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10/31(水)業務スーパーにも行けた

前回の日記で書いた通り、17時間半という「もはやそれは軽めの冬眠だろ」ともいえるような長時間睡眠をとってしまった日の続きである。

この失態を何とか取り返すために僕は前回の日記を投稿し終えたあと、まずお風呂に入って身支度を整えた。
 自転車のカギを持ち、布団から出て日向ぼっこを始めた凛ちゃんに今朝の非礼を詫び、外出の意を伝えて部屋のドアを開けた。

ひきこもり生活を始めてから外出をするのはもちろんこれが初めてではない。スーパーやコンビニには行っていたし、自転車で10分ほどの実家にも2度ほど行った。しかし今回の外出先は今挙げたどの場所でもない。業務スーパーだ。
 目的地までは自転車で20~30分ほどの距離。これはひきこもり始めてからの4か月間で一番の長旅になるので、少し心配もあった。過去数回の外出は短距離・短時間だったので大丈夫だったが、それ以前の外出では突然動悸が激しくなって不安感に襲われたり、吐き気がしたりしてしまっていたのだ。
そんな時はとにかくパニックにならないよう立ち止まり、できるだけ人や車が視界に入らないようにしながら深呼吸をして鼓動が収まるのを待たなくてはならなかった。
とはいえ、この1か月ほどでだいぶ体の調子は良くなっていたので、きっと大丈夫だろうと自分に言い聞かせながら自転車をこぎ始めた。時間は13:30頃。晴天で日差しがあったので思ったよりも暖かい。
 通りかかった近所の一軒家の庭では、植木職人の兄ちゃんが同僚と談笑しながら木の枝や葉を刈り揃えていた。職人に剪定を頼むには一体どれくらいお金がかかるものなのだろうか。2人で作業しているしきっと高いんだろうな、などとアパート暮らしで貧乏な僕には全く関係ない想像を膨らませながらまずはコンビニに寄った。

目的は2つあったのだが、まずはATMに向かった。部屋から地元の地方銀行のキャッシュカードが出てきたのでその残高を確認したかったのだ。思い出すのに苦労したが、これは7年ほど前にコンビニの夜勤のアルバイトを始めた時に作らされた銀行口座だった。京都に引っ越すことになり半年ほどでそのアルバイトは辞め、同時にこの口座のこともすっかり忘れていたのだ。
 ATMにカードを通して残高確認をしてみたが、残念なことに残高は500円を切っていた。おそらく京都に引っ越した直後の金欠で使い果たしてしまったのだろう。それにしても僕という人間はいつどこにいても金欠に苦しんでいるのだな、と苦笑いを浮かべポケットから携帯を取り出した。
2つ目の目的はポケモンGOのアップデートだ。
 ひきこもる前までは熱中していたポケモンGOだったが、この4か月ほぼ起動することは無かった。最近ようやく外出ができるようになってきたので再開しようと思ったのだが、アップデートにWi-fi接続が必要で諦めていたのだった。何も買わずに出て行くのも悪いと思い、108円のコーヒーを買い外の喫煙コーナーでコンビニのWi-fiに接続した。しかし、アップデートは始まったものの全然進まない。タバコを1本吸ったり買ったコーヒーを飲みながらしばらく待っていたのだが、10分ほどで4分の1も進んでいない。このままでは1時間くらいここに居ることになってしまいそうなので、早々に諦めてコンビニを後にした。

コンビニで少し時間を取られてしまったが、そこから業務スーパーまでは順調な道のりだった。何よりも平日の昼過ぎで街に人や車が少なかったので自転車で走りやすかったし、体調の不安も感じずに済んだ。
 業務スーパーもお客さんが少ない時間帯だったようで、店内が閑散としているなか一青窈の「もらい泣き」のエレキギターアレンジが空しく響いていた。何を買うのかは特に決めていなかったが、強いて言うならば「日持ちがして、量が多く、安い食材を買う」というルールに適う物だ。

