見出し画像

紫乃と美甘の読書会 第3回「森見登美彦」

こちらは紫乃と美甘の読書会の第3回「森見登美彦」についてのログとして執筆しました。読書会は、2022年10月2日に開催されたものです。アーカイブは以下から視聴できるので、ご興味のある方はぜひ。

※このブログは紫乃の了承のもと美甘個人の独断と偏見のもとに執筆されているので、実際には話されたものよりもかなり美甘側に偏った内容になっています。
※ヘッダー画像は表参道にある文房具カフェが映画「夜は短し歩けよ乙女」とコラボをしていたとき(2018年6月)に紫乃と訪れた際に撮影したものです。

マイ・ファースト・森見

わたしたちが初めて出会った森見登美彦作品は、偶然にもどちらも『夜は短し歩けよ乙女』だった。

森見登美彦作品としてはおそらく一番広く読まれている作品でもあり、定番の一作でもある。おそらく森見作品の醍醐味ともいえる、京都を舞台としたどんちゃん騒ぎが一番楽しめる作品でもないだろうか。しかしその文体のとっつきにくさから、紫乃もわたしも出会ってすぐ読むことはなかった。出会って2、3年は読まずに放置していたのだ!(それでもそんな読者も虜にしてしまえるのが森見さんのすごさか)
ちなみにわたしたちが一番好きなシーンは、ともに夏の古本まつりの章である。わたしたちは大学時代に友人たちと非公式で「詭弁論部」(森見読者ならご存知)を結成していたが、その詭弁論部の合宿と称して京都旅行を行い、この古本まつりのモデルとなった下鴨納涼古本まつりに遠征したこともある。
また、詭弁論部では『夜は短し歩けよ乙女』に登場するバー「月面歩行」のモデルとなったバー・ムーンウォークにも何度も訪れているし、映画「夜は短し歩けよ乙女」や映画「ペンギン・ハイウェイ」を観に行ったりもした。森見作品の魅力のひとつとして挙げられるのが、このように作品自体から離れて、実際に街に繰り出して物語の舞台を体験したりすることができるところもあるのではないだろうか。

マイ・フェイバリット・森見(美甘編)

数ある森見作品のなかで個人的ベスト3を挙げてみた。

3位『きつねのはなし』(2006)

森見作品の主流からは少し離れた、幻想文学的な要素が多いのが、この作品の魅力である。わたしは初めて読んだ『夜は短し歩けよ乙女』の印象がとても強かったので、この作品を読んだときに、イメージとはあまりにもかけ離れたその淡々とした語り口に、かえって森見さんへの尊敬度が高まった。
ちなみにわたしはホラーはからっきしダメなので、こちらは人が大勢いるところで読むという荒業を使って最後まで読んだ。それでも読んでよかったと思う。


2位『太陽の塔』(2003)

こちらは森見さんのデビュー作である。そしてこれでデビューするってとんでもない作家だなと思わせてくれる力作だ。分量としてはそれほど多くないので、さらっと読むことができるが、森見さんの魅力のひとつである文体の「まろみ」のようなものはまだあまりないので、よりとっつきにくさを感じるひともいるかもしれない。個人的には、『きつねのはなし』の直後この『太陽の塔』を読んで、逆にそのまろみのなさにぐっと心を掴まれてしまった。この作品における文体は、よく言われているように北杜夫の文体にかなり近いように感じられる。わたしは北杜夫の『どくとるマンボウ航海記』を愛読しているが、それでも正直最初は戸惑ったところもあった。
それからこの作品のもうひとつの魅力は、ヒロインによるところが大きい。ヒロインの水尾さんが、ほんとうに読者も一緒になって恋をしてしまうような魅力的な存在なのだ。森見作品においてなくてはならないマドンナ的存在の、本当の原型がここに描かれているように思える。ちなみに紫乃さん的ポイントは、森見登美彦先生そのひとにとってのマドンナ、本上まなみさんが文庫版解説を書いていることだそうだ。たしかにそれはファンからするとぐっとくる。


1位『恋文の技術』(2009)

個人的に圧倒的第1位を占めるのがこちらの作品。正直、森見作品に限らずとも、好きな小説で10本の指に入るくらいに好きだ。ちょっとこの本について語っているときのわたし、興奮しすぎてて気持ち悪いくらい。笑 あまりにも好きすぎて文庫版の装丁からして好き。表紙の手触りからしてうっとりしてしまう。
こちらは様々なひととの往復書簡からなる小説だが、ラストがほんとうにびっくりさせられるので、ぜひネタバレなしで読んでいただきたい。(といいつつ読書会中にもろネタバレしています。ごめんなさい)個人的にはこれに勝る書簡小説を書くことは不可能なんじゃないかと思っている。こちらも京都の町を舞台としておらず、またヒロインも手紙の中にしか登場しないので、ある種森見作品の中では異色かもしれない。ということは、わたしは森見さんが好きと言いつつ、主流とはちょっと違ったところを愛しているということになるのだろうか……。というのが今回の読書会での新たな発見だった。


