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すばらしき世界、役所演じる三上から目が離せない

前略 西川美和監督

映画「すばらしき世界」を観ました。
126分、自分の中の気持ちが揺れ動き続けました。

かたぎの世界で生きようとする、三上を応援したい

前科モノは結局、同じ過ちを繰り返してしまう

自分を押し殺してまで生きようとするなんて、カッコ悪い

見終わった直後から、何が「すばらしき世界」なんだ…と
考え続けていますが、答えを出せずにいます。


映画「すばらしき世界」あらすじ

冬の旭川刑務所でひとりの受刑者が刑期を終えた。

 刑務官に見送られてバスに乗ったその男、三上正夫(役所広司)は上京し、
身元引受人の弁護士、庄司(橋爪功)とその妻、敦子(梶芽衣子)に迎えられる。

 その頃、テレビの制作会社を辞めたばかりで小説家を志す青年、
津乃田(仲野太賀)のもとに、やり手のTVプロデューサー、吉澤(長澤まさみ)
から仕事の依頼が届いていた。

取材対象は三上。吉澤は前科者の三上が心を入れ替えて社会に復帰し、
生き別れた母親と涙ながらに再会するというストーリーを思い描き、
感動のドキュメンタリー番組に仕立てたいと考えていた。

生活が苦しい津乃田はその依頼を請け負う。
しかし、この取材には大きな問題があった。
三上はまぎれもない“元殺人犯”なのだ。

津乃田は表紙に“身分帳”と書かれたノートに目を通した。
身分帳とは、刑務所の受刑者の経歴を事細かに記した個人台帳のようなもの。
三上が自分の身分帳を書き写したそのノートには、
彼の生い立ちや犯罪歴などが几帳面な文字でびっしりと綴られていた。

人生の大半を刑務所で過ごしてきた三上の壮絶な過去に、
津乃田は嫌な寒気を覚えた。
 後日、津乃田は三上のもとへと訪れる。戦々恐々としていた津乃田だったのだが、
元殺人犯らしからぬ人懐こい笑みを浮かべる三上に温かく迎え入れられたことに
戸惑いながらも、取材依頼を打診する。

三上は取材を受ける代わりに、人捜しの番組で消息不明の母親を
見つけてもらうことを望んでいた。
 
下町のおんぼろアパートの2階角部屋で、今度こそカタギになると
胸に誓った三上の新生活がスタートした。
ところが職探しはままならず、ケースワーカーの井口(北村有起哉)や
津乃田の助言を受けた三上は、運転手になろうと思い立つ。
しかし、服役中に失効した免許証をゼロから取り直さなくてはならないと
女性警察官からすげなく告げられ、激高して声を荒げてしまう。

 さらにスーパーマーケットへ買い出しに出かけた三上は、
店長の松本(六角精児)から万引きの疑いをかけられ、またも怒りの感情を
制御できない悪癖が頭をもたげる。ただ、三上の人間味にもほのかに気付いた
松本は一転して、車の免許を取れば仕事を紹介すると三上の背中を押す。
やる気満々で教習所に通い始める三上だったが、その運転ぶりは
指導教官が呆れるほど荒っぽいものだった。
 
その夜、津乃田と吉澤が三上を焼き肉屋へ連れ出す。
教習所に通い続ける金もないと嘆く三上に、吉澤が番組の意義を説く。

「三上さんが壁にぶつかったり、トラップにかかりながらも更生していく姿を
全国放送で流したら、視聴者には新鮮な発見や感動があると思うんです。
社会のレールから外れた人が、今ほど生きづらい世の中はないから」。

その帰り道、衝撃的な事件が起こる・・・。

(引用:https://wwws.warnerbros.co.jp/subarashikisekai/about.html


役所広司が感じる映画「すばらしき世界」

2月21日放送「王様のブランチ」映画コーナーのインタビューで、
殺人を犯した元服役囚・三上を演じた役所広司さんは、作品について

「温かみのある映画」

とコメントしていた。

殺人、刑務所、ヤクザ…
題材はとても「温かみ」なんて想像できないのに、
なぜか、温かい気持ちになる。

三上のキャラクター、そして役所さんの役作りによるところが
大きいだろうが、刑期を終え、シャバに出た三上の新しい人生を
応援したくなっている。

短気を起こさないで。
そこは、我慢して。
手は出しちゃダメ。

何度も何度も、スクリーンの中の三上に叫ぶ。
観客は、心を奪われ、元服役囚・三上の応援団になってしまう。


「お前はどうだ」、自分と対峙させられる

三上は、短気だが、曲がったことが許せない誠実な人柄。
刑務所で整理整頓を徹底的に叩き込まれたため、可笑しいくらいに部屋はキレイで、立ち居振る舞いがイチイチ笑える。

この可笑しさや笑いは、自分とは違う世界の人に対する違和感からきているのは間違いない。

なんで、笑うのか。

社会のルールから逸脱し、罪を償うため服役した三上を、
どこか自分とは違う世界にいる宇宙人的に見ているから、
笑えるのかもしれない。

しかし、三上のような人間は、自分が暮らす世界の中にも
必ずいる。

失敗を犯し、反省して、リスタートしようとする人間を笑ったのか、
応援しているなんて言いながら、つまみ出そうとしているのか、
オレは何様だ…と自責の念を感じてしまう。


三上の真っ直ぐさが、辛い

映画を観ているうちに、役所さんが実在した三上に思えてくる。
三上がどんな人間だったのかなんて知らないけれど、
役所さんを通して感じる「三上」に感情を入れてしまった。

カタギの世界に馴染んでほしいと願い、終始ヒヤヒヤさせられる。
チンピラに絡まれた人を助け、ボコボコにしてしまうシーンで
解き放たれた三上を見たとき、悔しくて、辛くなった。

困っている人を助けるのは、すごくいいことだ。
自分だって、そうしたい。
けれど、実際の世界では怖くてそんなことなかなかできない。
見て見ぬフリで、その場を、その時をやり過ごす。
そうやって、調和し生き続けている。

だから、介護施設で働きながら、
自分を押し殺し、葛藤する三上を見たとき、
「我慢しろ」と願いながら、自分が正しいと思うことを
我慢する人生でいいのか、と反対の感情を持ってしまっていた。

「すばらしき世界」とは、何だろう

「見上げてごらん夜の星を」

三上を受け入れ、見守る人たちが、
就職を祝うため集まった場で歌われた。

三上には、彼を応援してくれる人がいる。
みんなの気持ちが痛いほどわかる三上は、
それ故に苦しむこともある。

それでも、ささやかなしあわせを求め、
自分を押し殺しながら生きようとする。


西川監督が伝えようとする「すばらしき世界」について
考えてみた。

自分が亡くなったとき、
心から悲しみ、惜しんでくれる人がいた世界

自分が生きた証が、その人たちの中に残り続けることが
できたとすれば、それはすばらしい世界だと思う。
そのとき、自分はそこにはいないけれど、
自分を想ってくれる人たちに、遠くの世界から
「ありがとう」を伝え、見守りつづけたい。


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