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アオハル♂ストライカー 第6話

☆選考対象外ですが、ぜひ読んでみて下さい!


鷲ヶ峰サッカー部員たちが、猛練習に明け暮れた週の土曜日。
全国高校サッカー選手権大会の神奈川県2次予選2回戦の試合が、県内各地で行われた。
県立鷲ヶ峰高校サッカー部は、県立いずみ野高校に6-0と勝利した。

この試合では、悠真が2点、泰斗に貴芳、颯一と歩夢も1点ずつを挙げた。
危うい場面もあったものの涼太が万全のセービングで、相手チームを零封する快勝だった。

次の試合まで1ヶ月ほど間が空くが、相手は私立港南学院上大岡高校。
サッカーの強豪校で名を馳せている強敵だ。

ならばこそ、練習に励まなければならない、次の日の日曜日――
用事があると嘘をつき、サッカー部の日曜練習をサボった泰斗は、吉祥寺駅に降り立っていた。


黒色スキニーパンツに紺色チェックシャツ、黒のショルダーバッグを肩に掛けた出で立ちの泰斗は、顔がニヤけてはこらえることを繰り返している。
これから、憧れの名門女子高の学園祭に行くのだ。
サッカー部の部室で直樹の前で、イヤらしそうにニヤけていたのは、こういうことだったのだ。

どんだけ可愛いコがいるんだろう…、と想像してはニヤけてしまっている泰斗である…

********************

そうして歩くこと10分、私立吉祥女学院中学高等学校の正門前に着いた。
自分の前に立った泰斗を、優梨恵は両手を腰に当てて顎を上げ、軽蔑してる感アリアリでいる。

「…ど、どうしたの?」
優梨恵の態度に、うろたえている泰斗。
「その、スケベそうな眼つき、やめて」
「へ?」
「海で会った時と、同ンなじ眼をしてンじゃん」
優梨恵は右手の人差し指で泰斗の額を小突くと、くるりと向きを変えて学園祭のアーチで飾られた正門の中に入って行く。

図星を突かれた泰斗は意気消沈した表情で、優梨恵の後をトボトボとついて行く…

≪夢にまで見た、女子高の学園祭なんだぜ…≫
≪ここでユリっぺを怒らせたら、またとないチャンスが台無しに…≫
などと肝に銘じながら泰斗は、学園祭に来たいきさつを思い出している…

******************

「――298・299・300!!」
リフティングが300回になったところで、優梨恵がサッカーボールを高く蹴り上げた。

呆気に取られているコンビニの制服姿の泰斗が見ている前で、汗びっしょりの顔の前でボールをつかみ取る優梨恵。
「…すっげえナァ」
感服した顔で、マスクを着けた泰斗が拍手をする。

「あたしの勝ちだよネ?」
高校の制服姿の優梨恵が、荒い息づかいで腕まくりをしながら、勝ち誇るようにしている。

「はあ?何だよ、それ?」
「あたし、言ったよネ?」
「勝負したおぼえ、ネェし」
「ええ~っ?!ズルいよ、そんなぁ~」
地団駄を踏んでいる優梨恵。

「ちょっと、栗林く~ん!」
コンビニの入口扉から、礼奈が身を乗り出して呼んでいる。
右手に電話の子機を掲げており、電話対応をしていて手が足りないらしい。

ガラス越しに店内を見るとレジカウンターの前に男性客が立っていて、こちらをガン見している。

「――ヤベっ」
きびすを返した泰斗は、優梨恵を放置して店内へ駆け込み、レジカウンターの中に入って男性客の対応を始めた…


しばらく来店客の対応を繰り返していると、制服上着の胸ポケットでスマホのLINE着信音が鳴る。
一段落してから見てみると、優梨恵からのトーク着信だ。

“卑怯者”
のっけからの挑発トークに、しかめっ面の泰斗が返信トークを打つ。

“何なんだよ、一体?”
“勝ったンだから、あたしの言うコトきいてよ”
“だから、何なんだって?”
“来週の日曜、ヒマでしょ?”
“ヒマじゃねえし”
“じゃあ、いいよ。卑怯者には頼まない”
“だから、何なんだって?!”

“その日、あたしのガッコの学園祭なンだ”
優梨恵からのトークを見て、顔を引きつらせあわてて返信を打つ泰斗。

“ゴメン”
“来週の日曜、ヒマだった”

“あたしの言うコト、きく気になった?”
“誠に申し訳ありません”
“優梨恵サマのおっしゃるコトは、何でもききます”
“よろしい。じゃあ、命令するわ――

******************

正門での受付を済ませて、泰斗は優梨恵と横並びで校内を歩いて行く。
学園祭は盛況のようで、廊下はかなり混み合っている。
当たり前なのだが、どこを見ても女の子だらけで、しかも可愛いときた。
泰斗は至福のひとときを、満喫している気分でいるが…

「いてっ!」
頭を叩かれた泰斗が横を見ると、優梨恵が般若はんにゃのような顔でにらんでいる。

「…な、何だって―」
「スケベな眼つきは、やめてって言ったよネ?」
「そ、そうだけどさぁ…」
この状況で冷静でいろとは、泰斗にとっては拷問ごうもん同然である…


仏頂面で人混みの廊下を進んでいく優梨恵の隣を、泰斗はスゴスゴと歩いている。
≪彼氏のフリを、するったってさぁ…≫
優梨恵の命令は、学園祭で彼氏のフリをする、ということだった。