マイ・フェイバリット・森見(紫乃編)

紫乃が挙げた作品については、わたしの言葉では語れないので、軽く紹介するのみにとどめておく。彼女の見解について詳しく知りたい方は、ぜひアーカイブをご視聴ください。

3位『四畳半神話体系』(2005)
小説としては2作目の作品。アニメ化もされている。今年、続編となる『四畳半タイムマシンブルース』のアニメがDisney+と劇場で公開された。

2位『夜は短し歩けよ乙女』(2006)
初めに紹介した、小説としては4作目の作品。劇場アニメ化もされている。

1位『ペンギン・ハイウェイ』(2010)
森見作品としては異色の一作。こちらも劇場アニメ化されている。宇多田ヒカルによる主題歌「Good Night」も名曲。

番外編

おまけとして紹介された作品について。

「郵便少年」(2011)
かつて入浴剤のおまけとして小説が付いてくるという「ほっと文庫」という商品として売られていた。『ペンギン・ハイウェイ』と同じく少年が主人公で、作風も似ているので、『ペンギン・ハイウェイ』が好きな方にはおすすめ。現在は角川文庫から出ている『ひとなつの。 真夏に読みたい五つの物語』に収録されているとのこと。

『有頂天家族』(2007)
紫乃イチオシの作品。アニメ化もされている。オモチロク、かつ哀しく。続編の『有頂天家族 二代目の帰朝』はよりおすすめとのこと。

『太陽と乙女』(2017)
エッセイ集。『太陽の塔』が好きな方におすすめ。紫乃曰く、森見さんのエッセイは森博嗣のエッセイにも近いものがあるとのこと。

「文藝別冊 総特集 森見登美彦: 作家は机上で冒険する!」(2019)
森見さんの仕事場の本棚や、お気に入りの品々などが紹介された、ファン垂涎の一冊。どうやらまだ手に入るようなので、わたしも欲しい。

おわりに

今回は森見登美彦をテーマに約1時間半に渡って語ったが、まだまだ魅力を語りつくすことはできなかった。今回の嬉しい驚きとしては、リアルタイムで視聴してくださった方が一番多い時で15人ほどいらっしゃったことがあった。森見先生の人気と話題性がうかがえた。また、紫乃と選んだ本がすべて異なっていたのもかなり意外だった。それもまた森見さんの魅力の幅広さを物語っているのかもしれない。
今後の野望としては、『熱帯』など最近の著作についてはわたしが未読なので(紫乃は単行本として出たものはすべて読んでいるとのこと。読者の鑑!)、読み次第また個別で回を設けて語りたいと思う。
最後に、ここまでnoteを読んでくださった方向けに、もう一度アーカイブのリンクを貼っておく。

この読書会は現在のところほぼ隔週土曜日に開催されていて、Twitterのスペースから視聴できる。ちなみに第7回までは紫乃のTwitterアカウントから配信されていたが、第8回以降は新たに作成した紫乃と美甘によるサークルアカウント「箱庭」から配信予定。また、この回以降のログも順次美甘のnoteにて公開予定なので、どうぞよろしくお願いします。

登場した作品

森見登美彦
『夜は短し歩けよ乙女』2006年、角川書店。
『きつねのはなし』2006年、新潮社。
『太陽の塔』2003年、新潮社。
『恋文の技術』2009年、ポプラ社。
『四畳半神話体系』2005年、太田出版。
『ペンギン・ハイウェイ』2010年、角川書店。

『四畳半タイムマシンブルース』2020年、KADOKAWA。
『ほっと文庫 郵便少年』2011年、KADOKAWA。
『有頂天家族』2007年、幻冬舎。
『有頂天家族 二代目の帰朝』2015年、幻冬舎。
『太陽と乙女』2017年、新潮社。
『熱帯』2018年、文藝春秋。

アンソロジー・ムック
角川文庫編集部編『ひとなつの。 真夏に読みたい五つの物語』2014年、KADOKAWA。「文藝別冊 総特集 森見登美彦: 作家は机上で冒険する!」2019年、 河出書房新社。

アニメ・劇場版アニメ
「夜は短し歩けよ乙女」2017年、東宝。
「四畳半神話体系」2010年、マッドハウス。
「四畳半タイムマシンブルース」2022年、サイエンスSARU。
「ペンギン・ハイウェイ」2018年、東宝。
「有頂天家族」2013年、P.A.WORKS。
「有頂天家族2」2017年、P.A.WORKS。

その他
北杜夫『どくとるマンボウ航海記』1960年、中央公論社。
宇多田ヒカル「Good Night」2018年。(「初恋」(2018年、エピックレコードジャパン)に収録)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?