受験薬学:アメジニウム(リズミック)

 
 宣言した通りアメジニウムについて書こうと思う。アメジニウムは昔からある結構よく使われる薬で、先発名をリズミックという。
 昇圧剤だ。そのため低血圧に対して使われる。ただし普通のひとの低血圧は、ふらつきや眩暈や倦怠感といった自覚症状がなければ概ね放置されるものなので、結局臨床での使用目的は、低血圧というよりそういった症状の改善というところになる。先発名がリズムっぽい名称をしているのでダジャレ的に抗不整脈薬のような印象を受けてしまいかねないが、「こいつは違う」と覚えなければならない。この薬剤は先発名→一般名と紐づけるのではなく必ず一般名から覚えるのが肝要である。その上で憎しみをもって先発名を把握するのだ。
 アメジニウムの覚え方は決まっている。
「アメイジングに血圧を上げる!」
 これだ。
 英単語amazingを覚えていない薬学部生は己の人生を見つめ直す良いきっかけになったと考えるべきである。
 それでは以下にこの薬剤がどれほどアメイジングなのかを述べていく。

 アメイジング、驚くべきというからには、この薬剤は並大抵の作用機序をしていない。
 昇圧剤と聞いてすぐに思い浮かぶ作用機序はおそらくα/β刺激やそこらだろう。心臓が強く脈打ち末梢血管を収縮させれば血圧は上昇するものだ。しかしアメジニウムはそうではない。
 そして、そうではない、どころではない。こいつは特別な作用機序を、ひとりでふたつも持っているのだ。これを驚くべきと称さずして何というのか。アメジニウムはアメイジングなのである。
 ではこのふたつの作用機序をどう覚えようか。語呂か? 検索したら確かに詠み人知らずの語呂文章はインターネッツを漂っている。

「魔王が嫌いなアメジスト」
https://yakugoro.com/entry/2015/07/23/164335

 語呂ファイターたちはどうもこいつで覚えるらしい。
 覚えられるひとは活用すればいいだろう。しかし僕には無理だ。この語呂自体を暗記するのが大変だし、大変なわりにひとつの薬剤についてしか覚えることができないからだ。
 なにも僕は語呂の存在自体を否定しようというわけではない。しかし優れた語呂にはいくつかの条件があって、それはたとえば多数の薬剤を一網打尽に把握できるようなものであったり、あるいはその文章自体が面白い、といったようなものである。この語呂はそうではない。
 閑話休題。長々と語呂批判を繰り広げてもしょうがないので、僕の覚え方を紹介しよう。

 覚え方、というか把握の仕方だ。僕は理屈にこじつけてなんとか知識を脳みその皺に潜り込ませている。
 アメジニウムがアメイジングな昇圧剤で、特別な作用機序をふたつも持つことはこれまでに述べた通りである。そして昇圧作用をもたらすもっとも基本的な作用機序がα/β刺激であることは概ね同意を得られるだろう。
 実はこれらを把握できていれば、あとは自分で考えればアメジニウムの作用機序を導き出すことができるのだ。

 昇圧作用に必要なα/β刺激は薬剤が直接もたらしても良いけれど、実はもっと単純な方法がある。ノルアドレナリンを増やしてしまえばいいのだ。それにはどうするか。生成を促進するというのもよいけれど、もっとエコロジカルな手段がよい。すなわち、リデュースとリユースだ。エコの3Rを知らない者は大学受験からやり直すというのもいいかもしれない。
 それではリデュースとリユースが何を意味するかというと、それぞれ「MAO-Aを阻害しノルアド不活化を削減する」「再取り込みを阻害し、本来回収される筈のノルアドを再利用する」といったような次第である。要はノルアドの不活化と回収を邪魔するのだ。これで生成されたノルアドレナリンを末永く酷使することが可能になり、結果昇圧作用をもたらすわけである。
 このふたつの機序は賢く、相乗効果がもたらされそうな組み合わせであることがわかるだろう。美しい組み合わせであり、正にアメイジングと称するにふさわしい。このふたつの作用機序を理解し、感動したならば、おそらく簡単に覚えられる筈である。
 忘れた場合は? それもまた簡単だ。「たしかアメジニウムは驚くべき薬剤だったよな」というところから自分で思考を辿って導き出せばそれでよい。

 ひとによってはMAO-AのAをアドレナリンと結び付けて覚えることもできるだろう。するとドパミンに関係するMAOはBであるような気がする。おそらく訊かれる場合はドパミンを分解するMAOはAかBどっち、という設問になるだろうから、この話を思い出せればBを選ぶ確信度を上げられそうなものである。
 ほかにどんな酵素がノルアドレナリンに働きかけるんだっけ、と気にすることができればそこからCOMTを勉強するモチベーションに繋がることもあるだろう。このように、お勉強はどんどん派生させていって様々な知識を芋づる式に蓄えるようにするべきである。
 精神科薬剤師を志すなら、こういった相乗効果のある作用機序の組み合わせを把握することは、少し前に流行っていた通称カリフォルニア・ロケット処方を理解する助けとなるかもしれない。他にはβラクタム系+アミノグリコシド系抗菌薬のシナジーなんかも有名だ。

 なお、アメジニウムの作用機序を問う問題は薬剤師国家試験に出題歴があるらしい。
https://yaku-tik.com/yakugaku/99-033/

 この問題に正解するためには「アメジニウムはα/β刺激以外の作用機序をもつ昇圧剤である」程度の知識があればよい。あるいは消去法で正答するのもよいだろう。
 ただし、今後再び訊かれることがあれば、おそらくもう少し詳しい知識が問われてくることだろうと思われる。受験生としてはお勉強しといた方がいい薬剤と言えるだろう。
 しかしこんな最大級のメジャー薬剤でもない昇圧剤ひとつに丸暗記メモリを消費するのは馬鹿らしいことなので、是非とも理屈を把握し、「アメジニウムはアメイジング」だけで導けるようになっていただきたいものである。

 

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