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紫乃と美甘の読書会 第3.5回「好きな映画」

こちらは紫乃と美甘の読書会の番外編、第3.5回「好きな映画」についてのログとして執筆しました。読書会は、2022年10月15日に開催されたものです。アーカイブは以下から視聴できるので、ご興味のある方はぜひ。

※このブログは紫乃の了承のもと美甘個人の独断と偏見のもとに執筆されているので、実際には話されたものよりもかなり美甘側に偏った内容になっています。
※最初に書いておきますが、めちゃくちゃ長いです。

最近観た映画

わたしがこの項目で挙げた作品は、どちらも10月のインプットで軽く触れているが、改めて感想をまとめておく。

「シン・ゴジラ」(2016)

わたしはどうも天邪鬼なところがあって、話題になっている映画を話題になっているからという理由で敬遠してしまいがちである。「シン・ゴジラ」もそんなひねくれた理由で観ていなかった。ところが実際に観てみると、これがかなり面白かった。話題になるだけのことはある。でも天邪鬼をやめて、もっと早く観ていれば良かったかと言えば、それは少し違う気がする。むしろ今観たから楽しめたようなところが多々あった。それとわたしはけっこうコメディ系の映画は突っ込みを入れながら観たい性質なので、家で家族と一緒に観たのも楽しめた要因の一つのような気もする。
それでは何がそんなに面白かったかというと、まずその面白さは、interestingではなくfunnyだったのだ。かなり大真面目に、真剣に、リアリティを追及して作られているのに、それがとてつもなく滑稽に見えるのだ。その理由の一つに、キャストがとても豪華ということもあるかもしれない。主要な登場人物が、ほとんど誰でも知っている超有名俳優によって演じられているので、観ていて楽しいし親しみが持てる。それに観ている最中に「誰だっけ、このひと?」みたいに考えるストレスがない。
実際にこの世界に突然ゴジラみたいな巨大生物が襲来することは、まあまず起こりえないが、それが本当に起きてしまったらどうなるのか? ということを真剣にシミュレーションしたのがこの映画の面白さなのだろう。


「崖の上のポニョ」(2008)

こちらは久石譲のコンサートに行くにあたって予習として観た。公開当時は、まだあまり自分の意志で映画に行く年齢でもなかったのと、評判がそれほど良くなかったので観に行かなかった。そのままなんとなく観る機会を逸していたのだが、海外からはNetflixでジブリが観られるということもあって、ようやく観る機会に恵まれた。そしてこれこそ、もっと早く観ればよかった! と後悔することになった。
まずわたしはファンタジーが好きである。現代ものでも異世界ものでも、ファンタジーと名の付くものは、なんでも食べてしまいたいくらい好きである。「すこし・ふしぎ」的な、日常に潜むファンタジーも好きだけれど、できればぶっとんでいればぶっとんでいるだけ嬉しい。そういう意味で、「崖の上のポニョ」は、とてつもなくわたし好みのぶっとびファンタジーだった。なんでポニョが魚から人間になるのかとか、なんでリサは結界が晴れるのかとか、グランマンマーレって何者だよとか、そういうことは考えてはいけない。いや、考えてもいいけれど、どうせ考えるのなら、思いっきり想像の翼をはためかせたい。だってもしかしたら、明日大嵐がやってきて、自分の住む街が海に飲まれてしまうこともあるかもしれないよ?(「シン・ゴジラ」のときと真逆のことを言っている)
それからわたしがこの作品を好きになってしまったのは、フジモトにめちゃめちゃぐっときてしまったからというのも大きい。フジモトは、ポニョの父親で、昔は人間だったけれど、グランマンマーレに惚れて海底の住人になってしまったらしい。元人間だったくせに人間社会や陸上は大嫌いで、やむを得ず陸に上がるときは海底の水を散水しながら歩く。それがまず面白すぎる。(リサに除草剤と間違えられて狼狽えるとこも変だ。もっと堂々としろよ!!!)しかもこの男、エラ呼吸はできないらしくて、海の中では大きな泡をかぶってその中で呼吸しているのだ。海を愛しているのに、魔術的な何かに頼らないと海で生きていけない哀れな男。半魚人というか人面魚というかな娘はたくさんいるけれど、全然言うことをきいてもらえなくて父親としての威厳はあまり感じられない。なんか最初から最後まで情けなくて頼りなくてどうしようもなく憐れみを誘う、それがフジモトという男だ。堂々としていることを男らしさと表現するのなら、ソウスケのほうがよっぽど男らしい。この憎めないキャラクターが、「崖の上のポニョ」という映画にとんでもない量のスパイスを加えている。あまりにも刺激が強くて、でも一度食べたらやみつきになる。わたしにとって「崖の上のポニョ」はそんな映画だった。まだ観たことがない方は、ぜひ一度観てみてください。(余談だけどポニョの完全に幼児の生態もかわいいよ)


