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入試物理の学習法*総論

こちらの記事は,公式サイトへ移転しました.是非そちらをご覧ください.


§入試物理学習の流れ

◆基礎固め①:必須知識・スキルのインプット

必須知識とスキルについてまずは学んでいく必要があります.必須知識とは知らなければいけない公式,必須スキルとは核となる公式や解法の運用方法のことだと思ってください.特に,物理にとっつきにくさを感じている方は,焦点がボケないように中心となる部分だけに的を絞って習得していくことをすすめます.また,抽象論で終わらないため,適切な例題で具体的な思考の流れを見ておくことも重要です.

JUKEN7のカリキュラム上では,「入試物理ファンダメンタルズ(基礎講義)」に対応する部分です.非受講生の方は,教科書や「チャート式」などでインプットを行っていきましょう.笠原著書『物理の解法フレーム』のまとめや例題なども活用してください.

◆基礎固め②:必須知識・スキルの定着のためのトレーニング

インプットしただけでは,知識・スキルは定着しません.目的に沿った適切なトレーニングが必要です.学習中の知識・スキルを磨くために特化した問題演習を積んでいきましょう.ここでは効率よく,それなりの量をこなすことも重要です.

JUKEN7のカリキュラム上では,「標準講義」に対応する部分です.非受講生の方は,お手持ちの基本的な問題集を活用しますが,市販の問題集では,目的が明確になっていない問題(テーマが整理されず,複数のテーマが混在しているような問題など)が多く含まれていたりしますので,よく選別して演習を行うとよいでしょう.『物理の解法フレーム』の演習問題も参考にしてください(問題数を最小限に絞ってあることにご注意ください).

◆基礎固め③:定着確認&アウトプット練習

確固たる基礎力とは,応用的な演習の中で実際に発揮できる基礎力のことです.それを身につけるためには,基礎的な問題を利用して基礎トレーニングをするだけでなく,実践的な問題演習の中に基礎を見出していく必要があります.標準的な入試問題を活用して,アウトプット練習を行いつつ,知識・スキルを確認することで,基礎力はより確固たるものになっていきます.曖昧な部分に気付くこともあるでしょう.その際には,インプットや基礎トレに回帰することも必要です.

JUKEN7のカリキュラム上では,「典型入試演習」や「良問の嵐」に対応する部分です.非受講生の方は,お手持ちの問題集や過去問集を活用してください.問題集を選ぶ際は,その場限りの解説ではなく,基礎に基づいた解説を行っているものを選んでください.

◆思考の整理とより深い理解へ

標準レベルの入試問題は,典型的な設定であったり,それらの組み合わせであったりすることが多いため,適切な訓練を積んであれば,解法を特に意識しなくとも解けてしまう問題が多いです.一方で,難関レベルの場合は,意識的に思考しなければ解法が選択できない問題も増えてきます.このような問題に対処するためには,身につけた知識・スキルを整理・統合し,再構成すること=頭の中に「思考地図」を作ることが重要です.

また,タテ割りだけでなく,分野横断的な考え方も含むヨコのつながりを見出してゆくことで,より深く理解したり,柔軟な思考ができるようになります.

JUKEN7のカリキュラム上では,「集中講義」でヨコのつながりを扱ったり,深い理解を促したりしています.また,『真の特講』の演習の中で自然と「思考地図」が形成されるような講義を行っています.「思考地図」についてはnote記事やYouTube配信でも語っていますので,そちらもご参照ください.

◆実践演習

大学入試において物理ほど基礎力が如実に得点力として現れる教科はないのではないでしょうか.適切な学習を積み重ねていれば,過去問演習などの実践的な演習はさほど苦にならないはずです.志望大学の過去問や,志望大学より若干出題レベルの低い他大学の過去問に取り組みましょう.ただし,分からない問題については,その場しのぎにせず,きちんと基礎に立ち戻って考えることが大事です.

§力学分野について

◆入試物理における力学の位置付け

力学はどの大学でもほぼ必ず出題される上,物理の他の分野でもその知識・思考法を応用するため,重要度が最も高い分野です.力学の思想は,すなわち物理学の基本思想になりますから,力学の学習を通じて物理的な考え方を身につけることが,他の分野を学ぶ際にも大きな助けになることでしょう.

一方で,高校物理の力学は,実は大学教養レベルの力学と大差がありません.もちろんいくつかの(それなりに多くの)項目が抜いてはありますが,力学の考え方・思想そのものは大学と同じものを学ぶと考えてください.

