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アオハル♂ストライカー 第5話

☆選考対象外ですが、ぜひ読んでみて下さい!


ずぶ濡れで、自宅アパートに帰った泰斗。
シャワーを浴びてトレーナーに着替えていると、スマホからLINEの着信音が鳴る。
遅くなるので夕飯は弁当を買うように、との母親からのトークだ。

玄関扉を開けると、小降りにはなったが、まだ雨が降っている。
泰斗は傘を差して、アルバイト先のコンビニ店へ歩いて向かう。


コンビニ入口の軒下に着いて、泰斗が傘をたたもうとしている。
すると、入口の自動扉が開いて、中から出て来た高校の制服姿の優梨恵と鉢合はちあわせになる。

「あ。ちょうどよかった」
「は?」
驚く間もなく、きょとんとしている泰斗。

「家まで送って」
「はあ?」
「ほらぁ、見りゃ分かるじゃン。あたしが、傘持ってないのぉ」
露骨にイヤな顔をした泰斗へ、顔を突き出している優梨恵。
優梨恵は髪が濡れていて、制服も濡れているように見える。

「お、俺はぁ、弁当を買いに来ただけ――」
意に介さない優梨恵は、おもむろに泰斗の右手から傘を奪い取り、小雨が降る中に歩き出してしまう。

「ま、待てって――」
慌てて優梨恵のあとを追い、傘を奪い取る泰斗であるが…
期せずして、優梨恵と相合傘の格好になってしまう。

いきなりの急接近に、泰斗はドギマギしてしまっている。
「行くよ」
いたずらっぽく微笑んで優梨恵が歩き出すので、仕方なく泰斗も歩き出す。

≪なんちゅう図々しさ。この間、知り合ったばっか――≫
≪――いや、違うんだっけ…≫
優梨恵の先導で、二人は相合傘でコンビニの裏の坂を登って行く…


この狭い坂道は、尾根を越える抜け道でもあるので車通りが多い。
車を避けて歩く二人は自然と、くっついて歩くことになる。

友達感覚でいるとはいえ、現役JKと相合傘していることには変わりない。
泰斗は奇妙なドキドキ感を、覚えてしまっている。
そんな泰斗の心中を、優梨恵は知る由もないが…


「2次予選の試合、いつから?」
唐突に話し掛けられた泰斗は、思わずドキッとしてしまう。

「ウ、ウチらは、…来週の土曜日」
「今日は水曜だからぁ、あと1週間とちょっとか…」

「…えっと、インターハイでベスト8に入ったンだよね?」
「そう。だから2次予選からで、ベスト8だから2回戦からなんだ」
相合傘で、くっついて歩きながら話している二人…

泰斗が身長179cm、優梨恵が170cmなので、優梨恵が少し上を向き泰斗が目線を下に向けて、という具合だ。

「相手は、どこ?」
「今週の土曜の1回戦で勝った方だから、まだ決まってないよ」
「どっちも県立?」
「うん。でも、1次予選を勝ち抜いてんだから、油断出来ないし…」
優梨恵は小学生の時にサッカーをしていただけあって、色々と詳しい。

そんな優梨恵と話していると、泰斗は飾らずに素のままでいられるようで、心地よさを感じている。
そのうえ、くっついているので優梨恵の髪から、ほのかなシャボンのような香りが漂って来ている。

これが女子のにおいなのかぁ…――

極めてよこしまな、感慨に浸っている泰斗だが…


「…なんかサァ」
少しの間を置いてから優梨恵が話すので、ドキッとしている泰斗。

「こうしているとサ、あたしたち、カップルみたいだネ」
「え?」
優梨恵から上目遣いで見られて、ドギマギしまくっている泰斗。

「――なに?あかくなっちゃってぇ。照れてンの?」
笑いながら、からかっている優梨恵。

余計に顔を紅らめて、ますます泰斗がドギマギしていると、
「だってタイトは、同じアパートの宮内さんが好きなンでしょう?」
「――は?」

全くの想定外の展開――

泰斗の気持ちは一瞬で冷めたうえ、冷や汗タラ~リの状況になってしまっていた…

********************

そして、週末土曜日になった。
部活を終えた泰斗は夕方から、例のごとく間瀬礼奈とのペアで、コンビニのアルバイトに入っている。

重ねてある番重から陳列棚に商品を補充しながら、来客のたびに入口の方に顔を向けて、二人は挨拶している。
作業は商品を補充するだけでなく、賞味期限をチェックしたり、レジ打ちをこなしたり、モップ掛けをしたりと、多岐にわたっていて地味に忙しい。

「いらっしゃいませ、今晩わ」
礼奈の声で、入口ドアの方を見る。
サッカーボールを持った高校の制服姿の優梨恵が立っていて、小さく右手を振っている。

「いらっしゃいませ――」
モップを右手に持ったまま、マスクを着けた泰斗が優梨恵の方に歩き出す。
優梨恵を見て、何ともいえない高揚感を感じている泰斗だが――
この間のバツが悪過ぎた状況を、どう言い訳したものか、頭をフル回転させて考えている…



