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Part1 風と雨による災害について

 建材試験センターの機関誌「建材試験情報」にて、2012年7月号~2016年4月にかけて連載していた基礎講座「雨/風と建築/建材」(全7回)をNOTEにてアーカイブしていきます。(一部加筆修正)

 当時読んでいただいた読者の方も、読み逃した方も、読んで頂けたらと思います。

 Part1は2012年7月号からです。


1.はじめに

 我が国は,世界有数の台風上陸国であり,歴史的に見ても台風による被害は枚挙にいとまがありません。このため台風による風や雨による被害からいかに人を守ることができるかは建物に大きく依存します。
 いうまでもなく自然の力は強大で,雨による被害は洪水,土砂崩れといった周辺の地理的条件によって引き起こされる場合がほとんどです。この場合,建物でその被害を直接食い止めることは困難ですが,雨漏りや開口部からの雨水の浸入は居住者に重大な影響を与えます。

 台風以外でも2012年4月3日から4日にかけて日本各地で強風被害をもたらした爆弾低気圧は観測点889地点のうち76地点で観測史上1位の最大風速を記録し,山形県酒田市では39.7m/sを観測しました。この強風により屋根葺き材が飛ばされるなどの被害が発生しました。また,5月6日に関東北部で発生した竜巻では茨城県で約1250棟,栃木県では約860棟の建物が被害を受け,建物の倒壊による犠牲者も出ました。
 このように日本では風と雨による災害や被害が頻繁に起こっており,また,世界的にも甚大な被害が発生した例が数多くあります。このため我が国では建築基準法の中で風に対する基準を規定しています。また,この建築基準法を基にして,各建材に要求される性能を日本産業規格(JIS)や日本建築学会の建築工事標準仕様書(JASS)に定めております。

 当センターでは災害をもたらす原因である風・雨に対する建材の様々な性能試験を多数実施し,JISやJASSに定めた性能を保持しているか確認や評価を行っております。
 こうした立場から「雨・風と建築/建材」と題して風・雨にまつわる様々な性能やその試験方法などの話をしていきたいと思います。Part1は最近の被害事例を中心に過去の被害事例について報告します。

 特に2012年5月6日に茨城県つくば市で発生した竜巻については竜巻発生翌日に現地での調査を行い,実際に目にした被害状況について報告いたします。

2.茨城県つくば市で発生した竜巻被害について

2.1現地報告

 現場に向かったのは竜巻が起きた翌日15時頃でした。
 被害現場は茨城県つくば市北条地区で,この地区に向かう途中まではのどかな風景が広がっていましたが,現地に入ると様相は一変しました。農家で使われていたビニルハウスは完全に倒壊し、木造住宅の屋根瓦及び金属屋根材は吹き飛ばされていました。テレビ報道などで中継されていた集合住宅周辺の被害状況は更に深刻で,集合住宅、木造住宅の窓ガラスはほとんど割れ、一部の木造住宅では,屋根材が2階天井部からすべて吹き飛んでしまっているものも見受けられました(写真1)。また,完全に倒壊してしまった木造住宅もありました。建物以外では、遊歩道横に立っていた幹の太い木が根こそぎ引き抜かれたように倒れ、電柱も中央から折れているものもありました。

 実際に現場を確認して分かったことは竜巻による被害は台風などと違って非常に局所的であることです。竜巻の直撃を受けた場所から500m程離れた住宅や商業施設に行ってみると,建物等はほぼ無傷の状態で建っていました。この地域の商業施設の方の話では、建物は無傷であるものの、竜巻の被害によって停電が続いているため通常営業ができないとのことでした。

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写真1 竜巻被害状況(窓ガラスは割れ屋根材も飛ばされている) 

 また,この竜巻による被害は過去最大規模であると言われており,新聞報道ではその規模は藤田スケールで言うF3またはF4レベルの可能性があるともいわれております。

2.2藤田スケールとは

 藤田スケールとは竜巻など水平方向の規模が小さい局所的な現象について,既存の風速計から風速値を求めることは困難であるため,1971年にシカゴ大学の藤田哲也博士が発生した風被害の状況から風速を大まかに推定する指標として作成されたものです。藤田スケールは表1に示すように6段階に分類されています。

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    現地で見た竜巻被害は,藤田スケールで示されるF2とF3の被害が多数確認できました。新聞報道等ではF4とも言われており,今後更なる検証により今回竜巻の規模が確定されると考えられます。



3.過去の台風災害について

 2012年5月の竜巻被害は甚大なものでしたが,日本では夏から秋にかけて発生する台風の被害も時に甚大なものになることがあります。表2は過去に起こった大型台風による被害についてまとめたものです。
  1934年に発生した室戸台風では大阪で最大風速48m/sを記録し,1959年の伊勢湾台風では伊良湖で45m/sを記録しました。この2つの台風は強風による高潮が被害を大きくしたと言われています。2011年に発生した台風12号では,最大風速は35 m/sでしたが8月30日から9月6までの総降水量は1,800mmを超え,死者78名,行方不明者18名,建物の全半壊3,297戸という大きな被害が発生しました。この被害は主に大雨によるものでした。

   ここで1934年から1959年までに発生した台風被害を見てみると全半壊戸数及び死者の数が非常に多いことが分かります。しかし,1991年以降を見ると全半壊戸数及び死者の数が激減していることが分かります。これは,建築物の強度と情報伝達の進歩によるものといわれています。昔の建築物は現在と比べると構造的に弱いものが多く,また,情報伝達については現在のように様々な情報を瞬時にテレビやインターネット等を利用することにより容易に手に入れることができる状況にはなかったからです。このため,近年では過去と比較して被害が激減していると考えられます。

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4.今後について

 最近の竜巻ゲリラ豪雨などの地球環境の変化によるとみられる異常気象の発生が頻発する状況では,表2に示した以上の台風が起こる可能性も十分にあります。我々にとって台風などの自然災害に対して,如何に被害を最小限にとどめるかは非常に重要な課題であり続けます。
 Part2からはこれまで数多くの試験を行ってきた立場として,建具などの建築材料の性能といった視点から風・雨に対する様々な性能その意味するところを中心に解説していきたいと思います。

【参考文献】

1)石崎溌雄:耐風工学(1981 朝倉書店)
2)塩谷正雄:強風の性質(1992 開発社)
3)田村幸雄:建築物の安全の嘘とホント
(2005 建築研究開発コンソーシアム)
4)内閣府:平成23年台風12号の被害状況等について          
(平成23年12月28日14時30分現在)

執筆者:中央試験所 環境グループ  松本知大

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