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アオハル♂ストライカー 第2話

「いいジャンかよ、別にぃ。いい想いしたンだからよぉ」
悠真に言われるが、
「悠真みてえな奴には、分かンねえよなぁ。俺のピュアな気持ちが」
仏頂面で毒づいている貴芳である。

次の日は、県立鷲ヶ峰高校サッカー部の練習日だ。
泰斗はチームメイトの悠真と貴芳の三人横並びで、夏休み炎天下の高校グランドでランニングをしている。
練習用ユニフォームは汗まみれで、三人の顔面を汗が滴り落ちている…


「何だよ、俺が不純みてえな言い方しやがって」
むくれている悠真。
「大体よ、女子に抱き着かれてヘラヘラしてる奴の、どこがピュアなンだよ?」
「言ってろ。どうせ彼女がいる奴にゃあ、分かンねぇし」
首を左右に、大きく振っている貴芳。

「大体よ、抱き着かれた感触が忘れられねぇから、その菜々子って娘に、また会いたいンだろうが」
負けじと悠真が、言い返している。

「それって、不純そのものじゃねぇか。なあ、泰斗?」
「おう!」
大きく頷いている泰斗。


「るっせえな。お前らに俺の菜々子ちゃんへのピュアな気持ちは、分かんねぇンだよ」
貴芳が右腕で、額の汗を拭いながら毒づいている。

「それにヨォ、チョ~可愛い知り合いがいる泰斗には、言われたくねぇしぃ」
「はあぁ?」
顔をしかめている泰斗。

「あの娘とは、すっげえ前に一度会っただけで、全然知り合いじゃねぇし」
「さっきも聞いたけどサァ、そンなに可愛い娘なのかぁ?」
興味津々でいる悠真。

「どうせよ、連絡先知ってンだろうし」
「だからぁ、何処の誰なのかさえ知らねえンだから!」
両腕を広げて、泰斗が貴芳に反論している。


「お前ら、練習中だぞ」
泰斗たちの前を走る、キャプテンのファン・ドゥックが背中越しに注意している。
「くっちゃべりながら、走ってンじゃねぇよ」

「お言葉ですが先輩、俺らはもう一周余分に走ってるンで」
ドゥックの背中に向かって言い放つ悠真。
「先輩、周回遅れっスよ」
「るっせぇな。お前らの走りは、このクソ暑いのに、おかしいンだよ」
指摘されたドゥックが、逆ギレしている。


「そもそもお前らが、この弱小サッカー部にいること自体が、おかしいンだよ」
「へえぇ。辞めちゃっていいんっスか?」
「ばっ、ばか。や、辞めろなんて言ってねぇだろ」
慌てているドゥック。

「お前らのおかげで、インターハイ予選ベスト8に入れたんだ。それはマジで、感謝してンぜ」
インターハイ県予選でベスト16以上に入ると、全国選手権大会の県1次予選がシードされ、2次予選からのスタートになる。
鷲高サッカー部創部以来の快挙だった。

「相手が桐栄学園じゃなけりゃ、ベスト4まで行けたンだけどナァ」
ドゥックが嘆いていると、
「次はリベンジしてやりますよ」
悠真が前回の、全国選手権大会優勝校に闘志を露わにしている。


「大体お前らは、あの有名な平瀬中トリオなンだろ?それがウチに入ってくれたンだから…、うん、やっぱ、おかしいンだよ」
ゼェゼェ息を切らせながら、ドゥックが走っている。

「それに佐々木は、U17日本代表メンバーなんだろ?ヨソの高校に行ったっておかしくねぇのに、何だってウチに…」
「ハイハイ、またその話っスか。俺たち、先に行きますから…」
うんざりした表情の悠真が、ドゥックを抜きにかかる。
続いて泰斗と貴芳も、ドゥックを抜き去ってしまう。

炎天下のグランドの周回トラックを、汗だくになって顔を歪めて走るドゥックだが、無残にも三人から引き離されてしまう一方だった…

******************

「は~い、給水タイムぅ~。全員集合~!」
サッカー部女子マネージャー、ジャージ姿の和泉陽菜が、グランドの端でメガホンで叫んでいる。
ランニングをしていたサッカー部員たちが、三々五々集まって来る。
泰斗も両腕で顔面の汗を拭いながら、皆が集まる方へ駆けて行く。

ジャージ姿の塚本美咲が、ペットボトルで大きく膨らんだレジ袋を二つ、重たそうに地面へ置いている。
美咲は部外者だが、こうして手伝いをしている。


サッカー部員たちが、我先にとレジ袋の中から、ペットボトルを手に取っている。
泰斗もペットボトルを手に取り、貴芳が座る傍に座り込む。
「いつも悪イな、塚本、手伝ってもらっちゃって」
ドゥックが詫びるのに、笑顔で首を横に振っている美咲。

「そぉよぉ~。部員全員で24本のペットボトルを、私一人で運ぶなんて無理なンだしィィ」
ふくれっ面をして、陽菜がむくれている。
「しょうがねぇジャン。鷲ヶ峰の部活規定で、マネージャーは一人って決められてっから」
顔をしかめて、ドゥックがなだめている。

「俺だって塚本が、入部してくれたら――」
「いいンです。私、好きで手伝ってるンで」
「だめよ、美咲。つけ上がっちゃうだけよ」
美咲が笑顔で話すのに、陽菜がクギを刺している。


「――ケッ、何だってンだよ…」
ドゥックがソッポを向いて、ボヤいている。
「…カレシの佐々木がいるから、自分からマネージャーやらせて下さいって、きやがったのに――」
「なンですってぇ?」
陽菜が眼をむいて、ドゥックを思いっきり睨む。