憧れの名門女子校の学園祭に行けるのだから、泰斗としては願ったりかなったりの話だが…
彼氏のフリをするということが、どうも釈然としない。
何のためなのか気になるところだが、まずはこのJKだらけの至福のひと時を、堪能しようと思う泰斗である。


「…ユリっぺは、部活、やってンの?」
とりあえず、話でなごんだ雰囲気にしようかと、泰斗が切り出す。
「チアリーディング」
歩きながら優梨恵が答える。

「えっ?じゃ、じゃあ、学園祭で何かやる――」
「残念でした。お披露目会は、昨日終わったの」
「ええっ?!そんなぁ――」
「タイトがスケベな眼つきでいられたら、たまんないからサ。だから、来てもらうのは今日にしたの」

何も言い返せず、実に悔しそうな顔をしている泰斗。
してやったり顔の優梨恵は、泰斗の顔を見ようともしない。
恋人同士には程遠い雰囲気で、二人は並んで歩いている…


廊下の角を曲がった所で、優梨恵が立ち止まったので泰斗もあゆみを止める。
顔を強張らせて優梨恵が前を見ているので、視線を追ってみる。

廊下の人混みを反対側から歩いて来る、腕を組み合っていて、いかにもという具合のカップルがいる…
≪あの…≫

カップルの吉祥女学院高校制服の少女は、8月に湘南の海で優梨恵たちと、彼氏のバンド演奏を見に来ていた麻衣だ。
ということは、腕を組み合っているのは彼氏ということか…

泰斗が思案していると、いきなり優梨恵が左手で泰斗の右手を握る。
仰天した泰斗が優梨恵を見ると、すまし顔で前を見たまま…


そうこうしているうちに、栗色ロングヘアの麻衣がこちらに気付いた。
「きゃあ~、ゆりえぇ~」
麻衣が右腕で彼氏と腕を組んだまま、左手を振りながら近寄って来た。

優梨恵は泰斗の右手を左手で握ったまま、ぎこちない笑顔で右手を振り返している。
「ああ…。夏に海で会った、カレだよね?」
麻衣が値踏みするかのように視線を上下に動かして、泰斗を見ている。

「…あン時は、久しぶりに会ったって言ってたよネ?」
「あ、あれから、付き合っているのよ」
怪訝けげんそうな麻衣に、泰斗の右手をぎゅっと握って応じている優梨恵。
優梨恵のそんな様子を見て、泰斗は何となく、事の次第を察したが――
努めて平静を装っている泰斗だが、麻衣と視線が合いそうになって、慌てて眼を逸らせたりもしている…


「ま、麻衣は、相変わらずアツアツなのネ」
はぐらかすかのように冷やかす優梨恵。
「ゆりえだってアツアツじゃん、手ぇつないでるしぃ~」
黒の絹シャツにダメージジーンズ、茶髪のロン毛という出で立ちの彼氏の左腕に、右腕でぶら下がるようにしながら、麻衣が冷やかしている。

「ネェ。喉かわいちゃったからァ、あたしたちのクラスで、お茶しようよ」
「い、いいネ」

******************

泰斗と優梨恵は手をつないだまま、麻衣たちの後に続いて廊下の人混みを歩いている。
「――あたしたちのクラスって?」
泰斗が顔を寄せて、ボソボソとささやく。

「あたしたちのクラスの出し物が、カフェなのよ」
優梨恵がボソボソと応じている。
この時に泰斗は、二人が同じクラスであることを初めて知った。


「カフェって競争率高くて、ウチのクラス、抽選に当たってサ…」
ボソボソと囁き合いながら二人は、手をつないだまま階段を2階に昇る。
そして、華やかに飾り付けがされた教室の入口を入る。

中は机を4つ付けて白のクロスを掛けた4人掛けテーブルが8卓あって、衝立ついたてで調理場と仕切られている。

いらっしゃいませと、メイド姿の女生徒に案内されたテーブルに、泰斗と優梨恵は麻衣たちと向かい合って座る。
既に6卓が埋まっていて、カフェは盛況のようだ。


「…ユリっぺもメイド服、着たの?」
「そうよ。昨日ね」

――ユリっぺのメイド服…

卑猥な想像を巡らせていると、泰斗は左の太ももをつねられる。
「――いてっ!」
顔をしかめて、テーブル下で優梨恵の手を払い除ける泰斗。

「…ヤらしいこと、考えたナァ?」
仏頂面で、ボソボソと囁く優梨恵。
「い、いいじゃンかよ、別にィ…」

「――どしたン?」
二人の様子を見て、対面に座る麻衣が怪訝そうにしている。
「――あ、いや――、まあ…」
泰斗の口癖で、優梨恵がはぐらかしている。 


泰斗と優梨恵はテーブルに座ると、つないでいた手を離していたが…
麻衣は彼氏と腕を組んだままで、これ見よがしにイチャついている。

「ねえ、ゆりえ達は、どこまでしたの?」
運ばれてきたドリンクをストローで吸いながら、麻衣がキワドイことをいてくる。
「――あ、いや――、まあ…」
動揺を隠せないでいる優梨恵。

その隣で泰斗は、ドギマギしまくっている。
ドリンクを飲む気には、とてもなれない――

≪――何なンだ、この空気は…≫



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