上橋菜穂子著「狐笛のかなた」感想

小学生の時はこの本に魅了されて、他の人に取られたくなくて、図書館でこの本を返してはすぐ借りるというちょっと悪いことをしていた。

この本ほど情景が鮮明に浮かぶ物語はないと思う。
景色だけでなく、空気の温度、香り、鳥の囀り、子どもの笑い声、馬が土を蹴る音、草木が風にそよぐ音まで心に響いてくる。

物語の中では主人公の小夜が一人きりになる描写が多々あるのに、それでも不思議と寂しさを感じることはない。
物語は大体、起承転結があってヒヤヒヤする瞬間がある物が多いような気がする。
確かにこの物語も転にあたる部分があるのに、書いてある文字の逼迫感とは裏腹にずっと温かいバリアで守られているような心地よさがある。
心地がいい雲の絨毯に包まれて物語を旅する途中で、さりげない文字の羅列に何度も感情を揺さぶられる。
物語に運ばれていった先の小夜が生きると決めた世界にどうしようもなく憧れてしまい、読み終わった後も本の表紙を気が済むまで撫でてしまう。
いいなぁいいなぁ、まだこの世界から抜け出したくない。


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