「マイ・ブロークン・マリコ」(2022)

こちらは紫乃が最近観た映画。わたしは映画のトレーラーがとても良かったのをきっかけに原作を読んだ。映画も奈緒さんのファンとしては一刻も早く観たい。とりあえず現状はサブスクに入るのを待っている。ちなみに映画の出来に関しては紫乃さんから太鼓判を頂いているので、そういう意味でも期待大だ。



好きなジブリ映画

わたしがポニョについて熱く語ってしまったせいで(?)、予定になかったジブリ映画の話が止まらなくなってしまった。

「ハウルの動く城」(2004)

さっきあれだけ熱く語っておいてポニョじゃないんかい、という。
読書会のときには、「子どもの頃から好きだったわけではない」というようなことを話していたが、冷静に考えると公開された8歳当時からめちゃくちゃ好きだった。どれくらい好きだったかというと、劇場で観た後にフィルムコミックを買ってもらって、毎日のようにそれを読んでいたくらいだ。お気に入りのシーンについて言えば、読み返した回数はおそらく100回は下らないだろう。実際先日久しぶりに映画を観たら、8割方セリフを暗記していたことが発覚した。それくらい、幼いころから熱を上げていたのが「ハウルの動く城」だ。
好きなところは挙げていけばキリがない。まずソフィーが住む街や店のたたずまい、ハウルの城など、細かいディティールにぎゅっと心を掴まれてしまった。昔からわたしはヨーロッパの街並みに憧れがあった。それから色々なものが雑多に詰め込まれた家の感じがたまらなく好きだった。それは今も変わらないし、むしろ如実に表れるようになったような気もする。
それから、メインテーマの「人生のメリーゴーランド」が、ジブリ音楽の中でも一番好きな曲だということもある。もともとワルツ調の曲が好きだというのもあるし、この曲を聴くと自分の人生にもとてつもないロマンスが待っているような気分になれる。ちなみに「人生のメリーゴーランド」は、わたしが行った久石譲のコンサートでも披露されて、この曲を生の久石譲の演奏で聴けただけで、もう人生に一片の悔いなしとまで思った。
そして一番大切なのが、話の構成の緻密さである。ハウルは初めて会ったときからソフィーに「探したよ」と言っていた。それはまるでその場しのぎの嘘のように聞こえるけれど、彼は本当にソフィーのことを探していたのだ。それがクライマックスの「未来で待ってて!」というシーンですべて明らかになる。このまるでミステリかのような鮮やかな伏線回収が、たまらなく好きなのだ。これは余談だけれど、わたしは自分のことをミステリ読みではないと思っているが、実際に好きな作品にはミステリ的な要素があるものが多く、素質はあるのではないかと思っている。


「魔女の宅急便」

紫乃が一番好きなジブリ作品。これはわたしも3本の指に入るくらい好きなジブリ映画だ。もちろん角野栄子さんによる原作がとても面白いというのもあるけれど、わたしにとってはこれもヨーロッパ的な街並みと音楽(とくに「海の見える街」)に心を掴まれる作品だ。



オールタイムベスト

今まで観た映画の中でベスト3を挙げてみた。すると意外に見えてきたのが、わたしの好きな映画には「ビジュアル」と「音楽」という共通点があることだった。

1位「ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール」(2015)

