ブラジルコーヒー業界から奴隷制をなくそう。GCPの新政策 【追記:日本の働き方もほぼ奴隷という話】

元記事:Global Coffee Platform Launching Modern Day Slavery Initiative in Brazil - Daily Coffee News [Nick Brown | July 24, 2020]


非営利団体グローバル・コーヒー・プラットフォーム(GCP)は、ブラジルのコーヒー産業における現代の奴隷制度(モダン・スレイバリー)の問題に取り組む4年間のイニシアチブを開始する。 

この取り組みは、ブラジルの奴隷制撲滅団体 InPACTO とブラジル輸出業者協議会 Cecafé の協力を得て実施され、世界中のコーヒー焙煎業者、小売業者、コーヒーサービスパートナーからの資金提供をもとにコーヒーの協同組合、トレーダー、普及サービスの提供者など幅広い実施パートナーが参加する。 150 以上のメンバーからなるネットワークの中には、世界有数の大手コーヒー商社や焙煎企業が含まれているが、GCP はイニシアチブへの金額を公表していない。同グループは、ロースター、小売業者、取引業者、その他の NGO など、世界のコーヒーコミュニティ全体の関係者に積極的に支援を求めている。


世界最大のコーヒー生産国であるブラジルでは、コーヒーを含む数多くの農業・工業分野で強制労働や人身売買の歴史がある。 そのため、ブラジルは奴隷制のような状況の改善に率先して取り組んでおり、2004 年から政府は強制労働や人身売買に関与した企業の登録簿(通称「ダーティーリスト」)を維持している。

このイニシアチブが開始した背景には、デンマークの非営利調査団体「ダンウォッチ」が発表した、ブラジルのコーヒー産業における強制労働や児童労働の問題点を指摘した 2016 年の報告書 がある。ダンウォッチがこの証拠を持って多くの大手コーヒー買付企業に接触したが、一社たりともサプライチェーンにおける違法労働の具体的な事例を把握していなかった


さらに先週(注釈:元記事投稿時点)、ブラジルのミナスジェライス州にあるコーヒー農園で 9 人、先月にはカンポス・アルトスのコーヒー農園で 34 人の労働者が奴隷労働から救出された。 ブラジルの非営利調査ジャーナリズム団体「レポーター・ブラジル」の事務局長によると、ブラジルで 1995 年以降 55,000 人近くの労働者が現代の奴隷制度から救出されているという。

数ヶ月間の計画を経て来月から開始される GCP イニシアチブは、ミナス・ジェライス州とエスピリト・サント州の主要な成長地域に焦点を当てている。

同グループによると、このプロジェクトは、現代の奴隷制度につながる根本的な状況を特定し、地域全体の行動を変化させるためのリーダーシップネットワークを構築することを目的としているという。
各国政府が COVID-19 パンデミックにリソースを割くことで世界中で現代の奴隷制度が増加すると予想されており、このような状況に変化をもたらすことは指数関数的に困難になっていく可能性がある。GCP は先週のイニシアチブローンチにおいて「コーヒー産業における劣悪な労働条件や労働者の虐待につながる複雑な社会問題を、単一の行動で完全に解決することはできない。しかし、コーヒーセクターの支援と集団行動を根底から結集するために効果的なモデルを通じて協力すれば、これらの問題を克服できると信じている」とアナウンスした。

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現代の奴隷制度とは、いったいどのようなものでしょうか。イギリスのチャリティー団体アンチスレイバリー Anti Slavery は、以下のように説明しています。

現代の奴隷制とは、個人的または商業的利益のために他人から過酷に搾取することです。身の回りに存在しており、多くの場合は目に見えません。私たちの服を作ったり、食べ物を提供したり、作物を収穫したり、工場で働いたり、家の中で料理人や掃除人、乳母として働いたりしていることがあります。 外から見ると普通の仕事に見えるかもしれませんが、暴力や脅迫、借金の押し付け、パスポートを取り上げられて国外追放の脅迫を受けている、など様々な理由で人々はコントロールされています。多くの人々は、貧困や不安から逃れ、生活を改善し家族を養おうとしたからこそ、このような抑圧的な罠に陥ってしまったのです。そして今、彼らはその状況から逃れられなくなっています。
現代の奴隷制度は様々な形で存在しています。最も一般的なのは

