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社会と土木の100年ビジョン-第1章「社会と土木の100年ビジョン」の位置づけ

本noteは、土木学会創立100周年にあたって2014(平成26)年11月14日に公表した「社会と土木の100年ビジョン-あらゆる境界をひらき、持続可能な社会の礎を築く-」の本文を転載したものです。記述内容は公表時点の情報に基づくものとなっております。

1.1 「100周年事業」と「社会と土木の100年ビジョン」

土木学会は、2014年11月24日に創立100周年を迎える。この100年の間に、わが国をとりまく環境は大きく変化し、土木に求められる社会的な要請もまた大きく変化してきた。人口減少・少子高齢化、グローバル化、経済状況の悪化、地方の疲弊、社会インフラの維持管理の増大、多発する災害、資源・エネルギー問題、地球環境問題など、対応すべき課題が現在も数多く存在している。常に、長期的かつ大局的な展望を保ちながらも、時代の変化を敏感に捉え、さまざまな課題や社会からの要請に応え、公益の増進を図るための不断の努力を続けることは、土木の使命である。

また、個々の土木技術を進歩させることに加え、総合性を身につけ、市民のための工学の担い手として、人類の生存と営みおよび人類と自然の共生に貢献するという活動・精神は、土木学会創立以来不変のものである。

この節目のときに、100周年を迎えることを祝い、これまでの土木の歩みを振り返り、反省すべきことは反省し、主張すべきことは主張し、そして、土木界、土木学会、土木技術者が今後何をすべきかを考え、それらを宣言・実行する「100周年事業」を展開する。土木学会は、100周年事業の一つとして、土木学会将来ビジョン策定特別委員会を設け、土木技術者のあり方、役割を示す「社会と土木の100年ビジョン-あらゆる境界をひらき、持続可能な社会の礎を築く-」を策定する。

1.2 「社会と土木の100年ビジョン」策定の目的

土木事業の進展による経済の発展や利便性の向上と同時に、環境問題を始めとする様々な課題が顕在化してきたことは事実である。特に環境については、地球温暖化や気候変動といった地球規模の問題が懸念されている。また、2011年の東日本大震災を契機に、災害に対する備え、安全・安心な社会に対する国民の関心が増し、強靭な国土づくりとそれによる経済活動と生活の水準を将来にわたって維持することが、重要な課題となっている。他方で、人口減少・少子高齢化や近年の経済成長の低下を踏まえ、様々な機関が、わが国の厳しい将来の社会像を発表している。土木界が行ってきたこれまでの経験を踏まえ、上述の課題解決に向けて、さらには持続可能であり、次世代が夢と希望を持つことができる社会の構築に向けて、今まさに我々がすべきことを考え、それらを活動に移すことによって、将来の社会をより良いものに変えていくことは、土木界、土木学会、土木技術者の使命である。
本ビジョンの策定の目的は、その使命を果たす一つの契機とするものである。以下に、主な目的を「社会」と「土木」の2つに対象を大別して記す。
「社会」に対しては、主に以下の3 点である。

  1. 土木がこれまでに社会に貢献してきたこと、築き上げていこうとする将来の社会像、そして、これから取り組もうとする貢献に対する、市民への理解、共感を促進すること。

  2. 日本の政策責任者と土木関係者に提言し、社会、土木の発展のきっかけをつくること。

  3. 日本国内に留まらず、アジア、世界に対して、次なる行動を起こすための提言をするとともに、土木の発展のきっかけをつくること。

「土木」に対しては、主に以下の3点である。

  1. 今後の土木技術者のあり方、役割の示し、また、その共有化をすること。

  2. 土木技術者の気持ちを喚起し、方向付け、行動を促す契機とすること。特に、次世代を担う若手土木技術者のやる気を高めること。

  3. 土木技術者個々人に留まらず、組織が行動を起こす契機とすること。

1.3 「社会と土木の100年ビジョン」の性格および対象年次

本ビジョンは、1800年代の後半から今日までを振り返り、そして次の100年に向けて、日本、アジア、世界の未来に貢献する土木の姿と、そこで活動する土木技術者のあり方、役割をとりまとめたものである。土木界、土木学会、土木技術者が、100年先の目指すべき社会像を見据え、50年先の目標、25年先の具体的な目標を達成するために、今から行動すべき事柄を示したものと位置付けている。

なお、100周年事業として全国大会において開催された「100周年記念討論会」と各支部で行われた「若手技術者交流サロン」の結果を反映することや、パブリックコメントを実施する等して、本ビジョンには、特別委員会の構成員だけでなく、若手技術者を含む、多くの方の意見を取り入れている。また、本ビジョンを要約した「土木学会創立100周年宣言」を創立100周年記念式典において発表する。

1.4 「社会と土木の100年ビジョン」の構成

本ビジョンは、全6章から構成されている。以下に各章の概要を示す。

第1章では、本ビジョン策定の目的、性格等を通して、その位置づけを明らかにする。

第2章では、1800年代の後半から今日までを、史実に基づいて振り返る。そして、わが国の近代土木技術は、明治初期に御雇外国人の指導と欧米への留学から帰った人々の先導により幕を開け、治水、砂防、港湾、鉄道を中心に発展したこと、それらの社会基盤施設が、今日のわが国の産業と国民の生活を支え、特に高度な土木技術による高水準の社会基盤施設が全国に広がったこと、そして、より多くの国民が恩恵を受けることができるようになったこと等を述べる。

第3章では、各種機関が予想した将来ビジョン等の既存資料を基にし、また現状の課題を踏まえ、日本の経済・社会や国土に関する未来および土木を取り巻く未来予想を整理する。これらの予想を踏まえた上で、土木が目標とする社会像を明らかにし、その社会の実現に向け土木が取り組む方向性を示す。

第4章では、第3章で示した土木が取り組む方向性を踏まえ、目標とする社会の実現のために、社会安全、環境、交通、エネルギー、水供給・水処理、景観、情報、食糧、国土利用・保全、まちづくり、国際、技術者教育、制度の各分野において、直ちに取り組む施策と長期的に取り組む施策を示す。

第5章では、次の100年に向けた土木技術者の役割を示す。これまでもこれからも変わらないもの、時代変化によって対応すべきものを整理し、土木技術者が有すべき精神、能力、行うべき活動を述べる。

第6章では、第3章および第4章で示した社会の実現に向け、第5章で示した人材の育成に向け、土木学会が今後行うべき活動を述べ、その実行を宣言する。


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目次

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国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/