ネスプレッソがコンゴ民主共和国のコーヒー農家への長期支援プログラムを発表/大企業のコーヒーは嫌いですか?

元記事:Nespresso Pledges Long-Term Support for Eastern DRC Coffee Sector - Daily Coffee News [Nick Brown | August 19, 2020]


ネスレ子会社のネスプレッソは、持続可能性に焦点を当てた数百万ドル規模の「リヴァイビング・オリジン Reviving Origins」プログラムの一環として、コンゴ民主共和国(DRC)のコーヒーセクターを支援する長期プログラムを発表し、ネスプレッソ米国で初となる、コンゴ民主共和国東部産のアラビカコーヒー「カハワ・ヤ・コンゴ Kahawa Ya Congo」を発売した。


ネスプレッソは昨年、プロジェクトパートナーのテクノサーブ TechnoServe と米国国際開発庁(USAID)、2011 年にコーヒー生豆商社のオーラム Olam が設立した会社ヴィルンガコーヒー Virunga Coffee Company とともに、コンゴ民主共和国への投資を開始した。

ネスプレッソのプログラムは、研修や技術支援によるコーヒーの品質向上、持続可能な栽培方法による農家の収入増を目的とし、現在参加しているコンゴ民主共和国のコーヒー農家約 450 人を2024 年までに 5,000 人に増やすことを目標としている。 コーヒーはコンゴにとって歴史的にも重要な輸出品目であり、国営化された生産量は 1980 年代から 90 年代にかけてピークを迎えたが、民族間対立による内戦やインフラの崩壊、買い手の不安定化などによって小規模農家がコーヒーを栽培・販売することは困難となり、2010 年には国全体の生産量は 1990 年の 10 分の 1 になっていると推定されている。


コンゴ民主共和国の東端に位置するキブ湖畔のアラビカコーヒー栽培地域は、ルワンダやケニアなどの近隣諸国の最高級コーヒーにも匹敵する品質のコーヒーが生産される可能性を秘めていると考えられている。しかし今年、コンゴ民主共和国東部のコーヒー生産者は、武装集団による攻撃、土石流や洪水、COVID-19、さらにはエボラ出血熱の発生など、様々な困難に見舞われている(注釈:詳細はこの記事から)。

Techno Serve 社の CEO であるウィリアム・ウォーシャウアー氏 William Warshauer はネスプレッソが公表した声明の中で「私たちが協力しているコーヒー農家は、長年にわたって信じられないような困難を乗り越え、コーヒーの品質を高めることで彼らの生活も向上させようと決意しています。より良い農法や生産処理の技術、そしてネスプレッソのような信頼できるバイヤーの関与によって、これらの農家はすでに収入を増やし、家族のためにより良い未来を築き始めています。」と述べた。


ネスプレッソは昨年、「リバイビング・オリジン Reviving Origins」プログラムに 1,000 万スイスフラン(約 1,090 万米ドル)を投資することを発表した。 同社は過去2年間で、かつて紛争地域として荒廃したコロンビアのカケタ Caquetá 県土地改革によってコーヒー市場が乱高下したジンバブエ2017年のハリケーン「マリア」と「イルマ」によってコーヒー農地が破壊されたプエルトリコなどの地域や国とコーヒーの購入契約を結んでいる(注釈:リンク全て英語)。 ネスプレッソは今年 1 月、政府が昨年反政府勢力と和平条約を結んだモザンビークの地域にもプログラムを拡大することを発表している。 

ネスプレッソは、コーヒー関連の活動に加えて、南キブ全域のコーヒー栽培コミュニティに清潔な水へのアクセスと医療施設をもたらすために約 110 万ドルを投じており、安全な水へのアクセスポイント 23 か所と 6 つの診療所を設置することになっている。

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ネスプレッソ社の他の取り組み→グアテマラにおける児童労働撲滅への行動計画の記事はこちら

スペシャルティコーヒーを始めてすぐの頃、「カップクオリティを重視」「ダイレクトトレード」「小規模生産者を支援」という言葉に「それまで知っていたコーヒーにないもの」を感じ、世界的規模の大企業やチェーン店をことごとく嫌いになっていた時期があったのをふと思い出しました。

もちろんすべて知識不足から来る(まあ若さゆえの、という部分もあったと思いたい…)勘違いなのですが、スペシャルティコーヒー業界で働く人あるある、という部分も少なからずあるのではないでしょうか(みなさんはどうですか?)。

今はこういった言葉が必ずしもスペシャルティコーヒーに限定されたものではないこと、そもそもスペシャルティコーヒーとコマーシャルコーヒーは地続きのものであって明確な区分は非常に曖昧であること、また大企業がその資本力を使って生産国や地域に支援を行っていることなどを知り、自分の勘違いに気づくとともに「コーヒー産業」という大きな枠組みでとらえられるようになってきたと思います。

例えば個人のロースターが現地の生産者と信頼関係を築き、直接購入する、それを毎年続ける、というのはとても素晴らしいことです。ただ、その関係は非常に閉じたものであり、コミュニティ全体に対して投資ができるわけではありません。
それに対して、大企業が地域や国に投資して、水道や医療などのインフラ整備や技術・設備支援を行うというのは生産コミュニティそのものにとって大きな意味を持ちます。個人レベルのロースターやエクスポーター/インポーターが率先してできることではありません。しかし投資したからといってその支援額が妥当な額なのかはまた別の話であり、さらに大企業がコーヒーをプレミアム価格で買い上げる保障をしたわけではないのです。

要は、どちらも「いいところ」と「悪いところ」があり、簡単には善悪の判断はつけられない、と言いたいのです。
必ずしもスペシャルティコーヒーが善でコマーシャルコーヒーが悪なのではない。必ずしも小規模ロースターが善で、世界的大企業が悪なのではない。内容によるんですよね(昔、カッピング修行中のころ口すっぱく「印象でカップをとるんじゃない、質でとらんか質で」と言われたのを今でも思い出します…)。スペシャルティコーヒーこそが素晴らしい、という考え方は危険だと今は思っています。

スペシャルティコーヒーを始めたばかりの頃の自分に対する戒めのような文章になってしまいましたが、もしスペシャルティコーヒーを扱い始めたばかりの人がこの note を読んで、少しでも何か考えるきっかけになってくれたら嬉しく思います。

junko