それゆえ,習得に最も時間がかかるにも関わらず,物理の学習の一番はじめに取り組まなければならないところが,学習者にとってのハードルを高くしています.裏を返せば,物理は学びはじめが肝心で大変さを伴うのですが,それを乗り越えてさえしまえば,その先の学習はかなり進めやすくなります

◆力学の学習内容と学習の進め方

まず,根幹をなす単元(運動方程式,運動の時間追跡,力学的エネルギー保存則,2物体系の基本)に取り組み,熱力学や電磁気などの他の分野に進みながら,それらの範囲の演習を進めていきましょう.それ以外の単元は後から埋めていく形でよいでしょう.

◆力学を得意にする学習姿勢

まずはとにかく,物体に働く力を図示して運動方程式を立てられるようになることが大切です.それが不完全なままだと,その後の運動量・力積やエネルギー・仕事でのミスが減らなくもなってしまいます.はじめに,「運動方程式と束縛条件」に丁寧に取り組んでください.そして,力学の根幹をなす単元(運動方程式,運動の時間追跡,力学的エネルギー保存則,2物体系の基本)の基礎を学んでゆくことで,力学の考え方に親しんでゆくことができるでしょう.

力学を1周だけでマスターするのは不可能ですから,まずは,その後,他分野を学びつつ,再び力学を学び直すような姿勢が必要です.力学の学習を疎かにすることはできませんが,かといって力学を完璧にしてから他分野に進もうとすると学習計画が破綻するので注意しましょう.

◆得点力最大化戦略[力学編]

入試物理の中で力学が最も問題の幅が広く,試験場での「思考力」も問われます.ひととおり学び終わった段階で,知識・スキルを柔軟に引き出せるように,頭の中を整理する必要があります.

§熱力学分野について

◆入試物理における熱力学の位置付け

力学では扱えない物理量である温度と熱について学ぶ分野です.入試では最も得点源にしやすい分野ですが,必ず出題されるわけではないのが残念なところです.

◆熱力学の学習内容と学習の進め方

熱力学分野の主題は,理想気体の熱現象を通じ,温度と熱について学ぶことです.入試問題はざっくり次のように分類できます.

とにかくⅠの基本思考をマスターすることが大切です.それは,すなわち,理想気体の状態方程式と熱力学第1法則を正しく運用できるようになるということです.基本思考を理解することで,例外処理の考え方が「例外的」であることが浮き彫りになり,入試問題の解法で迷うことがなくなります.本来,高校物理の熱力学では扱える手法が非常に少ないものの,解法が整理できず,ごちゃごちゃしていると感じている受験生も多いようです. 一気に解法を完全に整理することで,スッキリ理解できるようになります.その後,モル比熱や熱効率などの細かな知識を仕入れていきましょう.
Ⅱの気体分子運動論は,考え方自体は難しい所もありますが,直方体容器と球形容器の2パターンしか出題されないので,それだけ押さえておけばよいでしょう(余力が無ければ後回しでも).
Ⅲのタイプの問題は練習あるのみ,です.

力学の根幹の学習が終わる頃に熱力学を学び始めるのが良いでしょう.
前期の間にIをマスターし,細かい知識やII,IIIについては後回しでも良いでしょう.

◆熱力学を得意にする学習姿勢

熱力学が苦手になる最大の要因は,化学との混乱です.
化学でも理想気体の状態方程式を扱いますが,その際に力のつりあいを併用することはありません.
また,化学で熱を求める際は,比熱や熱容量を使うだけで,仕事は出てきません.
よって,化学のノリで物理の問題を解こうとすると手も足もでないということになりがちです.
本来,学習する際に分野や教科の垣根を越えるべきですが,
熱力学の分野の学習の際は,化学と頭を切り替えて混乱を避けるのがよいでしょう(もちろん将来的には物理も化学も統合されていくべきです).

◆得点力最大化戦略[熱力学編]

§電磁気分野について

◆入試物理における電磁気分野の位置付け

力学が理学部的に「物理学」の基本精神を学ぶ分野であると言えるのに対し,入試物理の電磁気分野は工学部的な姿勢を学ぶ分野と言えるかもしれません.電磁誘導ではある程度理論的なことも学ぶものの,力学における運動方程式に相当するような電磁場を決定する基本法則(マクスウェル方程式系)を学ぶわけではなく,入試では特に回路に関わる問題が重視されます.それゆえ,電磁気分野を学ぶ際にはある程度パズル的に楽しんで学習することもできる分野だと言えます.

◆電磁気分野の学習内容と学習の進め方

[電気分野]
電気分野の入試問題は大雑把に次のように分類できます.

