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アオハル♂ストライカー 第3話

高校の夏休みが終わって、9月の始業日の朝となった。
泰斗はサッカーの練習用ユニフォームを着て、スポーツバックを左手に持ち、右手でアパートの隣室の扉をノックする。
すると高校の制服姿の宮内萌が、扉を開けて出て来た。
「泰斗くん、おはよう」
「おはよう」

自分の通学カバンを背負った萌は、泰斗のスポーツバックを受け取り、玄関前に停めてある自分の自転車前籠に入れる。
「いいよ」
萌が言うと、
「ヨロシク!」
泰斗が走り出す。
自転車に跨った萌が、泰斗の後を追う。

泰斗はトレーニングを兼ねて、自宅アパートから鷲ヶ峰高校までランニングで通学している。
萌は、セミロングの黒髪が似合う美少女だ。
二人は途中まで通学経路が同じで、登校時間が同じ時は萌が、途中まで伴走してくれる。
二人は川沿いの小道を、横に並んで走って行く…


「夏休み、あっという間だったね」
残念そうな表情の萌。
「ホントだね」
泰斗も残念そうな顔で頷いているが、口元がニヤけている。
こうして萌と伴走していることが、嬉しくてたまらない。
彼女イナイ歴17年の泰斗にとって、初めて恋心を抱きつつ親しくなれた女子が萌なのだ。

「泰斗くん、その焼けかたヤバくない?」
「あ――、うん…、サッカー部の部活と、友達と海に行ったりしたから…」
無難な返答を、サラッとしている泰斗。

「萌ちゃんは、どっか行ったの?」
「ブラスバンドの合宿くらいかナ」
「どこで合宿したの?」
他愛のない話題だが、二人は楽しげに話している。


ふいに萌の自転車の方から、LINEの着信音が鳴る。
泰斗か萌か、どちらのスマホからなのかは分からないが…

着信音を聞いた途端、優梨恵とコンビニで再会した夜の記憶が、浮かび上がってきた…――

******************

優梨恵は昨年の4月ごろから、泰斗のバイト先のコンビニを利用し始めた。
バスと電車で高校に通学している優梨恵が、バス停近くのこのコンビニを利用したのは、自然な流れだ。

泰斗は昨年の8月から、コンビニでバイトを始めていた。
その時から泰斗と優梨恵は、実は顔を合わせていたのだ。

とはいえ二人は、小学5年生の時に一度会っただけ。
大勢のお客さんの一人、利用するコンビニの店員さん、という訳なのだ。
海で会った時に、優梨恵の方は記憶が蘇ったが…
ニブい泰斗は、どちら様?という有様だった。

――なんという不覚…
――こんなカワイイ娘が来店していたのを、見逃していたとは…
散々悔やみまくった泰斗であった。


コンビニでのアルバイトを終えた泰斗。
自宅アパートの台所で妹の莉紗と、夕食のコンビニ弁当を食べている。

ふいに、テーブルの端に置いてある泰斗のスマホから、LAINの着信音が鳴る。
泰斗がスマホを手に取ってみると、優梨恵からの着信で、

“ナンパの成果は、どうだった?”

――…………

再会した二人は、LINEの交換をしていた。
のっけからカマされた泰斗は、顔をひきつらせている…


“あンだけ必死こいてたら、キモがられるジャン(꒪ཀ꒪)”

女子に縁がないことを見透かされた気がした泰斗は、顔を紅らめている。
その様子を対面に座る莉紗が、怪訝な顔をして見ている。

“あたしみたいなブス子ちゃんが、引っかかっちゃったネェ~”
“ザンネンポン!(><)”

大急ぎで、返信トークを打つ泰斗。
“そんなことネェって!”
“優梨恵ちゃん、ガチで可愛くなってて、マジびっくりした”

“ウッソォォ!(꒪ȏ꒪)”
“あたしが可愛かったら、コンビニに来てたのを覚えてるはずジャン”

“それは、仕事に集中してたから、気が付かなかったンだよ”

“よう言うわァァ~(◎o◎)”
“タイトくんはサイドチェンジとか、展開が広くなるのが苦手だったよネ?”
“全体を見るのがイマイチで、あたしに気付かなかったのかもネェ~( ゚∀ ゚)”

サッカーでの自分の弱点に例えられ、痛いトコを突かれてしまった。
よく一度だけの対戦で見抜いたよなぁ、と感心している泰斗。


“タイトくんの高校は?”

“鷲ヶ峰高校”

“サッカー部だよね?”

“そう”
“6月のインターハイ県予選で、ベスト8まで行けたンだ”

“スゲぇジャン!(≧▽≦)”

“優梨恵ちゃんは、何か部活してんの?”

“その他人行儀な呼び方、やめようよ( ๐_๐)”
“ト・モ・ダ・チなんだからサ”

眼を丸くした泰斗が、返信トークを送る。
“何て呼べば?”

