【Milky Way】シーンF『Milky Way』

 前 → 【Milky Way】シーンE『出発点』

-----------


■ シーンF『Milky Way』


 私はそれから、まわりの反対を押し切って、子どもを産むことにした。

 輝彦の言っていたことは、正論だったのかもしれない。
 だけど私は、授かった新しい命を捨てたくなかった。子どもが産まれることから逃げたくなかった。
 これまでの貯金と、妊娠出産子育ての支援制度を最大限使えば、お金はなんとかなりそうだった。
 両親を説得するのは骨が折れたけれど、なんとか押し切った。
 何があっても私が責任をとるように言われた。そんなことは覚悟のうえだ。

 私は約束したんだ。頑張るからと。また会えるよと。

  *

 そして私は、一人の女の子を産んだ。
 7月7日、天の川が、空に綺麗に輝く夜だった。
 私はその子に、星羅(せいら)と名づけた。願いを叶えるきらきら輝く星、という意味を込めて。

  *

 あのとき、アマノガワ号の駅で会った女の子。
 私も以前はあの子のように、たくさんの願いごとがあった。でも、自分の願いは叶わないとわかってしまった。

 あの子が願いごとを見せてくれたとき、私は内心、羨ましく思った。
 短冊がいっぱいに入ったあの子の鞄を、私は代わりに持とうとした。
 そうすることで私は、あの子の願いを、自分のことのように感じたかったのかもしれない。

 生きていれば当たり前に実現できるような、ありふれた願いごとばかりが短冊に書かれていたことにも、今なら納得できる。
 あの子の短冊は、〝産まれたらやりたいこと〟で埋め尽くされていたのだ。

 誰かの願いを肩代わりすることはできない。それでも私は、あの子の願いを叶えたいと思った。
 だってあの子のことを、他人とは思えなかったから。私にとって、あの子は大切な存在だったから。

 あの子は、星羅は、私の──。


-----------

 次 → 【Milky Way】エピローグ