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第8回全国学生演劇祭 インタビューシリーズvol.1

ギムレットには早すぎる、劇団ダダ インタビュー


福岡:ギムレットには早すぎる(村岡勇輔 さん)

東北:劇団ダダ(瀬川鮎 さん)

編集・インタビュー:渋革まろん さん




Q1.なぜ学生演劇祭に参加しようと思われたのでしょうか?


村岡(ギムレットには早すぎる):今年も福岡で学生演劇祭をやることになったので、純粋に作品をお客さんに見せたいというので参加しました。もうひとつ、今年の福岡学生演劇祭はメンバーの参加条件が「学生」のみだったんですよね。僕はもう社会人だから条件を満たしていない。でも、主宰である自分が抜けても団体として機能して欲しいという願いも込めて、「ギムレットには早すぎる」での参加を決めました。


──「ギムレットには早すぎる」はどの大学が母体になっているのでしょうか?


村岡:うちは福岡の大学各所から集まっていて、同じ大学のメンバーは現時点ではいませんね。一応、福岡大学の出身が2名いるんですけど、そこも演劇部のつながりではないんで。私自身は、西南学院大学演劇部に所属していました。今回の脚本を書いた岡部君(末席ユニット ちりあくた)も西南学院の演劇部でしたけど、「ギムレットには早すぎる」のメンバーではないという形になっています。

ギムレットには早すぎる『今ーちゃー』


──瀬川さんは、いかがでしょうか。


瀬川(劇団ダダ):前々から自分で台本を書いて上演したいという気持ちがありました。でも、自分で劇団を立ち上げるのは、会場を押さえたり、広報したり、色々な壁があります。演劇祭は人を集めれば上演まで実現できるというのがやっぱりありがたくて、参加を決めた感じです。


──瀬川さんの大学はどちらになりますか?


瀬川:僕は東北大学学友会演劇部のOBです。東北では学生主体であれば参加可能だったので、OBとしては僕だけが参加して、他のメンバーは在学生になります。

劇団ダダ『悦に浸れないなら死ね』


──それぞれの地域では、どれくらいの数の学生劇団が活動しているのでしょうか?


村岡:体感では全然ないんじゃないかなと。2〜3程度だと思います。各大学に演劇部はあるんですけども、あまり外部に発信しないところが多くて。学外で参加する僕たちみたいな団体が現れると、それだけで一目置かれるくらいの状況ですね。
※福岡学生演劇祭2023の参加団体は9団体まで増えた。


瀬川:福岡の話があったからそれと比較をできるかなと思ったんですけど、福岡と同じように、大学の演劇部はどこもだいたい一つずつあります。今回のとうほく学生演劇祭では、東北地方の各所に声をかけたらしいんですが、最終的には仙台の6団体が集まりました。


Q2.立ち上げてからどれくらいの団体になりますか?


瀬川:ダダは東北演劇祭に合わせて僕が立ち上げた団体になります。だから1年経ってないくらい。


村岡:僕たちも2021年の学生演劇祭で初めて立ち上げた団体です。2023年の4月で丸2年になります。


──学生演劇祭がきっかけで、団体を立ち上げるところが多いですね。


村岡:やっぱりやりやすいです。本当に。すごく良いきっかけになっていると思います。


──結果的に、学生演劇祭は若手育成・支援の場として機能していて、劇団の立ち上げをサポートする役割を果たしているんですね。


ギムレットには早すぎる『今ーちゃー』

Q3.卒業後は、演劇とどう関わっていこうとしていますか?


村岡:演劇を続ける意思はかなりあります。やっぱりこの1年、社会人をやりながら演劇をする大変さも感じつつ、全国に参加して自分は演劇をやりたいんだなという想いが沸々と湧いてきました。団体としては、同世代の大学院生が1人、学部在学中のメンバーが2人という状況で、団体の存続は難しいかなと思う一方で、今後についてしっかり話していきたいと考えています。僕自身、まだ進路に迷う部分はあるんですけど。


──どういうふうに演劇を続けていくか、具体的なイメージを持ちにくいところはありますよね。


村岡:演劇を続けるビジョンが全く見えないわけではないんです。それぞれのメンバーがどの程度、演劇と付き合っていきたいかは聞いたりしているので、丸く収まるかたちで活動の仕方が決まれば、団体を継続していくことはできそうです。


──瀬川さんはいかがでしょうか?


瀬川:僕は今年度の9月に大学を卒業したんですけど、個人としては2年間くらい、自分を試す意味も込めてやれるだけ公演を打ちたいというのはあります。とりあえず両親を説得して2年間は猶予をもらったので、なるべく活動を続けていきたいですね。


──ダダとしても活動していく予定ですか?