店内をゆっくりと見て回り、まずは家で切らしていたり少なかった調味料を思い出しながらカゴに入れていった。塩・ブラックペッパー・ケチャップ・マヨネーズ。輪切りの鷹の爪と粒マスタードも安いものを見つけたので購入した。その後さらに時間をかけて店内を回り、野菜を摂るために冷凍のベジタブルミックス1kgを1袋。ご飯にもパンにもパスタにも合う万能肉ことソーセージ1kgを2袋。500g79円の格安パスタを4袋カゴに入れた。お米も買おうかけっこうな時間悩んだのだけれど、この時点でカゴの商品の重量が6kgを超えていることに気がつき諦めた。買ったものを無事に家に持って帰るまでが買い物なのだ。
 自分としてはかなりの大量買いだったので少しヒヤヒヤしたが、さすがは業務スーパー、会計は2000円台で済んだ。もちろんこれらの食材のみではちゃんとした自炊まではいけないが、自炊していくための土台としての食材はこれでほぼ揃える事ができた。あとは都度近所のスーパーで生鮮食品を揃えればいいだけなのでだいぶ楽になるし、経費も抑えられる。

購入した食材の使い道を考えながら帰路についた。自転車のカゴに詰め込んだ6kgの食材は重たかったが、スピードを出さなければ問題なかった。町は夕方にさしかかった頃合いで、まだ日差しはあったが徐々に気温が下がってきているようだった。

無事に家まで辿り着き、買ってきた食材をそれぞれの場所に収納した。長旅から戻ったというのに凛ちゃんは布団の中にいるようで、出てくる気配もなかった。「帰って来たんですけど」と言いながら凛ちゃんがいるであろう布団のふくらみに手を突っ込むと、僕の指をざりざりと舐めてくれた。怒っているわけではないようだ。
こうして僕はこの4か月間で最長の外出を終え、この日記を書いている。
家を出る前に作りおきのスープを食べきってしまったので、今夜はまた何かを作って食べよう。

そんなことを考えながら休憩していたら「孤独死」についての記事が目に入り、読んでしまった。そこで触れられていたのが孤独死に至る過程で多くみられる「セルフネグレクト」という考え方だった。

成人が通常の生活を維持するために必要な行為を行う意欲・能力を喪失し、自己の健康・安全を損なうこと。必要な食事をとらず、医療を拒否し、不衛生な環境で生活を続け、家族や周囲から孤立し、孤独死に至る場合がある。防止するためには、地域社会による見守りなどの取り組みが必要とされる。自己放任。 (デジタル大辞泉の解説より)

今思えば僕がこの4か月で陥っていた症状そのものだった。不思議なもので自分がその状態にいる間は全くそんな自覚を持てなかった。自分の症状を表す言葉があることも知らなかったし、それを調べる意欲も無かった。
 最初の日記にも書いたが、僕は今年の初夏からずっとインスタント麺のみの食事で、家事もやる気が一切起きずに全て放置していた。郵便受けはずっとパンパンで、知人からの連絡も全て無視していた(これは今もできていない)し、お金が無くて携帯が止まってもずっと放っておいた。
 しかしそんな状態でも「自分から」両親に助けを求めることは遂にできなかった。積極的に「死にたい」と思う事こそ無かったけれど「生きること」への意欲はほぼ失われていたのだと思う。
 あらためて思い返すと「自分から他者へ助けを求める事ができない」というのはセルフネグレクトの一番恐ろしい部分だと思った。僕の場合は幸いにも心配した両親が支援を申し出てくれたおかげで、やっと今この状態から抜け出しつつある。しかし、いざという時頼れる人がいない、という人たちもたくさんいるのだ。
 たとえ生活への意欲や能力が戻ったとしてもそれで万事解決ではない、というのも辛いところだ。僕はセルフネグレクトの4か月間で溜まったツケをこれから払っていかなければならない。考えるのも憂鬱だが、この4か月で様々な支払いも溜まっている。両親に話したものもあるし、まだ話せていないものもある。そしてその両親には、金銭面だけではない大きな借りも作ってしまったので、これも返していかなければならない。
 などと考えているとやはり精神的によくないので、とりあえず今は焦らず体を元に戻していくことに集中するしかない。先週は自炊を始められたし、今日は1時間半以上も外出できた。noteを始めて2週間が経ち文章を書くことにも慣れてきた。

お腹が空いてきたので日記はこれくらいにして、今家にある材料で夕食を作ることにした。元気な頃に毎日のように作っていたペペロンチーノを作ろうと思ったのだが、ニンニクを買うのを忘れていたことにたった今気が付いた。誰かに「まだまだ元の生活は遠いな」と言われたような気がして、本日二度目の苦笑いを浮かべてしまった。焦らずやっていくしかない。

こんな生活なのでサポートして頂けると少額でもとても大きな助けになります。もしこのノートを気に入っていただけたら、ぜひよろしくお願いします。羊肉