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あなたの輸出製品に『特定原産地証明書』を取得したら、「関税がいくら課税されるのか」が分かる方法

今日は輸出で避けて通れない「輸入関税」についてのお話です。日本とEPA協定を結ぶ国との間で有利な税率の適用を受けるには、何をどう調べ、どう準備したらよいのでしょうか。


◆「輸入関税率」が分からずに輸出の準備が止まる会社もある


輸出を行う時は、国内事業では考えることがない手続、書類、許認可について調べ、コストや所要日数を計算する機会が増えます。

そのうち、船便航空便の運賃輸出通関における申告料や貨物の取扱に関する諸費用は、運送会社通関代理業者に問い合わせれば、日本でも数字が揃います。

しかし、重要な数字でありながら日本では調べられず、たった一つの数字が分からないために、現地で荷揚げした後の自社商品の総額が見えずにもどかしい気持ちになるのが、「輸入関税」の税率と税額です。

関税は、為替や燃料費のように変動する費目ではなく、送料や商品代のように選択や変更が可能な数字でもありません。

関税は、

「適切な分類番号(HSコード)に沿って、輸入者が正確な税額を支払わなければ荷揚げできない」

という法的な義務の対象ですから、変動や選択の余地はなく、その国での輸入関税率が分からなければ輸出の準備も進められなくなります。

「輸出を自社の事業に加えようと、候補となる商品と国を調べてみたものの、その国での輸入関税率が分からないばかりに、市場調査が進められなくなった」という会社に、私も何社かお会いしたことがあります。




◆輸入関税には二種類あり、「EPA税率」が有利


あなたの輸出準備スムーズに進めるため、仕向地(輸出先の国)での日本製品の輸入関税の調べ方の一例をご紹介する前に、関税について簡単にご説明します。

輸入関税の税率には、「原産地証明書(CO, Certificate of Origin)」を添付すれば適用される一般的な関税率と、日本との間にEPA(経済連携協定)を締結した国との貿易で定められた品目に適用される「EPA税率」二種類があります。

(※あらゆる品目に適用されるわけではありません)

EPA税率は、輸出製品に使用された原材料の「原産性判定」日本商工会議所に依頼して、輸出製品そのものの「原産資格」を認められれば、「特定原産地証明書(PCO, Preferential Certificate of Origin)」が発行され、それを輸出の際のインボイスに添付すると適用されます。

(▼参考 日本商工会議所「特定原産地証明書」)

EPA税率のほうが通常の税率より低く、したがって、あなたの製品の価格競争力を利幅を削らずに高められるので、活用しない手はありません。

ちなみに、日本との間にEPAが締結されている国は現在、インド、メキシコ、ペルー、チリ、スイス、モンゴル、オーストラリア、タイ、マレーシア、ベトナム、シンガポール、インドネシア、フィリピン、ブルネイの14ヶ国です。

あなたがまだ、候補となる国を調べている段階であれば、EPA締結国から選んでみるのも一つの方法です。




◆「マレーシアに日本製品を輸出」という例で、税率を調べてみよう


さて、上記14ヶ国のうち、日本企業の進出・輸出希望地として人気があるマレーシアが、最近「JKDM HS Explorer」という、貿易協定別に品目を特定してマレーシアでの輸入関税率を表示してくれる便利なwebサイトを開設しました。

今回は、このサイトを用いて、あなたが輸出を希望する製品が、マレーシアでいくらの輸入関税を課税され、最終的にマレーシアでの荷揚げ価格がどうなるのかをシミュレーションしてみましょう。

手順1 輸出を希望する製品のHSコードを知る

「HSコード」とは、国際的に定められた貿易品目の分類・識別番号のことで、「全21部97種類」の項目に分けて細かく定められています。

まずは税関の「実行関税率表」のサイトで、あなたが輸出を希望する品目が、どのHSコードに該当するかを調べましょう。

ここでは、「湯のみ茶碗」を輸出すると仮定し、第69類の「陶磁製品」から、
「6912.00 陶磁製の食卓用品、台所用品その他の家庭用品及び化粧用品(磁器製のものを除く)」
が該当するので、「6912」を選びます。