Ⅰでは,静電気力(クーロン力)について新しく学び,力学のときと同様に,力を図示して運動方程式を立てたり,エネルギー保存則を立ててゆくことになります.この部分に特有の学習項目は,静電気力に関わる公式・用語のみであることに留意してください.

Ⅱでは,回路素子である電池,抵抗,コンデンサの性質を押さえた上で,電荷保存則とキルヒホッフ法則を立てられるようになれば方針に困ることはなくなります.これは回路がいくら複雑化しても変わりません.パズルを解くつもりで,似たような問題をくり返し訓練することで,得点源にしやすい所になります.

Ⅲに関して,エネルギー収支の考え方自体は,力学でも学ぶものですが,ここでは,エネルギーから仕事や力を逆算する考え方が多くなります.力学の訓練を済ませた上で,ひととおりの典型問題に取り組むのがよいでしょう.

電気分野の学習時期としては,受験学年の夏までに標準的な問題演習まで済ませておきたいところです.

[磁気分野]
磁気分野の入試問題は大雑把に次のように分類できます:

ⅠとⅢに関しては,電気分野がそれなりに出来ていれば,公式や知識が多少増えるだけで,基本的に困ることはありません.

Ⅱでは,電磁誘導特有の「誘導起電力の決定」と「エネルギーの変換」に関わる訓練が特に必要です.

学習時期としては,電気分野の基礎固めができていれば,秋からでも充分に間に合います(余力があればもっと早い時期でもちろん構わない).逆に言えば,電気分野を夏までにある程度固めておかないといけないということです.

◆電磁気を得意にする学習姿勢

電磁気分野を得意にするために,最も大事な精神姿勢は,はじめから「電気ってなんだかよく分からない」と言って学習を投げ出さないことです.電気に限らず,エネルギーであれ何であれ,それが何であるかということを最初からつかめるわけではありません.計算をくり返し,持っている性質に精通し,慣れ親しんでいくことで初めて概念把握ができるものなのです.学習の初期の段階では,「電気ってなに?」という疑問には一旦フタをしておきましょう.

また,電磁気分野が苦手になる最大の要因が用語の混乱にあります.公式・用語を丁寧に扱ってください,例えば,電場・電位・電圧・起電力・電流・電力といった用語の意味を正しく把握しなければ問題を解けるわけがありません.まずは,用語の意味を正しく把握することです.ただし、概念を把握せよ,ということでは勿論ありません.「電流」であれば,「導線断面を単位時間あたりに通過する電荷(電気量)」といった具合に,計算に結び付く形で用語を把握すべきということです.端的に言えば,物理量の定義を定量的に正確に知っておくということです.特に,電気の学び始めには,電場・電位の用語・公式が混乱してやる気をなくしている受験生が無数にいます.まずは,用語・公式をまとめた紙を作り,それを参照しながら基礎的な問題を解いていくのが良いでしょう(まとめはルーズリーフ1枚で済むず).

◆得点力最大化戦略[電磁気編]

なお,電磁気分野は標準レベルと難関レベルの問題の難易度に差が比較的つきにくい分野です.

§波動分野について

◆入試物理における波動分野の位置付け

波動分野は,「物理」というより,「中学理科の延長」と捉えるのがよいかもしれません.なぜなら,一般に物理では,自然現象が起こる「仕組み」を学ぶのですが,高校物理の波動分野では,「波が生じ,伝播する仕組み」をほぼ扱わず,水面波や音波,さらには光(電磁波)などの存在を前提にした上で,それらがどのような振る舞いをするかという議論をするからです.それゆえ,必然的に学習法も他分野と変わってきます.

◆波動の学習内容と学習の進め方

準備中ですm(_ _)m

◆波動を得意にする学習姿勢

力学・熱力学・電磁気の分野では,原理からの論理的な思考・体系的な学習が重要でしたが,一方で,波動分野では,単元ごとに現象を網羅していくという学習法が効果的です.波動分野は単元ごとのつながりが薄く,重要な問題パターンを網羅していけば対策できてしまうということになります.ただし,効率的・効果的にパターン分けされておらず,やみくもに問題が羅列されているだけの問題集に取り組んでも力はつかないので注意してください.

力学が得意なのに波動がまったく苦手な学生に多いのが,作図による理解をサボっているパターンです.入試ではどちらかといえば,数式より作図による理解の方が優先されます(近年では数式に重きをおいた出題も増えていますが,それでも).作図を優先して学び,数式と結び付けていく学び方がおすすめです.

