があり、二人より後から部室をでたところで

灰崎「ふん、見事な推理ショーだったな」
淳「聞いていたんですか?流石に性格が悪いんじゃないんですか?」

声をかけてきたのは部長の灰崎さんだった。

灰崎「少し複雑な事件だったようだが、は真藤 為と関係なかったのか?」

その質問に間を開ける。しかし隠してもすぐにバレると思い素直に答えた。

淳「海堂さんの血液検査をしたところ、例の薬の使用が認められたそうです。勿論公にはされてません。さっきの推理では警察の連携不足が原因で海堂さんの特定が遅れたと言いましたが、実際は公安が海堂さんをどこかに隔離したみたいですよ。勿論風見さんには伏せた情報です」
灰崎「なるほど、であれば海堂かもしくは美沙という女のどちらかが真藤 為と繋がっている可能性が高いな」
淳「そうですね。警察も海堂さんの身元が割れて真相に辿り着いたでしょう。明日の朝には美沙さんの家に家宅捜査が入ります」
灰崎「それでは、君に真藤 為の情報は入ってこないんじゃないか?」
淳「既に話は聞いてますよ。これ、録音なんですけど聞きます?」
灰崎「さすが、抜け目がないな。」

そうしてICレコーダーを灰崎に渡した。

灰崎「やっぱり君と手を組んだのは正解だったみたいだな」
淳「この情報をどこまで活かせるかは灰崎さん次第ですよ。今度は僕の期待に応えてくださいね」
灰崎「言われなくても」

二人は視線を合わせてそれぞれ帰路に着いた。

次の日、警察が山野 美沙さんの家に家宅捜査に入ったが、そこで捜査員が見たものは薬付けにされた美沙さんの姿であり、そこにはかつての綺麗な顔立ちはなく、顔は青白くなっており、表情は何かこの世のものでないものを見たような恐ろしい形相で亡くなっていたのだった。





【作者から】
ここまで
書いててご都合主義感を感じましたが、やはり字数が気になって、そのまま押し通してしまいましたw
書き方は色々あると思うんですが、どうやっても字数が伸びてしまうんですよね。。。本作では、登場人物の汗かき度も表現したい一方で、読者がちゃんと推理できるよう、ミステリーの部分では余計なエピソードをいれないようにしてたのですが、そうするとやはり捜査パートがご都合主義になってしまいますね。
この課題についてはこれから書いていく中で違和感を消せるように努力します。
さて、本作について皆さんは真相に辿り着けましたでしょうか?作者としては、読者が自然と事件の真相にたどり着けるように証拠と事件の関連性は細かく出していったつもりなのですが、どうでしたか?
よければご感想いただければ幸いです。


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