好きな映画、おすすめの映画を訊かれた際に絶対挙げるのがこの作品だ。人生で初めて、劇場に2回観に行った映画でもある。
この映画の一番の魅力、それはもちろん音楽だ。なんと言っても、Belle and Sebastianのスチュアート・マードックによるミュージカル映画なので、音楽が素晴らしくないわけがない。ちなみにわたしは一回目に観に行ったあとすぐにサウンド・トラックを購入したし、Blu-rayが発売されるまでほとんど毎日CDを聴きながら映画を脳内再生していた。たぶん脳内で観た回数を含めたら1000回くらい観ていると思う。
わたしが一番好きな歌は、オリー・アレクサンダー演じるジェームズが歌う「Pretty Eve in the Tub」だ。お風呂に入っている主人公のイヴに対して、「洗わせてよ」という言葉にできない願望を露わにする歌だ。紫乃に言われて気付いたが、たしかにこれをセリフとして言っていたら相当気持ち悪いような気もする。でもこの曲は、軽やかなメロディーに乗せられて妄想が語られるので、全然気持ち悪くなく、どちらかというとちょっと可哀そうですらある。わたしがこの歌で好きなのは伴奏と、ジェームズの歌声、そしてラストの「Boys are queuing」から始まる連である。そこでイヴの置かれたどうしようもない状況を、ジェームズが見透かしていることが明らかになる。
それからもちろん、エミリー・ブラウニング演じるイヴのファッションにもすっかり虜になってしまった。この映画を観てすぐ、わたしは伸ばしていた髪をばっさりおかっぱに切ってしまったし、Forever 21でミニワンピースを買った。狂おしいくらい、イヴになりたかった。イヴはどこかそういう、ひとを狂わせる魔性の部分があるように思える。
生きるのがどうしようもなく辛かった大学生のとき、もう少しで狂ってしまいそうだったわたしを救ってくれたのが、「ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール」だった。わたしは神を信じていないけれど、もし救ってくれるのなら神を信じてもいいかもしれないと思いながら、縋るようにこの映画を繰り返し観た。映画と同じタイトルの「God Hepl the Girl」という曲に、次のような歌詞がある。



I love my room, I’m getting used to sleeping
Some nights, I really like to lie awake
I hear the midnight birds
The message in their words

The dawn will touch me in a way a boy could never touch
Their promise never meant so much to me

https://lyricstranslate.com

眠れない夜、わたしはこの歌を聴いて、眠れなくても大丈夫だと安心することができた。そしてイヴが自分の力で回復していったように、わたしもいつか立ち直れると、この辛い日々はいつか終わらせることはできるのだと、信じることができた。「ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール」に出会わなければ、わたしはいまもこの世に存在することはできなかったかもしれない。わたしにとってはそんな、お守りのような、命の恩人のような映画だ。


2位「アバウト・タイム~愛おしい時間について~」(2013)

この映画は、学生時代にクラスメイトにおすすめされたのが出会いだった。おすすめされた当時はいつか観ようと思って、そのまま忘れかけていたが、去年ひょんなことから思い出して観た。そしてとんでもなくがっちり心を掴まれてしまった。
まず、ポスターにもなっている、レイチェル・マクアダムス演じるヒロインのメアリーがとんでもなく魅力的なのだ。可愛くて、賢くて、仕事でも家庭でも精一杯取り組む姿は、まさに理想の結婚相手と言えるだろう。主人公とヒロインが築く家庭の姿は、わたしにとって、とても理想的なものだった。
そしてこの映画を通じて、わたしは人生とは何かを深く考えさせられた。主人公は、好きなだけ人生をやり直せる能力を持っているがために、初めは人生というものを一種のゲームのようなものとしてみていた。しかし家族を失うかもしれないという岐路に立たされた時に、自分にとって一番大切なことは何だったのかを真剣に考える。
ひとは誰しもひとりでは生きていくことはできない。だからこそ、周りのひとへの愛情を忘れないこと、そしてそれをどのように伝えるのかを、いつも考えなければならないのだろう。


3位「永遠に僕のもの」(2018)