≪――莉紗あ!お前えぇっ!≫
自宅アパートに帰って来るなり、泰斗のただならぬ剣幕に、妹の莉紗は咄嗟とっさに台所へと逃げる。

≪ユリっぺに萌ちゃんのこと、しゃべったろう?!≫
≪――、あ…、ああぁ~≫
≪お前ぇぇぇ!!≫
≪別にいいじゃン、話したって…≫
≪あのなぁ~!!≫
テーブルを挟んで泰斗と莉紗は、反復横飛びのように互いに左右を繰り返している。

≪い、いつ話したんだよッ?!≫
≪…こないだ、コンビニで、どっかで見た顔だなぁって――≫
≪それで、ベラベラってか?!≫
≪優梨恵さんが、もしかしてタイトの妹さん?…って――≫
≪それで、ベラベラってか?!≫
≪イートインコーナーで話してたら、盛り上がっちゃってぇ――≫
≪それで、ベラベラってか?!≫

≪な、何なの?そんなムキに――≫
≪莉紗ぁぁ~!≫
≪――そっか…、優梨恵さんのコトも、気になってンだ≫
≪――ばっ?!≫
≪だから、萌姉ちゃんのコトが知られたら困ると――≫


「――どしたン?」
優梨恵から問い掛けられ、泰斗は物想いの世界から引き戻される。
「あ――、いや…」

「来週の対戦相手、決まった?」
どうやら先日のことを、優梨恵は気に掛けていないようだ。
「うん、いずみ野高校」
安堵して、笑顔で優梨恵を見ている泰斗。

仲睦まじげに話す二人を、礼奈が横目でジッと見ている…


「今日、学校だったの?」
「そうなの~。私立は土曜登校があるから、大変よ」
「そっか…。その、ボールは?」
怪訝そうに、いている泰斗。

「うん…」
少し伏し目がちな優梨恵。
元気がなさそうに見える。

「――どうかした?」
心配顔の泰斗。
「ううン、何でもない」
軽く首を振って、微笑む優梨恵。

「ネ?勝負してみない?」
はにかみ気味に、優梨恵が両手でサッカーボールを差し出す。
「何を?」
「リフティング」

「俺、500回以上、出来るよ」
「じゃあ、ダメか…」
残念そうにうつむく優梨恵。

「…じゃあサ、あたしが300回出来たら、あたしの勝ちで?」
「はあ?何だよ、それ?」
「いいから、ほら――」
右手で泰斗の左手を引っ張って、強引に入口ドアを出ようとする優梨恵。

困惑している泰斗が、礼奈を見ると――
仕方ないわねぇ、と苦笑いをしている。


「いくよ――」
コンビニ前の駐車場で、優梨恵が掛け声と共にリフティングを始める。
それを苦り切った顔で、腕組みをして泰斗が見ている。

1・2・3・4……
夜のとばりが下りる中、窓ガラス越しの薄明りだけで、リフティングを続ける優梨恵。

――50・51・52・53……
小学生の時にサッカーをしていただけあって、薄暗い中でもソツなくリフティングをしている。

――120・121・122・123……

――大したモンだけど、こんなコトして、どういうつもりなんだ?…
感心しつつ腕組みをしたまま、優梨恵のリフティングを不審顔で見ている泰斗である。

――251・252・253……

********************

翌週から、鷲ヶ峰サッカー部の練習はハードなメニューづくしになった。
「2次予選の試合まで、あと5日。ガンバ!」
キャプテンのファン・ドゥックが、大声で気合を入れる。

部員たちは残暑が厳しい中、二人ペアで100m走りながらワンタッチでのパス練習を、歯を喰いしばって何本もこなしている。
「ガンバ~!まだまだよぉ!」
陽菜と美咲がグランド脇に立って、メガホンで声援を送っている。

それが終わると、2班に分かれてのシュート練習とロングパスの練習、
タッチ&ゴーダッシュの繰り返し、
セフティコーンを立ててのジグザグドリブルの練習と…
悠真が考えたハードな練習メニューが続く。

日没ギリギリまで練習は繰り返され、夕方6時半に部活が終わる頃には、全員がクタクタになっていた…


「センパイ、ランニングで帰れるんスか?」
隣でロッカーを開ける、ウクライナから帰化したセブチェンコ歩夢から、宇野直樹が冷やかされている。
「俺は――、ムリ…」
汗をしたたらせて俯きながら、ロッカーの前で直樹がタオルで汗を拭っている。

「ダメだなぁ~、岩上さんとかはランニングで帰ってンのに…」
「そ、そういうお前は、どうなンだよ?」
「オレは気合で走って帰りますよ。…じゃっ」
練習用ユニフォーム姿の歩夢は軽く左手を上げると、右手でバッグを背中に廻して部室から出て行った。
直樹はそれを一瞥いちべつしただけで、また俯いてしまう。

――あんなバケモノみたいな奴らと、一緒にするなっての…
「お先っ!」
直樹が肩を叩かれたので顔を上げると、泰斗が部室から出て行くところだ。

「おまえもランニングで帰ンのか?」
「モチ!」
直樹に笑顔で応じた泰斗が、部室扉から出て行った…


――やっぱバケモノだ。あんな元気モリモリで…
部室扉の方を、啞然として見ている直樹。

――それにアイツ、ニヤけてやがったよな?
――しかも、すっげえイヤらしそうに…

泰斗がイヤらしそうにニヤけていたわけを、直樹が知るよしもなかった…



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