“ユリっぺ、だよ”
“タイトが決めたんジャン!(≧▽≦)”…――

******************

「――どうしたの?」
萌から話し掛けられて、走りながらの上の空から、泰斗が我に返った。

「――あ、いや――、まあ…」
「…やだぁ、ヤらしいコトでも考えてたン?」
「なっ――」
うろたえて、萌から眼を逸らす泰斗。

「ごまかしてもダメよ。泰斗くんの、いつもの口癖が出たンだからぁ」
バツが悪い泰斗は、前を凝視して走っている…


そうこうしているうちに、二人が別れる所まで来てしまった。
「泰斗くん、じゃあネ」
「じゃあネ」
萌は泰斗にスポーツバックを渡すと、手を振りながら自転車で走り去って行く。
そして、スポーツバックを背負って走り出す泰斗。

――どうして、思い出しちゃったんだろう…
――萌ちゃんと一緒に走ってるのに…

最初にLINEを交わしてから、泰斗は毎日のように夜になると、優梨恵とLINEでのやり取りをしている。
あくまで友達感覚での、他愛ないやり取りなのだが…
初めてLINEを交わした時のことだけが、強烈に脳裏に焼き付いている。

――ト・モ・ダ・チなんだからサ…


鷲ヶ峰高校に着いた泰斗は、登校する生徒たちでごった返している校門をすり抜け、部室棟のサッカー部の部室に向かう。
「おはよ」
「おはよっス」

泰斗が部室に入ると、高校の制服に着替えを終えた2年生の宇野直樹と1年生のセブチェンコ歩夢が、出て行くのと鉢合わせた。
泰斗が始めた登下校時のトレーニングが、いつの間にか鷲ヶ峰サッカー部レギュラー陣のルーティンになっている。


汗だくのユニフォームを脱いでいると、練習用ユニフォーム姿で汗だくになった悠真と貴芳が、続いて汗だくの颯一と涼太が、部室に入って来た。
「おはよ」
「おはよっス」
それぞれ挨拶を交わして、四人は各々のロッカーを開ける。

「悠真は、陽菜と伴走かぁ…」
制服に着替えながら、羨ましげでいる貴芳。
タオルで身体の汗を拭きながら、フンという具合の悠真。


「いいよなぁ。泰斗は萌ちゃん、悠真は陽菜と…、俺だけが、ひとり寂しく――」
「うだうだ言ってっと、始業チャイム鳴っちゃうぜ」
貴芳を見向きもしないで、黙々と着替えている悠真。

「…また、女の話してンのか?」
ボソボソと、涼太に囁く颯一。
「じゃねえの」
着替えながら、黒々とした冷めた顔で応じる涼太。

「寝ても覚めても女のコトかよ…」
呆れ顔をしている颯一である…

******************

夏休み明け初日の今日は、授業が無い。
今日、サッカー部がグランドを使用出来るのは、午後1時までだ。

泰斗と悠真はFW、貴芳と颯一、歩夢はMF、涼太はGKがポジションだ。
3年生を差し置いて、颯一と涼太、歩夢は1年生ながらレギュラーだ。

颯一は平瀬中学から進学し、涼太はユース多摩川で一緒だった悠真を慕って、鷲ヶ峰高校に進学してきた。


2チームに分かれての試合形式だが、限られた時間なので練習には自然と熱が入る。

泰斗と悠真のボールの奪い合いは、高校生では仲々のハイレベルなものだ。
悠真の方がキープ力で勝るものの、負けじと激しく絡んでくる泰斗にボールを奪われてしまう。

「くそっ!」
追走する悠真を振り切らんと、ドリブルで突進する泰斗。
しかし右横から並走して来た颯一に、スキを突かれボールをカットされる。

「――!!」
折り返して、颯一を追走する泰斗。

「へへン――」
ドヤ顔でドリブルで走る颯一の視界に、一瞬、影が入る。

「――?!」
気が付くとボールが奪われていて、見ると貴芳がボールをキープして折り返している。
あまりの早技に、脚を停めて唖然とする颯一。
そんな颯一の横を歩夢が駆け抜けて、貴芳を追走する。


「センパイ!」
貴芳がドゥックに、パスを蹴り上げる。
「――おおっ…」
ドゥックが、ボールの落下点に入ろうとする。

そこに素早く悠真が走り込んで、ボールを奪ってしまう。
「マジかぁ――」
唖然としているドゥックをよそに、悠真はドリブルで突進する。

絡んで来る他の部員たちを振り切り、ゴール手前で右足を鋭く振り抜いてミドルシュートを放つ。

「―――!!」
反応して横っ飛びした涼太に、パンチングでボールを弾かれてしまう。

悠真が悔しそうに、仁王立ちしている。
一方の涼太は起き上がると、両手袋をパンパンと叩いて、何事も無かったかのような涼しい顔…


「あれを止めるなンて…」
グランドの脇に立って練習を見ている、ジャージ姿の陽菜が唸っている。
「すごいネ、小河原くん」
感心している、脇に立つジャージ姿の美咲。

「あの六人、マジハンパねぇよ」
ヤカンから給水しようと、走って来たドゥックがボヤいている。

「…たく、…ついてくのがやっとだよ」
紙コップに入れた水を飲みながら、ボヤき続けるドゥック。
「へぇ~。ついて行けてるンですかぁ?」
からかう陽菜。
「ばっ――」


「あ、あいつらは、中学全国大会ベスト4メンバー…、小河原とセブは違うケド…」
顔を紅くして、言い訳しているドゥック。
「中学で万年補欠だった俺とを、一緒にするんじゃねえって――」

バンッ!!

ドゥックが驚いて振り向き、ハッとした美咲と陽菜がグランドに視線を向ける。

泰斗が蹴ったシュートが、ジャンプする控えGKの津田の上を越え、ゴールポスト中央に突き刺さった所だ。


≪――カッけ…≫
颯一が見とれて脚を停めるほどの、縦方向に軌道を描く見事なドライブシュートだ。

「――美咲?」
陽菜が気が付くと、美咲が呆けたようにグランドの方を見ている。
凝視する視線の先には、身体から汗を飛び散らせて、ボールを追いかけている泰斗が…



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