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『最長片道切符の旅』を旅する day5 「あの人もいいことなしに終わるンかねえ」

【5日目】幌延ー倶知安 9月23日(水)

幌延(ほろのべ)から留萌(るもい)まで旧羽幌線跡を長いバスで130km移動。留萌から深川滝川岩見沢沼ノ端を経由して札幌へ。札幌から小樽を経て倶知安(くっちゃん)まで長い長い本日のルート。

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【5日目】幌延ー倶知安 
幌別 0630(バス)0928 留萌 0934(留萌本線)1027 深川 1104(函館本線)1139 滝川 1147(函館本線)1228 岩見沢 1253(室蘭本線)1411 沼ノ端 1414(千歳線)1529 札幌 1644(函館本線)1716 小樽 1832(函館本線)1942 倶知安

幌延から130kmのバス旅

天気は薄曇り、気温11度、雨上がり。今日は旧羽幌線(はぼろせん)跡をバスで辿る。羽幌線は141kmあったがバス路線でも130kmある。ほぼ東京ー沼津間の距離である。始発0630快速留萌(るもい)行き。驚いたことに40年後の現在でも昔の鉄道時刻と同じ時間に同じ経路の路線バスが運行している。すごいなあ。

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始発バスの客は私一人だけだった。のんびりとラジオ第一のニュースを聞きながら走る。利尻富士が見えるが頭は隠れて見えない。「北緯45度線」を通過する。北緯45度はアメリカ・ミネアポリス、イタリア・トリノ、セルビア・ベオグラード、内モンゴル自治区、ウラジオストックを通る線である、と看板にある。

バスの席は、「最前列左側」がベストポジションである。運転手に遮られることがなく高くて見晴らしがいい。今回の旅はバスが続く。バスの旅も悪くない。運行時間も鉄道並みに正確だ。バスの旅は景色が密着していて近く、鉄道ほど遠くない。鉄道は窓の外の景色が遠くて、距離感、客観視感、第三者感がある。自家用車は殻の中に閉じ込められた密閉感がある。バスは対象とほどほどの距離感があるのがよい。

手塩の一つ手前に中川口という、ホームの長さが五メートルぐらいしかない小さな臨時乗降場があり、数人の高校生が乗ってきた。その中の女子高生一人が「すいません」と小さな声を出して私の席の前に座るとすぐ鞄から英語の教科書を出して開いた。色の白い愛らしい高校生である。この臨時乗降場の左手に小さな牧舎とサイロが三つ四つ見え、他に何もないから牧場の子にちがいない。

バスは「中川口仮乗降場跡」という標識を通り過ぎる。ここに違いない。が、もちろん「色の白い愛らしい」女子高校生は乗ってこない。風力発電の風車が林立している。遠別(えんべつ)でおばあさんが一人乗ってくる。ここからバスは海に出る。遠くに天売島、焼尻島が見える。初山別(しょさんべつ)で振り返ると利尻富士がきれいに山頂を現していた。

初山別から乗ってきたおばあさん二人。「息子さん、今日帰って来るンだって?」「それがサ、ケータイの番号がわがんねくて、いつ帰ってくるんか分からんのよ」知人が入院中らしい「おかしいから見て来てって言われてね。何かおかしいンだ。頭が痛いからってケロリン飲んだらしいんだけどね。もう顔が曲がってんのさ。すぐ病院に連れてったんだけどネ」「あの人もいいことなしに終わるンかねえ」

ここまで旧羽幌線の痕跡は全く見えず。所々のバス停留所が旧駅舎ではないかと思われる。羽幌(はぼろ)は海に向かって坂道の小さな町だった。坂を下りて海に突き当たったところがフェリー乗り場だ。シアトル郊外の町のような作りだ。それにしても人が全くいないのはどうしたことか。

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河岸段丘は台風のため各所で崩落、災害復旧工事が行われていた。力昼(りきびる)では風力発電の風車が列をなしている。バスは留萌(るもい)市内に入る。バスはゆっくり市内を循環してようやく0928駅前着。3時間のバス旅であった。料金2600円。