瀬川:あくまでとうほく学生演劇祭に参加する目的で集めた団体だから、残りのメンバー8人が今後もダダを続けていきたいかわからなくて。今後はダダという名前を使って、メンバーを定めずに活動していったほうがいいのかなという気もしています。


──仙台は10-BOXもあるし、短距離男道ミサイルや屋根裏ハイツ、三角フラスコなど、小劇場の劇団を育てる土壌もあると思いますからぜひ頑張って欲しいです。

劇団ダダ『悦に浸れないなら死ね』

Q4.演劇というメディアを通じて、やりたいことや実現したいことを教えてください。


村岡:団体としてはやっぱり大きくしていきたいと思っています。それこそ、福岡でいうと万能グローブ・ガラパゴスダイナモスに匹敵するくらいに。「ギムレットには早すぎる」のメンバー構成や作品の出し方の感じは、ゴジゲンさんを参考にしています。あとは、社会人をやりながら演劇を続ける敷居を下げていけるような存在になりたいですね。


瀬川:大学在籍中はほとんど役者をやっていたんですけど、そのなかで、自分ではない人について考えるようになりました。それで演出をやってみたときに、人と物を作るときにはコミュニケーションや対話能力が必要なんだと思ったんですよ。


──というと?


瀬川:今回の稽古を通じて、役者が役を演じるときは、そのひとが他人をどう見て何を感じているか、かなり反映されるんだなと気づきました。稽古場では作劇を通じて他人とわかりあえないことを知ることができます。同じように、作品を通じてお客さんとお話をしたいんです。感じ取ったことを対話して交換することに意義があるのかなと思っていて。だから最近は感想会に興味を持っています。300人のお客さんを相手にするよりも、対話ができる30人とのつながりを強くしていきたいというか…。


──村社祐太朗さんの新聞家、和田ながらさんのしたため、小嶋一郎さんの250km圏内など、上演後の感想会を開いている団体はいくつかありますね。私としては、とても意義深い試みだと思います。


Q5.注目している(影響を受けた)演劇団体や個人、アーティストがいれば教えて下さい。


村岡:影響を受けたという意味だったら、圧倒的に「柿喰う客」です。本当に好きすぎて、ほぼほぼ東京に観に行ってます。ただ中屋敷さんの脚本を真似するのは危ないなっていうのは思って、気をつけてますね。


──どういった点に影響を受けているんでしょうか?


村岡:そもそも知ったきっかけは、動画配信サービスの「観劇三昧」で『天邪鬼』を見たことなんですよ。柿喰う客の何がすごいって、YouTubeにめちゃくちゃ動画をあげてるから見ちゃうんですよね。他の団体は課金しないと見れない……というのは仕方ないんですけど、柿喰う客はそれを無料で公開しているから学生がスッと入ってハマりやすい印象があります。そこから生で観たいという気持ちが湧いてきて、2019年の『御披楽喜』から念願叶って観られるようになったというかたちです。


──舞台映像の無料公開は範宙遊泳も先駆的に始めていましたね。最近では期間限定ですが、国際交流基金の「STAGE BEYOND BORDERS」で豊富なラインナップの作品を見ることができるようになりました。とはいえ、You Tubeの無料公開が影響力を持っているというのは意外でした。瀬川さんは影響を受けたアーティストなどいかがですか?


瀬川:僕も柿喰う客ですね。2019年から東京に観に行けるようになってそれからずっと観てるっていうのも全く同じです。


──これはもうLINE交換しといた方がいいんじゃないですか(笑)


村岡:いやそうですね(笑)


瀬川:僕も村岡さんに興味があるのでぜひ。


村岡:ちょっとツイッターの方からでいいですか。


──すごい(笑)


瀬川:あとはYouTuberのにゃんたこが松尾スズキの『業音』を観に行って面白かったと言ってたから興味を持ってネットにアップされている大人計画の作品を見るようになりましたね。そこから松尾スズキにハマって、本谷有希子のつながりを知って、『遭難、』を読んでDVDを買うようになりました。『幸せ最高ありがとうマジで!』とか、『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』とか。大人計画つながりで、宮藤官九郎の『鈍獣』が馬鹿おもれえってなってこれもDVDを買いました。それと最近は別役実にハマっています。そこからイヨネスコ、フェルナンド・アラバール、安部公房を読むようになってきた感じです。


村岡:不条理劇だと僕はサミュエル・ベケットが好きで。卒論に引用しちゃうくらい。


瀬川:ええ!


村岡:2021年の福岡学生演劇祭では、ほとんどベケットの『ゴドーを待ちながら』をアレンジしたような作品を出したんですよね。そういう感じで、僕は不条理劇に関心を持っているわけなんですが、全国学生演劇祭にダダさんみたいな作品が来たっているのはすごいと思っていて。


瀬川:ありがとうございます。あの、個人的には、不条理だと井上ひさしの『笑劇全集』もおすすめです。


村岡:ありがとうございます!