図形的な考察は,閃きやセンスが必要であるという誤解が蔓延していますが,実際は基礎となるパターンを押さえておけば,難しい問題も基礎の応用で解くことができます(世の中に図形的な考察をパターン化しているコンテンツが少なすぎます).また,近似計算は,(波動分野に限りませんが)特に波動分野で多く使うので,ここで慣れておくのがよいでしょう.

§原子物理分野について

◆分野概要

19世紀後半から20世紀前半にかけて,それ以前の物理学(古典物理学)で説明できない現象が発見され,それが徐々に説明されていくことで,新しい物理学の理論(量子論や相対論)が建設されていきました.原子物理分野では,その歴史的な過程における有名実験や仮説について学びます.それゆえ,完成された理論体系を学ぶわけではなく,問題ごとに必要な考え方を覚えていかねばならないことに注意してください.その代わり,各問題で扱うテーマは基本的に当時のものですから,この分野の新奇な入試問題はほとんど存在せず,重要な問題例をしっかりマスターしておけば,ほとんどの場合に満点近くを狙うことができる分野です.

この分野は対策が遅れがちな受験生が多いですが,焦って先にやろうとするよりも,他分野の実力が備わった後に短期間で集中的に学ぶのが効率よく効果的です.また,標準大と難関大で出題に大差はありません.ただし,最難関大で,細かい知識が問われたり,見慣れない設定の出題がされることも稀にあります.

§試験への取り組み方

ここでは,過去問演習・模試・入試本番を通じ,試験へ取り組む際に留意すべきことについてまとめます.

◆問題文を読む際に

あたり前のことですが,問題文をよく読みます.特に,知っている問題と似ている問題で誤読が起こりやすいので要注意.また,与えられた文字や条件はできるだけ図に書き込むこと(無闇にチェックしても頭に残らない).図に書けない条件は問題文中に下線を引くなどしておくのがよいでしょう.

◆設問を読む際に

設問で「何が求められているか」よりも「どんな物理現象なのか」を把握することが大切です.また,指定文字に気を取られすぎないこと.指定文字の組み合わせで答えを作るのではなく,正しい考え方をすれば自然と指定文字で解答が表されるはずです.

◆問題を解く際に

解法を特に意識せずとも解き進められているうちはそのまま思考の流れに沿って解いていけばよいでしょう.ただし,詰まってしまったときは,焦らずに立ち止まり,どんな物理現象なのか,その現象を規定している物理法則や所与の条件は何なのか思考を整理してください.

◆答案を作る際に

大学入試物理の記述式答案に記すべきことは,以下の通りです.

  ① 物理法則や用いる条件など根拠
  ② 対応する数式
  ③ 最終的な答

基本的には最終的な答えが合っていることが大事で,できるだけ簡潔に書くという意識を持っていてください.余計なことをダラダラと書きすぎて,時間と余白が不足してしまったり,最初のうちだけ馬鹿丁寧で後半が雑な答案が非常に多いです.以下に留意すべき点を列挙しておきます.

  •  用いる法則や考え方(「エネルギー保存則より」など)で1行,対応する式(「ma=-kx」など)で1行が基本形.

  •  計算は書く必要なし.ただし,計算が重要な場面や残しておきたい計算は最小限の部分を記す.

  •  状況説明も書く必要なし(「速度が一定なので力がつりあうから」とは書かずに,単に「つりあいより」でよい).

  •  ごく基本的な問題や公式にあてはめるだけの問題は答えのみでもよい.

  •  答えに自信がある問題は,できるだけ簡潔に.

  •  答えに自信がない問題は,法則名など方針だけでも記す.また、状況説明も把握できているものを出来るだけ書き,部分点を狙う.

  •  文字の定義は書いた方が丁寧だが,常識的なもの(時刻$${t}$$,力$${F}$$や速度$${v}$$など)はいちいち断る必要なし.

  •  場合によっては,図を活用する(図を描いて「図のようにおく」とするなど).

例えば東北大は,部分点を多くくれる傾向があるので,方針を示す(「エネルギー保存則を使う」など)だけでも点が来る可能性がある(使える法則の判断は,物理にとって本質的である).一方で,公式当てはめだけの問題に記述欄があり当惑する受験生も多いが,そのような場合は途中過程を無理に記述する必要はないだろう(「合成容量の公式を使う」などと答案に書くことに加点するとは到底思えない).

◆時間配分について

原則として各大問に同じように時間を配分できるようにしてください.力学に時間をかけ過ぎて波動が解き切れなかったというような例があまりに多いです.75分で3題であれば大体1題に20分ずつかけ,残り15分を得点しやすい問題に割くイメージです.

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