留萌から札幌へ

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駅でトイレ、駅弁(売ってなくておにぎり)、写真とあわただしい。留萌0934発、深川行き。留萌本線。ここでようやく朝食。そういえばここも「乗りつぶし」のために後日わざわざ留萌から先まで乗りに来たのだった。

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恵比島(えびしま)、というより朝ドラ(1999年「すずらん」)の「明日萌(あしもい)驛」と言った方がいいか。まるでセットのような駅舎(セットだけど)。駅裏はそのまま原野。まさにおあつらえ向きのロケーションである。ここを探してきたスタッフは偉いな。

五日目にして「観光客」であることにも慣れた。平気で写真を撮れるようになったし、ずっと地図を片手に動けるようにもなった。もうサングラスだってかけちゃう。

「最長片道切符の旅」は最初からクライマックスだ。北海道、だからだろう。北海道は廃線跡が多い。必然的にバス、それも長距離バスが多くなる。すべて鉄道の旅と違ってバス旅が入ると絶妙にバランスがいい。

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廃線後のバス旅が意外に楽しかった。地図で克明にバスルートを追いつつ、廃線跡を探すのがおもしろい。バス運行は時間に正確だし、時折のトイレ休憩で停まる元駅跡のバスターミナルもよかった。思っていた以上にバスの接続がいいのにも驚いた。「路線バスの旅」もいいかもしれないな。

深川 1104(函館本線)1139 滝川。倶知安のホテルを電話で予約。移動中の非常食(煎り大豆)を買う。列車で移動中、乗り換え時間が短かったり、駅に何にも売ってなかったりして飯を食べ損なうことがある。そのための非常食である。

デイパックのショルダーストラップの根元がほつれかけている。このままでは危ないので札幌で途中下車して買い換えることにした。

滝川 1147(函館本線)1228 岩見沢。淡々と平野を走る。暖かくてうつらうつらする。この区間、ほとんど記憶なし。

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岩見沢 1253(室蘭本線)1411 沼ノ端。岩見沢で30分の乗り換え時間があるので駅前アーケードまで出てお昼のパンを買う。天気がよくて暖かいので駅前広場のベンチでお昼を食べる。

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岩見沢からはキハ40。窓を開けて走る。乗客に少年、少女が多い。駅前に男子女子が迎えに来ているから、高校の文化祭でもあるのだろう。青春してるなあ。

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沼ノ端 1414(千歳線)1529 札幌。沼ノ端では3分ほどで乗り換え。接続がいい。この駅はおどろくほど簡素でがらんとしている。

町中に新しい箱物建築物がやたらに多い。箱物の名前が貧しくていやだ。「ふれ愛館」「ほほえみ館」「元気会館」とかやめて欲しい。訳が分からないカタカナもいやだけど。

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北広島でエアポート快速に乗り換え。この旅初めてのロングシート。しかも冷房が入っている。快適で、窓が大きく広くて、軽くて早い。ホームの案内アナウンスに英語が加わる。これが都会というものか。乗客のファッション、スタイルが格段によくなる。

札幌から倶知安へ

札幌で途中下車、駅前のアウトドア用品店でデイパックを買う。古いのは処分してもらって新しいのに荷を詰め替える。

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札幌 1644(函館本線)1716 小樽。小樽で降りて寿司を食べる。明日の朝食用に紅餅と生どら焼きを購入。

小樽 1832(函館本線)1942 倶知安。駅前のビジネスホテル泊。コインランドリーで洗濯。その間、バーでビール。

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バーで。「おとといファイターズの試合に行ったンだけどさ、HTB(北海道放送)が来ててヨ、インタビューさせろっていうのよ。会社サボって来とるし子ども学校休ませて連れて来とるから、出れねえって」「ヒルマン監督はえらいな。腕が痛くても注射打って何千人もサインするもな。ファンあってのプロ、よう知っとるわ」「新庄は自分の守備位置の前に自前でシート持っとって、少年野球のこどもに配っとるんだと。コイツもえらい奴やな」

今日は幌延から留萌札幌小樽を経て倶知安まで375kmの長い旅であった。お疲れさま。




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