★手順2 マレーシアでの輸入関税率を調べる

さて、上記のJKDM HS Explorerで、日本製の湯のみ茶碗のマレーシアでの輸入関税率を調べてみます。

サイトにアクセスし、画面左側の「Tariff Type(関税種別)」から「MJEPA(Malaysia Japan EPA、日マ経済連携協定)」を選択します。

その下の「Search Criteria(検索区分)」から「HS Code」を選び、日本の税関のサイトで確認した「6912」を入力します。

すると、「Ceramic tableware, kitchenware, other household articles and toilet articles, other than of porcelain or china:」と該当する品目が表示され、輸入関税率は「2.7%」と表示されます。

ちなみに、EPA税率を適用しない場合マレーシアにおける日本製の6912の輸入関税率は「34%」なので、特定原産地証明書の有無が、現地の販売戦略やバイヤーの営業計画を大きく左右することが分かります。




◆税率が判明したら、次は「特定原産地証明書」の発給申請へ


あなたの製品をマレーシアに輸出した場合輸入関税率を調べた結果、EPA税率を適用すると有利になることが確認できました。

これで、「(FOB価格+国際送料)×輸入関税率=現地荷揚げ時の総額」が判明し、「日本での数字」から「現地での数字」を基にした、より具体的な市場調査活動を行えるようになりました。

次にやることは、製品がこのHSコードに該当することを「特定原産地証明書」で証明するため、日商(日本商工会議所)で発給手続を行うことです。

手続の詳細は日商の「EPAに基づく特定原産地証明書発給事業」のページに掲載されているので、そちらでご確認下さい。

原産性判定発給審査に要する日数は、使用されている原材料の数や種類にもより、原材料の仕入れ先から「サプライヤー証明」の提出を受ける期間も含まれます。

原料や部品を「輸出製品」に加工していくうえで、原料の使用総量や付加価値の増加率が一定の比率を満たしていると判定されれば、あなたの製品は「EPA税率が適用可能なmade in Japan」と判定され、有利な税率の適用を受けることができます。




◆地方の小さな会社の製品ほど「原産性」が高くて有利

さて、このEPA協定下における特定原産地証明書を適用した有利な税率は、マレーシアのほかに、フィリピンもオンラインで調べることができます。

▼フィリピン(PJEPA) Tafiff Finder

その他の国の場合は、現地の税関に英語で問い合わせるか、外国語ができる人を探して現地語で調べるか、あるいは現地にビジネスパートナーや知人がいれば、現地で調べてもらうのもよいでしょう。

また、EPA協定を締結している国は、総じて日本との貿易で有利な関税減免措置を期待できますが、国によっては、EPA税率適用の後にも付加価値税(VAT)、物品税(GST)などが課され、荷揚げ時の総額に上乗せされる国もあります。

特定原産地証明書については、国産の原材料を保有し、加工する立場にある「地方の小さな会社」ほど活用しやすく、原産性判定にもおいても有利なのですが、地方にはEPA協定の存在を知らない会社も多く、また、知っていても、「なんとなく手続が難しそう」というイメージから発給申請自体を行わない会社もあります。

しかし、上記のような簡単な手続で、有利な税率が適用された自社製品の「現地荷揚げ価格」をざっくりと知るだけでも、「なんとなく高そう」、「なんとなく時間かかりそう」と思っていた関税発給申請作業具体的な数字でクリアになり、輸出に向けた大きな一歩になります。

「なんとなく」を小さなアクションでクリアにしていけば、海外市場がぐっと身近に感じられるようになります。

一日一つでも、輸出に関して知識や情報を増やしていきましょう。


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