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インフラの「健康診断」

土木学会事務局です。

突然ですがみなさん、「健康診断」は毎年受けられていますか?
結果の数字を見て、一喜一憂されたりすることもあるのではないでしょうか?

私たちが受けている「健康診断」とは、「診察および各種の検査により健康状態を定期的に評価することで、健康の維持や疾患の予防・早期発見に役立てるもの」(Wikipedia)です。一定の方法で定期的に検査をすることで、健康状態の変化を知ることができます。健康な生活を続けるためには「健康診断」で体の状態を知ることはとても大事ですね。

で。

土木の分野が営々と造ってきた、人間社会や都市機能を支える社会資本(インフラストラクチャー、インフラ)も、人の体と同じように、その機能を発揮するためには、健全さを保つこと、すなわち健康な状態であることが必要です。

海外ではインフラの状態を評価する取り組みが行われており、アメリカではASCEが「INFRASTRUCTURE REPORTCARD」というインフラの状態とパフォーマンスを評価する取り組みを実施しています。

土木学会では以前からもインフラの維持管理・更新に関する調査研究などを行っていましたが、インフラの状態を評価し、その状況を判りやすく一般の方にお伝えするため、ASCEなどの取り組みを参考として、日本のインフラの状態を評価する「インフラ健康診断」という取り組みを行っています。

2016年に道路部門(橋梁・トンネル・舗装)の診断結果を公表したのを皮切りに、河川部門、下水道部門、港湾部門、水道部門、鉄道部門のインフラ健康診断を実施し、2020年度には、これまで実施した部門を最新データに基づいて評価した結果をとりまとめて、「2020インフラ健康診断書」として公表しました。今回の記事ではその概要をご紹介します。

健康診断結果

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インフラの「健康診断」は、人の健康と同様、「現在の状態(=健康度)」「維持あるいは回復するための日常の行動(=維持管理体制)」の二点を基本として評価を行っています。「健康度」は「インフラの現在の健康状態」を表し、「維持管理体制」が現在の取り組みがこのまま進んだときの「インフラの将来の健康状態」を表しており、健康度はA~Eの5段階のランクで、維持管理体制は3種類の矢印の向きで、結果を評価しています。

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2020年時点での各部門の「健康度」「維持管理体制」は次のように診断されました。

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施設の健康度は、B(良好)〜D(要警戒)と各部門・施設で異なりますが、施設の維持管理体制は健康度によらず下向き矢印の「悪化見込み」の施設が多くありました。この評価は、現状の平均的なインフラの状態は、少なくない数の施設で劣化・変状が進行していますが、全体的な老朽化が生じるには至っていない状態です。ただし、今のままの維持管理体制では、健康状態の改善はもちろん維持も難しく、老朽化が進んでいく状態との評価です。

多くのインフラで、早急に現在の維持管理体制を見直し、老朽化の進展を止めるとともに、健康状態を向上させるような新たな仕組みを構築する必要があります。

診断評価は、施設の点検・検査結果や維持管理体制の情報を、公表データや調査により収集し、土木学会独自に指標化することで行っています。
各部門の結果については、それぞれの部門・部門内の施設に求められる機能や評価項目・基準などが異なりますので、総合的な健康状態の善し悪しを部門間で直接比較できないことにご注意下さい。

インフラの健康状態を改善するための処方箋

また今回のインフラ健康診断書では、「インフラの健康状態を改善するための処方箋」も取りまとめています。

処方箋は、インフラ施設の管理者・民間企業・学協会・教育研究機関など、関連する組織が個々に、あるいは協力して「維持管理を行う体制と予算」「適切かつ効果的な点検・診断・対策の実施」「有効・効率的な維持管理技術の開発」などを行うこととして、具体的にあげられた項目は多岐にわたりますが、

インフラ健康診断と処方箋の詳しい内容は、報告書でご確認ください。

インフラの健康状態と処方箋に関する講習会

また2020年度のインフラ健康診断書の公表時に、その内容を解説した「インフラの健康状態と処方箋に関する講習会」を開催しました。以下リンクからアーカイブを視聴できますので、ご興味ご関心頂けたらご覧下さい。

部門別健康診断書

各部門の健康診断書の記事も、随時掲載していきます。

道路部門(トンネル)
道路部門(路面(舗装))
鉄道部門
港湾部門
河川部門
水道部門
下水道部門

他分野での健康診断の取り組み

土木学会では、インフラ健康診断の社会的な必要性・重要性を鑑み、土木分野以外のインフラについても健康診断の取り組みの連携を関係学会に申し入れています。これを受け、2020年8月に、農業農村工学会が「農業水利施設部門」の試行版を公開されました。

関連情報(ドボ博・インフラ解剖)

また土木学会が公開しているオンライン博物館「ドボ博」では、東京のインフラを人体になぞらえた「東京インフラ解剖」「中部インフラ解剖」「四国インフラ解剖」を公開しています。こちらもぜひご覧下さい。


国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/