存在しない誰かとの愛おしい生活。

AM02:00、撮影帰りの車内。
「モテ」に対して好奇心旺盛な男性陣が、各々の求める「モテ」を語っていた。
コーヒーを飲んで酔っているんだろうか。

対するわたしは、ちょっと外野から呆れる素振りを見せつつも、心の中では「わたしって学生だったらめっちゃモテてた気がするんだよな。」という謎の見解を示していた。
元より、それはわたしの求める「モテ」ではないのだけれど。


モテたいなぁ。



いや、モテたいというより懐かれたいし、愛されたいというより愛したいな。
デニムパンツに爪をひっかけてよじ登ってくる猫のようにわたしに懐いた人間を、いっぱいに愛したい。


注げる愛があること、愛を注ぐ先があることは幸せだと知っている中で愛を持て余しているわたしは、存在する誰かとの生活を、存在しない誰かとの愛おしい生活のように過ごしている。



1人ぼっちで目が覚めると、存在しない誰かが恋しくなる。
存在する誰かに、存在しない誰かのためのコーヒーを淹れたり、ミルクティーをつくる。
存在しない誰かが愛おしくて、存在する誰かにお気に入りのチョコレートをお裾分けしたりもする。
存在する誰かがおいしそうに食べる姿を、存在しない誰かを愛おしく思うように見つめてしまう。
存在する誰かの近づいてくる足音を、存在しない誰かのやさしい気配だと感じる。
存在しない誰かとの2人だけの空気に、存在する誰かを包み込んで会話する。
存在しない誰かが恋しかったように、存在する誰かを駅まで迎えに行く。

存在する誰かの声で呼ばれたわたしの名前は、存在しない誰かの声で呼ばれたようにあたたかくて、手を握れば、存在しない誰かの温もりを感じる。


存在しない誰かが、存在する誰かの着ぐるみを着ている。着ぐるみを着た誰かを、わたしはいつも愛おしそうな目で見つめている。


いつか存在しない誰かが着ぐるみを脱いだら、存在する誰かとの存在しない生活を夢みて、存在する誰かと、存在する生活をおくるんだ。


While Writing
『あいみょん/ふたりの世界』

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