6月27日19:00、ステージで待ち合わせ。

隣に座るおじさまの、音のしない拍手と共に福岡へと着陸。

「初めての九州だ...!」と思ったけど、ふと、初めてか初めてじゃないかを地方で区切ってるのがよく分からないなと思った。
「初めて」に取り憑かれ、「初めての市だ〜」「初めての駅だ〜」「初めてのホテルだ〜」とこれから先ずっと「初めて」を見出していかなければいけないのかと迫られているような気がすると、途端に窮屈に感じたので、特に勝手な価値はつけず「福岡ついた!」と思うことにした。

今日はツアーを回っているアーティストの福岡公演を観に行く。

開演までまだ少し時間があるので、早速福岡っぽく博多ラーメンを食べることにした。16:30に食べる博多ラーメンは、お昼ご飯にしては遅くて、夜ご飯にしてははやくて、おやつにしては重すぎる。
Googleマップを見ながら、そろそろかなぁ。と歩いていると、急に臭かった。

あれだ。

この距離で既に臭かった。

なんならスマホを取り出しながら5歩くらい歩いたので、この5歩手前では既に臭かった。

人気らしい「博多一双」
なんか色々乗ってるやつ

食べ進めていくと、スープの底に何かが溜まっていて、なんだ?と思い掬って飲むと、じょりじょりしていた。
豚骨のクズだった。(たぶん)
「骨のクズを飲む」という初めての体験にわたしは「すげえ!骨のクズだ!豚骨スープに豚の骨のクズが入ってる!!!」と興奮した。豚骨スープは豚骨のスープなのに、豚骨スープはわたしにとって「豚骨味」のスープでしかなかったことに気づいた。

「ごちそうさまでした。」と、独り言としては数少ない正当な独り言を言ってテーブルに置いておいたマスクを付け直すと、豚骨スープに顔を埋めているくらい臭かった。
あの距離で臭かったんだもん。そりゃそうだ。


お散歩の格好で会場に向かいたいわたしは、先にホテルでチェックインして2泊3日の全てが詰め込まれているトートバッグを置いていくことにした。

ちょっとだけ休んでから向かおうと思ったら休みすぎちゃって、結構急がなきゃいけない時間になった。急いでポシェットを下げて部屋のテーブルに置いておいたマスクをつけると、まだ豚骨の匂いが染み付いていた。

結構急がなきゃいけないけれど、わたしはローカルに出向いた時にはローカルな交通手段を自分の交通手段として手懐けることが好きなので、電車とバスを使って会場に向かった。
会場に着くと、結構急がなきゃいけない時間だけあって既に大勢が並んでおり、出遅れた感が否めない。


彼は待ち合わせ場所に着いたかのように、「会いたかった。」と言ってステージに立った。

とある曲の1シーン。照明の演出によって、彼を何倍もにしたシルエットがステージ横の壁にぼやっと写って、ゆらっと動いていた。それに気づいたわたしは、ちょっと失礼だったかもしれないけれど、その曲の間だけはしばらくそっぽを向いて、壁に写る焚き火のような彼を見つめていた。


醜いところを器用に刺す鋭さも、沈んだところを器用に掬う鋭さも、どっちも彼のもの。

彼のわたしたちを見つめるその目が、わたしたちに言葉を届けようとするその声が、そう教えてくれた。


公演が終わると、ライブハウスに詰められていた人たちが一斉にバス停へ流れ込み行列を作っていた。きっと一度には乗り切れないんじゃないかという人の多さを横目に、わたしは呼んであったタクシーに乗り込み会場を後にする。

わたしは弱いし怠惰だしわがままだから、お金を払って誰か何かに頼らないと生きていけない。
たくさん頼れるようになるにはたくさんお金が必要で、たくさんお金をもらうにはたくさんえらくならなくちゃいけなくて、たくさんえらくなるには、たくさんがんばらなくちゃいけない。
何としてもがんばらないでいい未来を手にするために、わたし、がんばるんだから。


While Writing
『富岡 愛/恋する惑星「アナタ」』

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