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サクラ、サク。
努力は報われる、とは限らない。
プロ野球の世界は、残酷なほどにそう感じることがある。
あれほど練習していたのに…と思うことは多々あり、
努力が報われずにユニホームを脱いだ選手たちを何人も見てきた。
ただ、努力せずに報われた選手は、見たことがない。
運を引き寄せるのも、
巡ってきたチャンスを生かすかどうかも、
日々の姿勢が出る。
一般社会にも言えることかもしれない。
今年、広島カープ入団10年目にして初めて開幕スタメンを勝ち取り、
開幕5連勝の立役者の1人となった上本崇司選手も、
人知れず汗と涙を流してきた。
昨年まで通算出場301試合でスタメンは30試合のみ。
271試合が途中からの出場であり、
主な役割は試合終盤の守備固めか、代走。
プロでつかみとったポジションだった。
シーズン中はレギュラー選手よりも早く球場入り。
試合終盤、わずかな出場時間のために、10時間前から準備した。
仕事は僅差の試合で守り抜くことであり、
相手バッテリーの警戒網をかいくぐることにある。
できて当たり前、ミスしたら戦犯扱いになることも。
敗戦の責任を背負い、涙した日もあった。
「レギュラーになれなかった自分が悪いんで。」
シーズンオフに、そう言っていたこともある。
控え目なコメントが多い中でも、
切り札の枠に収まったままでいいとは思っていない。
求められる守備、走塁はもちろん、打撃を磨くことも怠らなかった。
周囲が強く抱く「守備走塁の人」というイメージを覆すのは、
ゼロからのスタートというよりも大変だったかもしれない。
数年前の春季キャンプ。
まだ調整初期段階のシート打撃でただ1人、
最後まで打席が与えられなかったことがあった。
普段はあまり感情を表に出さない上本君には珍しく、
あの日は怒りのような悔しさがあふれ出ていた。
練習後、すべてのバットをロッカーの隅にまとめていた。と聞く。
それでも前を向いて進まなければいけない。
感情は胸にしまい、歯を食いしばった。
本拠地試合での全体練習前、
広島では若手や控え選手を中心に行われる特打は日課のようになっている。
1軍に欠かせない戦力となった上本君も当然、特打は続けた。
ただ、チームメートが打球音を響かせるグラウンドに姿はなく、
マツダスタジアム屋内のブルペンで1人、打ち込んでいた。
グラウンドではなく、球場外に漏れ聞こえる打球音の積み重ねが、
イメージを崩し、評価を変え、チャンスをつかんだ。
「やっちゃろうや!」
29日のお立ち台で叫んだ言葉は、
最下位予想が多かったチームを鼓舞するメッセージであり、
自分自身への心の叫びでもあったような気がする。
今をどう過ごすかで、明日は変わる。
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