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交縁少女AYA 第12話

週末金曜日の夕方、NPO法人マザーポートの適応支援ハウス…
広めのフローリングの部屋で、テーブルを挟んで向き合って座る綾と愛莉、五十嵐と和真。
何ともいえないピリピリした空気が、四人の間にただよっている。


「――本当なの?カズマ?…」
顔をしかめながら綾が、和真に尋ねている。

「君らと同じグループだった何人かからも、証言を取っている」
「あンたに聞いてないから」
五十嵐を一蹴いっしゅうして、和真を見つめる綾。

「――…本当だ」
うつむきながら和真が、言葉を絞り出している。

ここから綾は、聞くに堪えない事実を知ることになる――

******************

≪オマエ、木村のコトが気になンだろ?≫
≪――ま、…まあナ≫
≪だったら今日、俺が木村に酒飲ませっから、おまえがシェアルームに――≫

≪そ、そンなに上手くいくかぁ?≫
≪ヘーキヘーキ。木村、ぜってぇツブれっから≫
≪そっか…。酒飲んだコトねぇなら…≫

≪俺がミンナの注意を、逸らすからサァ≫
≪ど…、どうすンだよ?≫
≪うるせえのは菊池と田澤だから、おれが引きつけっから――≫
駆琉が話すのに、和真が大きくうなづいている…

≪連れてって、ヤッちゃえよ――…


「――そしたら、いきなり芹澤が来て…」
顔を強張こわばらせて愛莉が、対面に座る和真の話を聞いている。
「俺のコト、ボッコにしやがって…」
愛莉の隣に座る綾は、信じられないという表情で、ほうけてしまっている。

「それで俺は、1ヶ月も入院しちゃって――…」
俯いて肩を震わせながら、和真が嗚咽おえつを始めてしまう…


「…菊池さんを、知ってるよね?」
今日の昼間に、マザーポートの事務所を訪ねて来た彩乃のことだ。
「――ウン…」
五十嵐に問われて愛莉が答えるが、綾はボーッと呆けたままで無反応…

「彼女も、証言してくれた一人なんだけど――」
腕組みをして淡々と話す五十嵐の隣で、和真が嗚咽を続けている。

「それまでも芹澤くんは、ODオーバードーズを隠れてやらせて、酩酊させた所でレイプしたりして、クループのを何人か、自分に手なずけていたらしい」
「ODはダメだったはずじゃ…」
嫌悪感を露わにしている愛莉。


「親御さんに用意してもらったマンションの自分の部屋を、グループのシェアルームにしたのは、そのためだった…」
淡々と話し続ける五十嵐。

「部屋の中なら何をやっても、外からは分からないからな」
「だって、あのシェアルームは――」
「警察の補導から避難するため――ってのは、表向きだったのさ」
絶句してしまう愛莉の隣で、相変わらず呆けている綾…


ふぅ~っと、ため息をついた五十嵐が話を続ける。
「今度はレイプを仕組んでまで、自分に手なずけるとは…と、菊池さんは嫌気がさして、『マザーポート』に来てくれたんだ」
「――俺も…」
嗚咽しながら和真が、話に加わる。

「菊池さんが病院に見舞いに来てくれて、ここを紹介されて…」
「ホント…、よく来てくれたね」
五十嵐が和真の肩を、ポンポンと優しく叩いている。


「岡崎くんは、ここでカウンセリングと就労訓練を受けて、今は居酒屋で働いているんだ」
「でも、それって…」
愛莉が、納得がいかない表情でいる。

「そうだね。まだ木村さんから、許してもらったワケではないからね…」
五十嵐からジッと見つめられても、綾は視線を逸らせて、ボーッと呆けたままでいる…

******************

「グループを解散した理由は、覚えてるよね?」
「あたしタチの高校入学が決まったから、って…」
五十嵐に問われて、愛莉が答えている。

「もうミンナも、いい大人だからって…。俺にも夢があるからって、駆琉が――」
そこまで話した愛莉が、何かに気付いたかのようにハッとする。
「まさか、それも…、表向き?」

「そう。芹澤くんには、薬事法違反と不同意性交の容疑で捜査が迫ってたんだ」
唖然としている愛莉の隣で、呆け続けている綾だが――
駆琉とのセックスの時に、会話した言葉が頭に浮かんでいる…

