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先生(教官)、窓開けていい?

就職前に運転免許を取ってしまおうと、真面目に教習所に通っていた。

まだ世の中が、バブルの香りがしていた頃だ。

遊びで乗った遊園地のゴーカートを 斜面に激突させたことがあるので、できれば親切丁寧にお教え願いたいところである。

友達が少し先に通い出していて、『〇〇先生は優しくて良いよ、⬜︎⬜︎先生はちょっと怖めだよ』と情報を入れてくれていた。ありがたや。

勿論もちろん『優しい〇〇先生』推しでいきたいのだが、厄介なことに受付で自分自身で端末を操作し予約を取るシステムで、しかも早い者勝ち。
頑張らないと 良い時間帯は直ぐに枠が埋まってしまう。
でも頑張る、がんばる。
座学も頑張り、ようやく路上へ。


そして いきなり酔った。運転手なのにヘロヘロ。
季節は冬、厚手のコートを着るくらいの真冬だ。
先生は紺ブレの下に、ウールのベストを着ている。
暖房をかけないと寒い。が、ヘロヘロ運転手は、
ガンガンに 冷房 がかけたい。

「先生、冷房 かけていい?」
「ヤダよぉ〜、オレが寒いも〜ん」と笑った。


この先生は本当に教えるのが上手くて、何がどうして分からないかが 分かる人だった。

初めて乗車した頃、ハンドルをいっぱいに切って、グルグル同じ軌道で回り続ける実験をしてくれたり、車庫入れも基準の垂れ下がった棒にワザと当たる所まで下がらせて、
〝こんなふうにバックミラーで見えたらダメだよ“と
 ダメな感覚も一緒に教えてくれた。



「でも先生、このまま暖房かけてると
    ケロケロしますが、OKで?」

「それは勘弁! 運転してると普通 酔わないん
    だけどなぁ。君 車、弱いの?」

__えぇ弱いですとも。強いと言っていませんよ。
    強そうにも見えないでしょ?この青白さ。

ハンドルを持とうが持つまいが、駄目なものはダメなんですよ。
さぁさぁ、エアコンのスイッチを 冷房に切り替えて下さい。コッチは運転で忙しんです。
なんせマニュアルなんですからね。(平成1桁です)

先生「じゃちょっと窓開けてみるか?」
自分「…(勝った♡) …音:シュルシュルシュル…」
先生「あ!コッラ!そんなに開けたら寒いじゃん、閉めてよ〜寒がりなんだからオレ〜」

乗っていた教習車はパワーウィンドウではなく、クルクル手回しで開け閉めするタイプだった為、運転席側でコレをヤられると助手席側の人は
操作不可能なのだ。


ディーゼルのクラウン、フェンダーミラー。
今はもう懐かし過ぎて、実物が走っているのを見かけない。
先生のおかげで検定試験もすんなり進んだ。
仮免、本免、全クリアだ。

ど緊張した写真が貼られた免許証を持って、
教習所に合格の挨拶に行った。
先生は変わらず、紺ブレを着ていた。

「いつでも安全運転、な。」

卒業式こそなかったけど、この言葉は
一生の花向けだった。

あれからいろんな車に乗ったよ。
もう無いけど、オープンカーにも
酔わずに乗れたよ。

何はなくても 安全運転、だよね先生。