人身売買:強制的な売春、労働、犯罪、結婚、臓器摘出などの目的で利用するために、暴力、脅迫、強要を用いて人を輸送、募集、収容すること。
強制労働:罰という脅しの下で、人々が自分の意思に反して強制的に行われる仕事やサービス。
借金縛り/担保付き労働:世界で最も普及している奴隷制度。貧困に追い込まれた人々が借金をし、借金を返済するために働くことを強制され、雇用条件と借金の両方をコントロールできなくなる。
血縁に基づく奴隷制:最も伝統的な形態の奴隷制で、人々は誰かの所有物として扱われ、その「奴隷」の地位は代々受け継がれる。
子供の奴隷制度:子供が他人の利益のために搾取されること。子供の人身売買、子供の兵士、子供の結婚、子供の家庭内奴隷なども含まれる。
強制結婚:誰かが自分の意志に反して結婚し、離れることができないこと。ほとんどの児童結婚は、奴隷制とみなされる。

以上、アンチスレイバリーのサイトから引用しました。

そもそも奴隷制度というのは、古代から人類が利用してきたシステムです。戦争で勝った者が捕虜や被征服民族、特に女性や子供を奴隷として扱い労働力として利用するほか、奴隷を所有する事自体が財産だとみなされていました。

近世、特にコーヒープランテーションにおけるアフリカ奴隷貿易に関しては、過去の記事「人種差別主義に関する米コーヒー業界への公開書簡」の中で触れています。奴隷制が撤廃された現在でも歴史的にこうした立場にあった人たちへの社会の不均衡・差別は常に存在し続けており、現在アメリカに端を発して広がる Black Lives Matter ムーブメントも元をたどればこの問題にいきつきます。

現代の奴隷制度については、こういった歴史的な奴隷制度のシステム(血縁によって、親から子の代に渡って引き継がれる)に加え、借金の方に働かせるもの、また特に子供を利用したものが特徴的であるように感じます(児童労働に関しては過去の記事「児童労働撲滅に向けたネスプレッソの行動計画」で取り上げています)。また、その製造過程に現代の奴隷制度が存在しているリスクの大きい主な製品にはノートパソコン・デスクトップパソコン・携帯電話などの製造、衣料品、食料品(魚介類、カカオ、サトウキビなど)が挙げられます(出典:Global Slavery Index)。

個人的な話になりますが、以前オーストラリアの田舎の農場で働いていた際、勤務があまりにも辛くて辞めたかったものの、物理的にその場所から移動することが不可能で辞められなかったという経験があります(車がない、運転免許がない、公共交通機関へのアクセスがない、農場の wifi がないとスマホの電波が通じない)。幸いにも後にその状況からは開放されるのですが、現状を解決する手段がない→諦めて現状を受け入れるしかない、という思考回路はそういった絶望状態にある中では極めて自然な思考回路であるとも言え、状況を変える政府や団体の取り組みという外部からの圧力がない限り非常に危険な状況だと感じます。

悲しくも、もはや日本で一般的になってしまった「ブラック企業」「社畜」という言葉や働き方も、「給料・雇用形態を盾とした脅迫の下で行われている強制労働」という意味で現代の奴隷制度に近いものがあります。このような状況が常態化・一般化してしまっている現状では、そういった状況を異常だと考える精神力、認識能力すら失われてしまうことがあります。さらに、そういった(ある種強制労働にも近い)労働状態を「勤勉」という言葉で正当化・英雄視し、それをすべからく全員に求めようとする風潮があるようにも思います。

日本は現代の奴隷制度に大きく依存していながら、具体的な取り組みをしていない国の一つ(出典:Global Slavery Index)であり、言い方を変えれば奴隷制度の存続に大きく貢献している国であるとも言えます(個人的には、奴隷制度そのものに対して鈍感になっているようにも感じます)。こういった状況は一人で戦ってどうこうという問題ではなく、世論や政治を通して仕組みそのものを変えていく必要があります。自分はそうじゃないから大丈夫、関係ない、ということではなくて、そういう人たちが存在していて、それを見て見ぬ振りしているということが問題だと感じます。

何か具体的なアクションを個人レベルで取っていくのは難しいかもしれませんが、こういったイニシアチブに賛同している企業の商品を優先的に購入する、きちんと労働者の状況を把握し発表している企業を支援する、など小さなことから始めることが大事なのではないでしょうか。私もできるところから少しずつ初めたいと思います。

Junko