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2022インフラ健康診断書(電力部門・発電用ダム)

土木学会事務局です。

土木学会では2016年度より、「インフラ健康診断」の取り組みを行っています。これは、土木学会が第三者機関として、橋やトンネル、上下水道などのインフラの健康診断を行い、その結果を公表し、解説することにより、インフラの現状を広く国民の皆さまにご理解いただき、インフラの維持管理・更新の重要性や課題を認識してもらうことを目的としています。

2022年8月に「電力部門(発電用ダム)」の診断結果を公表しました。今回はこの「電力部門(発電用ダム)」の健康診断結果と健康状態の維持向上のための処方箋をご紹介いたします。

診断結果は、健康度(現在の状態)がA(健全)で、維持管理体制(維持あるいは回復するための日常の行動)が、横向き(現状の管理体制が続けば、現状の健康状態が継続すると考えられる状況)となりました。

以下、「電力部門(発電用ダム)」の健康診断結果と処方箋を解説いたします。詳細な内容は以下の冊子でご確認ください。

ダムの特徴

河川法上のハイダム(高さ15m以上)は全国に約1,500基あります。この
うち今回評価の対象とした発電用ダムは、電力会社のほか、公営およびその他の発電事業者が管理する363 基があり、各ダム管理者は日常管理における巡視・点検や洪水・地震後の点検を行うとともに、点検・評価結果などを踏まえてダム施設の効果的・効率的な維持管理に努めています。発電用ダムも治水ダム同様に、その重要性から高い安全性が要求されると同時に、全面的な更新が困難な施設であることから、適切な維持管理をより効果的に行い、ダムの機能性と安全性を長期にわたり保持することが重要です。

自主保安の原則のもと、ダム管理者は発電用ダムの管理を的確に行っていますが、併せて3年に1回の頻度で河川管理者である国や自治体によっても検査が行われており、今回はその結果を基に発電用ダム本体の健康状態について評価を行いました。

現状の健康状態

発電事業者(自家発電を除く)が保有する発電用ダムは、健全に維持管理されていますが、周辺斜面、洪水吐の導流部や減勢工などに処置が必要な状況が部分的にみられます。
ダム堤体は構造上、極めて長寿命で安定した構造物ですが、ひとたび異常が発生した場合にはその影響は広範囲に及ぶことから、アセットマネジメントによる評価に基づき適切な補修を施して、長期的に健康度を維持していく必要があります。
発電用ダムとしては全体的に良好な状態であるものの、放流ゲートの開閉装置などに対する設備の修繕・更新は永続的に必要なものであり、これらの設備の老朽化が進む発電用ダムが今後も増加するものと考えられます。

維持管理体制

発電用ダムの適切な維持管理による安全性確保は極めて重要な課題であり、自主保安のもと、国や自治体による3年ごとに実施されるダム定期検査も制度化されています。

一方、発電用ダムの維持管理では、土木構造物、機械電気設備などの多様な設備に加え、貯水池の堆砂や水質、環境なども対象となり、さらには近年の豪雨の頻発化などを踏まえると、継続した予算確保と管理体制の整備が必要不可欠です。そして、気象予測や流出予測に関する技術革新をもとにしたスマート保安の推進など、幅広い技術力向上にも積極的に取り組む必要があります。

昨今、カーボンニュートラルの推進において再生可能エネルギーとして水力発電が注目されており、今後も発電用ダムを適切に維持管理していく必要がある一方で、人口が減少し、発電用ダムに関して豊富な経験を有する技術者も少なくなってきているのが現状であり、今後も継続して技術の継承、技術力の向上、ダムの特性に応じた予算面、人員面での管理体制確保が必要です。

健康度の維持・向上のための処方箋

発電用ダムのダム管理者は、ダムの機能が保たれ、恩恵を可能な限り長期的に享受できるよう、アセットマネジメントに基づく評価による予算化、補修を徹底し、健康度を維持する。

発電事業者は、発電用ダムの適切な運用が継続できるよう、予算・人員の制約のもと、引き続き現状を踏まえた制度・体制作りはもとより、効率的に点検・評価を行うための技術等を開発し、自ら維持管理計画を立案するとともに、実施に向けた予算確保と管理体制を整備する。

発電事業者は、発電用ダムを持続的かつ安全に活用できるよう、国・都道府県等・土木学会との連携をさらに強化していく。

土木学会は、発電用ダムなどの水力発電設備の維持管理の重要性を広く社会全体に情報発信し、根本的な課題である予算と人員の充実に向けた社会的な理解促進に取り組む。

インフラメンテナンス総合委員会

現在土木学会では、インフラメンテナンスを力強くなおかつ恒常的に位置づけるため、既存の関連委員会を発展的に統合し、会長を委員長とする「インフラメンテナンス総合委員会」を2020年度から常設し、活動を推進しています。活動予定など、最新情報は以下のサイトでご確認ください。


海外の「インフラ健康診断」

海外で実施されているインフラの評価をご紹介します。

ASCE(米国土木学会)のインフラ健康診断(Infrastructure Report Card)

ASCEは、アメリカのインフラの現状を17のカテゴリーに分け、学校の成績表のようなA~Fの評価方式で評価しています。このレポートカードには、成績を上げるための提言も含まれています。

NIC(国家インフラ委員会)の国家インフラ評価(National Infrastructure Assessment)

英国では、長期的な経済インフラのニーズを分析し、戦略的なビジョンを概説して、特定されたニーズをどのように満たすべきかの推奨事項を提示しています。2018年に最初の評価を公表し、2023年秋には2回目の評価の公開が予定されています。

日本インフラの実力診断

インフラ健康診断は、土木学会で取り組む「日本インフラの実力診断」の一角でもあります。「日本インフラの実力診断」は、日本がこれまで蓄積してきたインフラについて、1)体力、2)能力、3)健康状態の3つの観点で診断を行い、日本インフラの実力を評価して、その結果を世に問うことを通じ、以下を目指しています。

① 「インフラ概成論」から脱却
② 日本の技術への「過信」から脱却
③ 国民や政治家の正確な理解
④ インフラや国土に関する(賛否の)議論を促進
⑤ 国土やインフラに関わる政策へ反映

インフラ体力診断については、以下のマガジンでまとめております。あわせてご覧ください。


国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/