受験薬学:血圧の式
前回アメジニウムについて書いている途中で血圧に少し触れたので、その際血圧の式についても書こうと思ったのだが、意外と長くなりそうなので挟み込むのはやめておいた。書いた上で振り返ると、やっぱり結構な長さになってしまったので、賢明な判断であったと思う。
これは決して記事数稼ぎなどではない。
なお、薬剤師国家試験での出題歴については検索してもよくわからなかった。なにぶん“血圧”という検索ワードが強すぎて、すべてを覆い隠すような量が引っかかってくるのである。
それでは講釈を垂れることにするとして、その血圧の式とは何ですかということから書くとしよう。
血圧=血流量×末梢血管抵抗
これだ。おそらく薬剤師国家試験受験生全員が見たことのある式だろう。
しかし、この公式になんとなくピンとこない学生も多いのではないだろうか。少なくともこの式を覚えようと思った時分の僕はそうだった。血圧のイメージといえば心臓が血液を押し出すポンプ・パワーのようなものなので、それが血流量や血管抵抗に比例するというのがよくわからない。
もちろん高血圧治療薬の話で末梢血管を広げれば血圧が下がるというのは知識としては知っているのだけれど、原因と結果が逆な気がするというか、どことなく気持ち悪さを抱えながらの勉強になったことを覚えている。
違和感を覚えながらの暗記は効率を悪くする。それが怒りや憤りのレベルであれば「お前はなんでそうなんじゃい!」というある種のエネルギへ昇華して、むしろ知識の定着率を上げてくれるものなのだが、こういう一昔前の一部のひとたちが「もにょる」と表現していたような程度である場合、
「ひょっとして私が気にしすぎで馬鹿なだけなのかな。。」
と静かに落ち込むか、あるいは
「こういうのって私だけ!? 同じだよ~って人はRT!」
とSNSの奴隷に成り下がるしかなくなってしまうわけである。
そんなわけで「気持ち悪い式だなあ」と思いながらも、こんなもので1点損し得るのは嫌なので、何かこじつけられる理屈はないかなあと考えていたところ、僕はある時はたと思い至った。
「これ、オームの法則と同じものじゃないか」と。
ここで「うん知ってる」と思った者は、おそらくこれ以下を読むのは時間の無駄だ。
さて、一応念のためにオームの法則をおさらいしよう。高校物理の内容だったら一般的とは言えないかもなと思いながら確認したら、なんと中学理科で習うらしい。義務教育の範囲内であり、オームの法則を知らないのはどちらかというと恥である。と言うと、僕自身も様々な分野で恥知らずということになってしまうのでやめておこう。
オームの法則は電気の分野でお勉強する公式だ。その内容は“電圧=電流×電気抵抗”というものである。
どうだ血圧の式と似ているだろう。というか、これらはおそらく本質的に同じような内容を表現している式なのだと思う。
思えばオームの法則自体も理解が難しいものだった。今でも厳密な解説をしろと言われたら正しいことを言えるかどうか、かなり怪しいものであるけれど、かつて塾講師をバイトでしていた僕は生徒にオームの法則を教えなければならなかった。
そしてその際、僕は電気の流れを水の流れにたとえてオームの法則について理解させたものだったのだ。そのオームの法則を使って血圧についての理解を深めようというのは逆輸入的というか、なんだか本末転倒な気もするけれど、ちゃんと公式を覚えられて理解できた気になれるならいいだろうと思うことにする。
血圧の概念はもちろん心臓の持つポンプ力のようなものなのだけれど、その力を直接把握するのは難しい。そのため、これこれこういう抵抗の中をこれだけの血流が通過するのだから、それをもたらす力というのが血圧だよ、という理解の仕方をすればよいわけである。漠然と電圧について勉強する場合と、まさに同じような内容だ。
と、いうわけで、血圧の式の覚え方は「オームの法則を思い出せ」というところに終始する。V=IRで覚えるのもよいだろうし、「確かかけ算で表されていたなあ」くらいの把握でも今の君なら思い出せる筈である。
そしてこの式を覚えるのには他にも利点があって、その代表は血圧コントロールの仕方を把握できることである。血流量×末梢血管抵抗なのだから、このいずれかを削減すれば血圧は低下することになる。前者の代表格は利尿剤で、水を捨てることで血流量を減らすことができる。
このへんの分野は勉強すると中々面白いところもあって、たとえばマンニトール製剤を点滴投与した場合に、輸液をいっているのに脱水傾向になり得るというのは興味深い現象である。塩水を飲むとかえって喉の渇きがひどくなる、と同じ種類の面白さをしている。
書き出すとまた止まらなくなりそうなので、いずれこのへんについても別記事を立てて書くかもしれない。
ともあれ、利尿作用で血圧低下ってちょっとイメージできないわん、という薬学部生もおそらく一定数いるだろうから、その理解の助けになれば幸いと思って書いてみた。
後者、末梢血管抵抗については言わずもがなだろう。ARBだろうとACE阻害剤だろうと、好きなもので血管拡張を施してやればよい。あるいはCa拮抗薬を使ってもいいだろう。
この式を覚えていれば、ついでに著しい低血圧、すなわちショック症状の分類についてもある程度理解が進む筈である。
血流量がとても減る、たとえば出血しまくってしまった場合に失血性のショック症状が出現するのだ。そして何らかの原因で末梢血管抵抗がめちゃくちゃ小さくなってしまった場合にもショック症状が生じることになる。
たとえば敗血症性のショック症状なんてのがこれに該当する。
「敗血症って要は血液レベルの感染でしょ。ヤバいヤバいと聞くしヤバいってことは知ってるんだけど、何がヤバいのか実はイマイチよくわからない」
なんてレベルの薬学部生は安心してもいいかもしれない。実は僕も結構最近までそうだったからだ。
感染が血液レベルに至るヤバさはがん細胞が血流に乗っちゃうヤバさと似たようなニュアンスに思えるので、このあたりでいつか書くのも面白いかもしれない。
昇圧したい場合は逆を考えればよい。このいずれかを増やす方向にアプローチするわけだ。もっとも、昇圧が緊急に必要な場合は心臓に直接働きかけることの方が多いかもしれないけれど。
と、まあ、こんな次第に、血圧の式は色々と知識が関連・派生しやすい内容になっている。是非ともこいつの理解を深め、トータルでの必要勉強量を削減していただきたいものである。
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