まずわたしはこの映画の日本語のタイトルがとても好きだ。原題を直訳すると「天使」となるところを、なぜこのタイトルが付けられたのか。それは映画を最後まで観れば必ず分かる。「誰」が「何」に対して「永遠に僕のもの」と思っているのか。これは一種恐ろしい考え方かもしれないけれど、わたしはそういう愛の形もあるのだと思っている。そう、これは犯罪映画であるとともに、紛れもなく愛の話なのだ。そしてジェラシーと独占欲の話でもある。でもどこまでが愛で、どこからが独占欲で、なにがジェラシーなのかなんて、考えれば考えるほど分からなくなっていく。
それからわたしがこの映画を愛して止まない理由は、ビジュアルと音楽の良さもとても大きい。紫乃に指摘されて気付いたのだが、わたしが好きな映画は、だいたいビジュアルと音楽の良さによるらしい。そしてもちろん、愛の話であることが、一番大事なのだろう。


紫乃のオールタイムベスト

1位「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」(2019)
2位「ハケンアニメ」(2022)
3位「私をくいとめて」(2020)
紫乃の好きな映画について詳しくは、アーカイブをご視聴ください。わたしは紫乃が挙げた映画はいずれも未視聴なので、近いうちに観てみようと思っている。いずれにしろ原作ありの作品というところがおもしろい。



おまけ

「博士と彼女のセオリー」(2014)

わたしが紫乃に紹介して、観てもらった作品。わたしは公開当時に映画館で観て、観終わった後にパンフレットを購入しながら、「もう二度と観たくない」と強く思った。それくらいに、初めて観たときの衝撃が大きかったし、その時の気持ちを忘れたくないと思った。せっかくなので、その当時の感想メモを公開する。ネタバレになるので、未視聴の方はご注意ください。


愛とはなにか、考えさせられる映画だった。
運命的な出会いをして、恋に落ちて、困難を乗り越えて、結婚して、子どももうまれて、それでも別れはあるのだと思うと、かなしくなった。死別したわけではない。ふたりはいまも生きていて、よき友人だという。でも、だからこそ、かなしくなった。
お互いにお互いを愛しているし、いままで何年も一緒に生きてきて、それでもすれちがいなのか、愛が離れていくのを感じてしまい、お互いのためにふたりはわかれる。それぞれまた愛した別のひとと、幸せな生活を送り、ふたりとも後悔はしていないようだった。だから、かなしくなった。
永遠の愛はあるのだと。運命の出会いはあるのだと、信じていたのに。こんなにも愛し合って、人間として愛し合って、それでも違う道を歩んでいく。そのほうがお互いに幸せになれるとわかっていたのだろう。それでも、共に築いたものを手放すのは怖くなかったのだろうか。
ふたりは別れたからこそ、慈しみあって、共に築いたものを愛することができたのかもしれない。だけど、子どももいて、余命2年と言われてもそれから50年も生きて、どうして別れなければならなかったのか。
愛することは難しすぎて、まだよくわからない。これからも考えつづけるべきなのかもしれない。
(2015/03/31)

登場作品リスト

庵野秀明「シン・ゴジラ」2016年、東宝。
宮崎駿「崖の上のポニョ」2008年、東宝。
タナダユキ「マイ・ブロークン・マリコ」2022年、映画『マイ・ブロークン・マリコ』製作委員会。

宮崎駿「ハウルの動く城」2004年、「ハウルの動く城」製作委員会。
宮崎駿「魔女の宅急便」1989年、徳間書店。

スチュアート・マードック「ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール」2015年、バリー・メンデル。
リチャード・カーティス「アバウト・タイム~愛おしい時間について~」2013年、ユニバーサル・ピクチャーズ。
ルイス・オルテガ「永遠に僕のもの」2018年、K&Sフィルムズ。

グレタ・カーウィグ「ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語」2019年、ニュー・リージェンシー・ピクチャーズ。
吉野耕平「ハケンアニメ!」2022年、映画「ハケンアニメ!」製作委員会。
大九明子「私をくいとめて」2020年、『私をくいとめて』製作委員会。

ジェームズ・マーシュ「博士と彼女のセオリー」2014年、ワーキング・タイトル・フィルムズ。

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