Q6.学生劇団の課題について思うことがあれば教えてください。


村岡:やっぱり一番はお金とノウハウがないことかなって思いますね。お金がないから学生演劇祭で旗揚げする団体も多くて、すごく助かってはいるんですが…。結局、福岡はそれぞれの大学があまり他の大学と関わることなくやるから、大学外での公演に抵抗がある演劇部もあって、前向きな参加が見込めない状況があるかもしれません。それと、大人の劇団があまり学生に興味を示さない。だからノウハウが伝わらず、個々の学生劇団がガラパゴス化しています。逆に言えば、学生側も全然芝居を観に行かないから、つながりもできない。ディスコミュニケーションが原因で世代間の距離が広がっている感じはあります。


瀬川:やっぱりお金のことです。劇団ダダは東北大学の演劇部とは別団体として切り離していたので、学内の施設を使わず、市民センターを借りて稽古していたから、稽古場代もわりとかかって。全国学生演劇祭では、舞台で使うものを東北からこっちに持ってくるにあたって運搬費の負担もちょっと大変でしたね。


Q7.学生劇団の可能性について思うことがあれば教えてください。


村岡:全国に参加してというのもあるんですけど、やっぱり若いからこそアンテナ張ってる先輩方が忌憚のない意見を言ってくれたり、真摯に審査してくれたりするのもあるというか。そういう言葉は素直に吸収していける可能性があっていいのかなと思いました。


──「ギムレットには早すぎる」は福岡の同世代があまりやらない動きをしていて、上の世代とのつながりを持ちやすい側面もあるんでしょうか?


村岡:そうですね。続けていく意思を持った団体は、多分、久しぶりなんじゃないかと思いますし、最近はコロナ禍もあって、同世代の演劇人が減っているので、先輩方も優しくしてくれたりしますね。


──瀬川さんはいかがですか?


瀬川:ちょっと難しいな……。


──質問の仕方を変えると、学生劇団に入って自分的に良かったことなどありますか?


瀬川:すごく個人的な話にはなってしまうかもしれませんが、東北大は既成台本を用いることがほとんどだったんですね。逆に言うとあまり創作をよしとしない……とまでは言わなくても、脚本案が上がるときに、創作・既成・既成・既成みたいになると、どうしても創作が見劣りしてしまう、といいますか。でも逆に、それで面白い既成台本にたくさん触れることができたのは良かったかなと思います。


──自分の意思ではやろうと思わないような戯曲でも、やってみようと思える良さがありますよね。


瀬川:いろんな都合の上でこれをやろうとなるのが、個人的には良かったなと思います。


──ちなみに東北大の演劇部ではどんな台本を上演してたんですか?


瀬川:ケラリーノ・サンドロヴィッチの『消失』、筒井康隆の『三月ウサギ』、『「バンク・バン・レッスン」』とか、最近だと鴻上尚史の『サバイバーズ・ギルト&シェイム』みたいな感じでした。


Q8.今後の学生演劇祭に期待することはありますか?


村岡:福岡と全国で期待することが違います。福岡の場合は、自分も実行委員に入ってることもあったんで話題に上がったんですけど、参加団体の打診も含めて、福岡からもうちょっと九州の方にまでリーチできたらいいなと思っています。それで福岡学生演劇祭に参加する団体が10団体以上にまで増えて欲しいというのが期待することです。全国に関しては、体感として、すごくハードなスケジュールだったと感じていて、それは仕方ないにせよ、合間合間にでも他団体と交流できる環境があると、もっとつながりも増えて、良いイベントになりそうだなと思いました。


──日本各地から学生劇団が集まるイベントは全国学生演劇祭くらいしかおそらくないですよね。


村岡:そうなんです。だからもう本当に最後の1日の交流会で血眼になって色んな団体と連絡先を交換したり、話したりしたけど、やっぱりまだ物足りないところはあります。


──瀬川さんはどうでしょう?


瀬川:強いて言えば、運搬費用の問題がありました。補填がもう少し欲しいという意見もあって、そこは難しいところだなと思います。スケジュールで思ったのは転換が忙しかったくらいですね。これもわからないんですけど、10団体という数がちょっと多かった印象もあります。


──学生演劇祭がこういう方向に発展してほしいみたいなことはありますか?


瀬川:戯曲についてのコメントをもらえたら嬉しいですね。僕は書き手なので、他の書き手にもすごく興味があります。


──なにかしらお互いの技術や考えていることを交換する機会があるといいのかもしれないですね。本日は長時間のインタビュー、ありがとうございました。


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