コーヒー業界の「正しい抽出温度」信仰は本当に正しい?最近の研究でわかったこと

元記事:New Coffee Brewing Study Challenges Water Temp Norms - Daily Coffee News [Nick Brown | October 5, 2020]

カリフォルニア大学デービス校コーヒーセンター UC Davis Coffee Centerは、最近の研究において「抽出に使用する湯の温度は、抽出したコーヒーのテイストプロファイルにどのような影響を与えるか」という”業界内における通説”に挑む検証を行った。

学術誌「Scientific Reports」に掲載された論文によるとその研究の結果、抽出濃度と抽出率が一定の場合、抽出に利用する湯の温度が変化しても出来上がったコーヒーのカッププロファイルに変化が生じないことが示された。 


この研究は、カリフォルニア大学デービス校コーヒーセンターとスペシャルティコーヒー協会(SCA)の数年に渡る共同研究から生まれたもので、低温抽出(コールドブリュー)における研究は行われていない。 この研究結果は品質と再現性を重要視するコーヒーマシンメーカーに影響を与えるだけでなく、出来上がるコーヒーにどの要素が最終的な影響を与えるかを特定するという意味で、コーヒー業界全体により信頼度の高い情報をもたらすと考えられる。

今回の研究は「フィルターバスケットの形状が抽出物に与える影響」などの補完的な研究とともに、1950 年代にマサチューセッツ工科大学 M.I.T. の化学者アーネスト・アール・ロックハート氏 Earnest Earl Lockhart によって開発されて以来参考文献として広く利用されてきた「コーヒー・ブリューイング・コントロール・チャート Coffee Brewing Control Chart」のアップデートと拡充を目的とした SCA の様々な取り組みの一環として行われた。 報道関係者向けの書面によるQ&Aの中で、SCAの最高研究責任者であるピーター・ジュリアーノ氏 Peter Giuliano とUCデービスコーヒーセンター長兼主席研究員のウィリアム・リステンパート教授 Prof. William Ristenpart は次のように述べた。


抽出温度は、教育的な側面や抽出技術をはかる意味でもスペシャルティコーヒーにおいて重要な要素であり、きちんと調査を行いたいと考えていた。また、この研究に協力してくれた Breville 社との対話により、この研究がコーヒーマシンメーカーにとっても重要な関心事であり、コーヒー業界の様々な事業や部門にとっても同様である可能性が高いことに気付いた。

抽出時の温度は非常に重要であるという当初の仮説に対し、実際は抽出濃度と抽出率をコントロールすれば温度はほとんど重要ではないという結論になり、我々も驚いている。


歴史的にコーヒー業界では、プロの品質チェックであろうとカジュアルな楽しみ方であろうと、正確な温度の湯をコーヒーの抽出に用いることは不可欠な要素の一つだと考えられてきた。
コーヒーを焙煎する企業の多くは、90.5~93.3°C 程度の温度の湯で抽出することを推奨している。SCAのホームブリュワー認証プログラム(注釈:SCAがブリュワーやドリップマシンに与える「お墨付き」のことです)でも、抽出サイクル中にコーヒー豆と接触する際の湯温を 92~96°C に保つことが求められている。 

今回の研究では、87°C、90°C、93°Cと、異なる3つの温度で抽出し、出来上がったコーヒーを比較した。その結果、抽出濃度の指標である総溶解固形物(TDS)と抽出率が同じであれば、テイスターは抽出温度の違いによるテイストプロファイルの変化を識別できないことがわかった。


リステンパート教授はこの結果について、抽出時の湯温が重要でないという意味ではなく、湯の温度が高ければ高いほど抽出時間が早くなるだけと指摘した。Q&Aの中で、「抽出時間、コーヒーの挽き目、抽出温度はどれもコーヒーの抽出において非常に重要な要素だ。しかし今回のデータにより、それらが重要なのはTDSや抽出率に影響を与えるからであって、コーヒーそのものを本質的に変化させるからではない、ということが強く示された(少なくとも今回テストした温度という観点では)。繰り返しになるが、重要なのは目的地(=カップの中のコーヒーの品質、カップクオリティ)であって、そこにたどり着くまでの正確なルートではない」と述べた。

----------------------------------------------------------------------------

今回の記事からは以上です。

junko