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#45 映画『宗方姉妹』を観て

午前十時の映画祭15デジタルで蘇る名作として現在映画館で放映されている小津安二郎監督作『宗方姉妹』を観てきました。小津作品はアマプラで観た『東京物語』に続いて2作目です。

若い頃の私は、評判の良いものを嫌悪していたので、小津作品に近寄ることもなかったのですが、アマプラで観た『東京物語』で、海外でも日本でも評価が高いのは最もだと実感したことから、映画祭の上映作品に加わった本作品は上映を待っていました。

主要な登場男優の、上原謙さん、山村聰さんは、それぞれ1909年と1910年に誕生されています。私が生まれた時には60歳、私がテレビでお見かけして今に記憶が残るのは70代。上原謙さんといえば白髪で、2番目の奥様との結婚離婚で注目
をされている方、山村聰さんといえばスーツに身を包んだ恰幅の良い偉そうな役を演じる方という印象で、the2枚目の動く姿をじっくり拝見できたのは今回が初めてでした。

原節子さん演じる品行方正でありながら、それだけではない、強さを内に秘めた<姉 節子>、高峰秀子さん演じる少し前なら沢尻エリカさんが演じそうな小悪魔的要素を備える<妹 万里子>、山村聰さん演じる失業中の<節子の夫 亮助>、上原謙さん神戸で家具店を営む<節子の初恋相手 田代>、笠智衆さん演じる余命幾ばくもない中、京都で穏やかに暮らす<姉妹の父 忠親>の5人が主要な登場人物です。

節子も田代も自分の気持ちに気づくのが遅かった、ということで、節子は亮助と結婚します。理由は描かれていませんが、亮助は長らく失業し、節子がバーを営み家計を支えています。節子としては、田代は初恋相手であっても体の関係などなく、勿論今でも妻としての矜持を保っている、というスタンスです。それは恐らく事実ではありますが、心の奥底で田代を愛していながらも、品行方正に妻の務めを果たす節子に対して、亮助は強い嫉妬を抱えています。

ある日節子は自分が正しいとする主張をし、それを聞いた亮助は感情が爆発し、節子の頬を5、6発平手打ちします。そこで、節子がこれまで張り詰めていた気持ちがぷつっと途切れ、亮助と別れることを決断します。

田代は節子を受け入れ、二人が結ばれることを節子の父と亮助に話そう、と田代の東京での定宿で話合います。そこに、亮助が駆けつけ、就職が決まった酒を飲もう、注文してくると席を立ち、中居が田代と節子の元にお酒を用意してきました。驚く二人は亮助について尋ねると、既に宿を後にしたと聞かされ、明日、亮助に今後の二人について話そうと約束します。

その晩、節子は妹万里子も一緒に暮らす自宅に戻ると、しばらくして、泥酔した田代が帰宅。よろけながら2階に上がると、倒れる音。既に別れることを決断した節子は、倒れる音の元に自分で駆けつけることはせず、妹の万里子に見てくるように伝えます。なんと、亮助は死亡しており、原因は心臓発作でした。

節子は亮助の死が病死とは到底思えない、自分の心に暗い影を落とした、としてこれでは田代にことも闇に巻き込んでしまう、と別れを告げました。

何年でも待つ、と告げる田代に、待たせられない、と言う節子。ここで映画は終わります。

実に逞しい女性、節子。私は、この先、5年後、遅くとも10年後には、闇から抜け出せた、と言って田代の元に再び訪れるような気がしています。

節子と田代が静、万里子と亮助は動、のイメージです。どちらかといえば動の私は、万里子や亮助には共感を覚えますが、節子と田代には多少イラっとします。気の合わないもの同士は、結局性格の不一致、ということで上手くいかない事をまざまざと見せつかられます。

こちらは昭和25年に初上映ですが、この頃と今とでは、随分、会話の仕方が違いますよね。女性は話すスピードが速く無いですか?今、こんな風に速く話す方に出会いません。叔母は万里子的なスピードですが、都内のあるティールームのマダムが、正しく万里子の速度でお話しされています。こういう様に話されると、こちらも敏捷にしなければと焦りますが、作品の中の田代や父は、独自のペースです。当時、実際にはどんな感じだったのだろう?とこのあたりの時代の作品を観る度に、気になっています。

この作品の中で、新しいもの好きの万里子に対して、「長く変わらないものこそ、新しい」と言う節子の持論が展開されます。赤いマニュキュアが流行っている、フレアースカートが流行っている、と言っても翌年には廃れている。新しいものは古くなるが、それに対して長く変わらないものこそ新しい、と。タイムレス、は万国共通の考え方だな、と実感しました。

ちなみに、本映画作品の原作は、大佛次郎氏が書かれた『宗方姉妹』で、小説の方が、よりドロドロしているそうです。こちらも読んでみたいですし、小津作品、機会があれば是非他も観たいです。

今回は以上です。

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