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メイクは努力目標

メイクって嘘みたいに言われることが多いけどさ、嘘と言うより努力目標みたいなものじゃない?
本当のありのままの顔じゃないかもしれないけど、私は私のポテンシャルをここまで引き上げることが出来ます、この顔に見合った人間であろうと努力します、みたいな。
私はね、家から出るのが苦手なんだけど、家を出るときにはだいたい化粧をする。
それに掛ける時間はなんとなく、本当になんとなくの肌感覚でしかないんだけど出掛ける距離や時間に比例しているような気がする。
長くもつメイクをするほど、長い時間ちゃんとした人間のふりをしている。
メイクをすることを我が家では「顔をつくる」と言う。
おいしいパンをつくろ〜生きてるパンをつくろ〜って歌知ってる?
あれを歌いながら気持ちを奮い立たせて、ソファと同化していた重い重い身体を縦にする。
日焼け止め、化粧下地、ファンデーションにお粉。
頭の中で美容系YouTuberみたいに「今日はどこどこに行って何何する予定だから、今日はこれにしようと思います!」みたいに元気でハキハキ喋る誰かが喋ってる。
鏡に映る白い顔の引きこもりは決して出さないような高くて明るい声の誰かが。
マットなアイシャドウに部分部分でパールとラメを足して、眉尻の下と目と目の間の鼻筋、鼻のてっぺん、目の下から目尻の横までの頬骨の上にもハイライトを置いて光を集める。
マスクをするけど、落ちないと話題のリップを塗る。
髪の毛にもオイルとかバームとかのせて、顔周りは巻いて、お気に入りのヘアアクセサリーで飾る。
血色と無縁だった顔に色と光がのって、生気みたいなのが人並みに生まれる。
その生気に見合うだけの歩き方がそれでやっとできるようになる気がする。
丸まった背中を伸ばして、パールとラメをのせたところに光を集める。
ビューラーで上げてマスカラでコーティングしたまつ毛とまつ毛が絡まらないようにいつもより意識して目を開ける。
確かにこれは素じゃないかもしれないけれど、こう在りたいと思っているものの具現化ならばそれも私じゃない?
こう在りたいと思っているのは間違いなく私じゃない?
別にすっぴんでだって歩けるけど、メイクしてた方がいつもより早く歩ける。
俯いているより前を見据えている方がずんずん歩ける。
だからメイクは嘘じゃなくて努力目標じゃない?
頑張れば出来る、を頑張るための努力目標。
目標を高く置いたってどこに置いたってそもそも持たなくたって、それはその人次第だけど、せっかく重い腰を上げて外に出るなら素よりちょっとだけ上を向いて歩いてた方が楽しいんじゃない?
だから私は出掛けるときにはメイクをする。
まあ時々しないけど。しないことも稀によくあるけれど。

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