――それでなの?…


≪部屋に女の子を隠れて連れ込んで、ヤク漬けにしてるとかサァ…≫
――その娘が進んで、オレの部屋に来たンだからって…

≪オレが借りてる部屋に、その娘が自分で来たンだからサァ…≫
――だから、レイプじゃないンだよって…

≪なあァ~?綾まで、そンな眼で見ンのかぁ?≫
――あン時、あたしは謝ったけど…

≪そンな眼で見られンのが、超ウゼえンだ、俺はよォ…≫
――でも、グループの娘とエッチしたのを、カケルは否定しなかった…

≪あるコトないコト話されんのが、まじウザくって…――≫
――だから、証言されたらヤバいから、ミンナを解散させたってコト?…


「結局それは、嫌疑不十分で――」
五十嵐が話している途中で、いきなりガタンと綾が立ち上がる。

驚く愛莉と和真には構わず、綾はテーブルに置いてあった肩掛けボディバッグを、バッと鷲摑わしづかみにする。
そしてドタドタと、小走りで部屋から出て行く。


「ちょ――、ちょっと、綾ァ!」
愛莉が立ち上がって、追いかけようとするが、
「大丈夫だ!」
五十嵐が、大声で制している。

「だって、追いかけなきゃ!」
「行くトコは、ひとつだろ?」
落ち着き払っている五十嵐が、愛莉をなだめている。

******************

「――でも、言われてみれば…」
右手をあごに当てて考えながら、愛莉がつぶやいている。

「そンなウワサ、聞いたコトある…」
呟く愛莉を、隣で和真がジッと見ている。
「綾がゾッコンだったから、あたしは無視してたケド…」

「彩乃ちゃんからも、アイツは止めとけって、言われてたのにィ…――」
愛莉が髪を、クシャクシャ搔きむしっている。
そんな愛莉の肩を、五十嵐が優しくポンポンとしている。

「キミが自分を、責めることはしなくていい」
五十嵐を見る愛莉の眼が、真っ赤に充血している。


「――でも、なンで…」
「うん?」
俯きながら呟く愛莉の顔を、五十嵐がのぞき込む。
「なンで、そンな酷いコトを駆琉は?…」

「愛着障害って、知ってるか?」
「…ナニ?それ…」
「自分に向けられる愛情や好意に対しての応答が、例えば怒りや無関心となって表面化する、心の障害だ」

「駆琉は、それだっていうの?」
「あくまで俺の、個人的な見立てだ」
腕組みをしてウ~ンとうなっている、愛莉と和真。
二人には、よく分かっていないようだが…

「芹澤くんには、さらに対人共依存が加わってるんじゃないかと…」
「――それって…」
おびえるような眼で、尋ねている和真。

「彼の場合、異性への性依存と支配欲となって、顕在化して――」
「ケンザイカ?」
「目に見える形で、出てしまうってことだ」


「じゃあ、そろそろ行こうか?」
「ど…、どこへ?」
和真が不安げな顔で、五十嵐にいている。

「木村さんが、向かったところだよ」
左手の腕時計を見ながら、五十嵐が思案している…
「――そろそろか…」

******************

綾は自分の眼の前に広がる光景に、ひどく驚愕して、その場に立ちすくんでいる。
綾がここに着いたのは、午後7時になろうとしている時だった。

夜の街を照らし出す、無数の赤色の回転灯が鮮明に、綾の眼に映っている。
その先には、新宿歌舞伎町のホストクラブ『得夢』が入る雑居ビルが…

ビルの前には何台ものパトカーが停車しているうえ、規制線が引かれていて近づけない。

何なの、コレ…――

行く手を塞ぐ制服警察官の肩越しに、『得夢』の入口と階段が見える。
警察関係者らしい男たちが慌ただしく出入りしていて、段ボール箱を持って階段を昇り降りしている。


かなりの時間が経過してから、突然フラッシュの点滅が一斉に始まる。
誰かが出て来たようだ。
見覚えのあるホストが、両脇を二人の男性に挟まれて階段を降りている。
次は…――

リョーマ?!
どういうコト?…

さらに驚く光景が、綾の眼に映し出される。

――カ・ケ・ル?!…

駆琉が二人のスーツ姿の男性に挟まれて、階段をゆっくり降りている。

フラッと倒れそうになる綾を、誰かが抱えてくれた。
視界が錯綜さくそうしていて、誰が抱えてくれているのかは分からない…


――カケルが、何をしたっていうの?
――どうして警察に、連れて行かれなきゃなンないの?…

「客の女の子に店ぐるみで、身体を売ってツケの金を払うようせまった――」

――え?
…なに言ってンの?

「売春防止法違反だ」
ハッと気づくと、人混みの中で自分を抱えてくれているのは、五十嵐だ。

横を見ると、愛莉と和真が呆然と立ちすくんでいて、ホストたちが連行されていく様子を見ている…

******************

「――とうとう、パクられたかぁ…」
五十嵐が顔を向けると、美容室の制服姿で彩乃が、腕組みをして立っている。

「店の前まで規制させられちゃったからサァ、商売上がったりよぉ」
「――彩乃ちゃぁん…」
彩乃を見る愛莉の眼が、ウルウルしている。

「元気してた?」
彩乃が右手を、軽く振っている。
「和真も、元気してた?」
「ハ――、ハイ」
笑顔で会釈している和真。


「やっぱ、サスガだネ」
「なにが?」
彩乃に言われて、どぼけている五十嵐。
「ちゃんと、知ってたジャン。今夜だって」
一瞥いちべつした五十嵐が、腕に抱かれて呆けている綾を、優しげに見ている…

「――ナニよ…」
ようやく綾が、言葉を絞り出し始める。
「――何が、どうなってるンよぉぉ…」
綾のほほを、涙がポロポロ流れている。

そんな綾の様子を愛莉と和真、彩乃の三人が、沈痛な表情で見つめていた…



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第13話はこちら… https://note.com/juicy_slug456/n/na0d9edff14c8

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