「な、何でもありませぇ~ん」
ドゥックが背中を丸めて、陽菜の方に背を向けて座り込んでいる。
「――おぉ、コワっ…」


「そういえば、栗林くんに彼女が出来たンだって?」
唐突に陽菜が言い放つ。

――…ブホッッ?!
口に含んだペットボトルの中身を、吹き出してしまう泰斗。

「――ちょっ、ちょっと…、誰がそんな…」
左手の甲で口元を拭いながら、泰斗が横を向くと――
貴芳が顔を背けて、ソロソロと立ち上がろうとしている…


「岩っち、てめえ!」
グランドに駆け出した貴芳を追って、泰斗も立ち上がって駆け出す。
「デタラメ、ぺらぺら喋りやがって!」
顔を紅潮させて、怒鳴る泰斗。

「いいじゃんかぁ。悠真には陽菜、おまえには優梨恵ちゃんが――」
「だからぁ、何処の誰なのか、全然知らねぇンだって!!」
逃げる貴芳を、泰斗が土煙を上げて追いかける。
その様子を、部員たちが唖然として見ている…


「何だ、あれ?」
座り込んでいる1年生の颯一が、隣に座る1年生の涼太に話し掛ける。
「どうせ女のコトで、モメてんじゃねぇの?」
ペットボトルを口にくわえながら、黒々とした肌の涼太が呆れ顔をしている。

「海にナンパに行ったンだよな?」
「どうせ、カラ振りだったンだろ」
右手に持つペットボトルを口に含みながら、二人は冷めた顔でソッポを向いてしまった…

******************

そんなこんなで、部活を終えた泰斗。
夕方から自宅アパート近くの、コンビニでのアルバイトに入る。

コンビニの制服に着替えて、マスクを着けた泰斗が店内に出る。
「お疲れさまです」
泰斗が、バイト仲間の間瀬礼奈に挨拶する。
「――あ…、お疲れさま」
マスクを着けた礼奈が、陳列棚に商品を補充しながら笑顔を向けている。

「…あれ?栗林くん、日焼け濃くなってる?」
「――あ、いや――、まあ…」
「海にでも、行ってきたの?」
「はい、昨日…」
ただでさえサッカー部活で日焼けしている泰斗だが、さらに日焼けが増した顔を、照れ隠しに両手で触っている…


礼奈は、21歳の大学3年生。
ポニーテールに結んだ髪が似合う礼奈は、清楚な雰囲気を醸し出している。就学生同士ということもあって、二人は同じシフトに入ることが多い。

「じゃあ、そっちの棚、補充してくれる?」
「はい」
泰斗は台車に積み重ねてある番重から、商品を取って棚に並べ始める。


作業をしている間も入口の自動ドアが開いて、来客を知らせるチャイムが何度か鳴っている。
「いらっしゃいませ、今晩わ」
来客の度に、泰斗と礼奈は入口の方に顔を向けて挨拶している。

作業は商品を補充するだけでなく、賞味期限をチェックしたり、レジ打ちをこなしたりと、多岐にわたっていて地味に忙しい。
そんな中で泰斗は、昨晩の莉紗とのやり取りを思い出している…


≪その優梨恵ってヒトはサァ、兄ちゃんのコト覚えてたンでしょう?≫
部活動で小麦色に日焼けしている莉紗が、右手で頬杖をついて呆れ顔でいる。
≪それなのに、兄ちゃんときたらサァ…≫
立て続けにけなされてしまい、ふくれっ面の泰斗が前に置いてある弁当をほお張り始めた。

≪そんなザマだからぁ、モエ姉ちゃんをなかなかモノに出来ないンだよ~≫
≪そんなザマだったら、そのヒト、兄ちゃんのコンビニに絶対来てたネェ~≫
――たく…、ぜってぇ来てるワケねぇし…


「いらっしゃいませ――」
来客のチャイムが鳴ったので泰斗が、いつものように入口の方を向いて挨拶する。
何とそこには、白Tシャツにデニムパンツの優梨恵が立っているではないか。

「え?…」
まさかの光景に、泰斗は石像のように固まってしまっている…
泰斗と眼が合った優梨恵は左手を後ろに回し、いたずらっぽく微笑んで右手でピースサインをしていた…

******************

「いらっしゃいませ、入荷してますよ」
礼奈が優梨恵に話し掛けたことで、ようやく泰斗は我に返った。
「あ。ありがとうございま~す」
「え?」
優梨恵が礼奈に返事をしたので、唖然としている泰斗。

礼奈は番重から生菓子『ふんわりシュー』を取って、優梨恵に手渡している。
「え…、えぇぇ~?……」
二人の手慣れた仕草を見て、呆然自失している泰斗…


「どうしたの?」
泰斗を見て、礼奈が怪訝な顔をしている。
「――あ、いや――、まあ…」
状況を全く理解出来ないでいる泰斗。

――間瀬さんがあの娘に『ふんわりシュー』を取り置きしていた…
――ということは、このコンビニの常連客だと…

そんな、まさか…


「やだぁ、どうしたの?」
愕然としている泰斗に、礼奈が首を傾げている。
「――あ、いや――、まあ…」
「あたしが、ここにいるのが、不思議なンでしょ?」
したり顔をする優梨恵。

「そ、そうだよ。どうして…」
「やだぁ、二人とも知り合いなの?」
礼奈が面喰っていると、
「いえ、私も昨日、タイトくんだと分かったんです」
優梨恵がフォローする。
「――…どういうこと?」



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