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建設コンサルタント業界における人材育成についての私見

中野信悟
論説委員
パシフィックコンサルタンツ株式会社


私ごとですが、土木業界に身をおき25年を目前にしている。あらためて、土木は、国や地域の未来を多くの関係者とともに創っていくやりがいのある魅力的な業界であると感じている。

昨今、コロナ禍やウクライナ侵攻等を受けて、経済の不透明感が高まっているにも関わらず、私が所属する建設コンサルタント業界は幸いにも業績が好調である。海外インフラ関連プロジェクトの売上は減少したが、国内官公庁需要が好調の主要因となっている。海外についても渡航制限の緩和など、コロナ禍の克服に応じて確実に市場が回復することが見込まれるため、業界の未来は明るいと考えている。

このため、この数年、業界をあげて人材獲得競争が激化しており、私が所属する会社においても求人に苦労しているところである。

特に、2009年以降の公共事業の縮小がなされた時期に新卒採用を抑制した企業が多く、現在、経験がモノを言う土木技術者にとって一人前と言える10年選手(30代技術者)の不足が顕著である。

さらに、業界のなかでも私の専門分野である都市・地域開発分野においては、基礎技術としての都市計画や都市基盤施設の設計技術の習得に加え、ESG投資やカーボンニュートラル、スマートシティやグリーンインフラなど、時代の要請に適合したまちづくりノウハウの研鑽が必要であり、一人前の技術者となるための必要な経験時間は拡大の一途である。

このようななか、長時間労働などのブラックな環境を排除しつつ、若手を少しでも早く一人前の技術者になってもらうこと、定年後のシニア技術者には若手の育成と技術者としての最前線での活躍を継続いただくことが、大きな課題と感じている。これには、コロナ禍で浸透したリモートワークなどITを駆使した“新しい働き方”を取り入れることが不可欠となっており、業界において人材育成・働き方を喫緊に改革していく必要が生じていると感じている。

以下に、建設コンサルタント企業に属する私の目から見た技術者の育成について、考えを少し述べたい。

好調な市場に対する若手の早期育成が企業課題とはいえ、近年求められる土木技術、特に都市・地域開発分野の市場では、複合分野による解決が必要で、それを担う人材には、プロジェクト達成によるその地域の将来ビジョンを示しつつ、必要な専門技術や土木分野以外の技術・人材をコーディネートする能力が強く求められているように感じる。

このような技術者の育成には、早期に専門技術を固定化し、OJTで習得させ企業や組織の利益確保に貢献させる早期育成法では、長期的に見て問題があるのではと感じている。

早期育成に対して、例えば、新人から3年間は、専門技術を固定せず幅広い経験を積み、その上で、4年目以降、専門とする領域やめざすべき技術者像を選択した上で、技術者の希望に応じた技術分野の選択や異分野も含めた技術習得段階を設定し、成長を促すプロセスが有効ではないかと考えている。

さらに、このような育成は、企業間で人材交流を積極的に図るなど、業界全体で未来の技術者を育てていくことが必要ではと考える。

一見、遠回りのようであるが、近い将来70歳まで活躍する社会を眼前にひかえ、若手時代の少しの遠回りは大した問題とは言えない。技術者に必須の視野と好奇心の拡大、技術者自身のキャリアへの納得を経ることが企業を超えて業界発展につながるものと考える。

もちろん、人材育成には型にはまった方法などはなく、究極は技術者個々人の志向や素質によって違うことは自明であるが、一人前となる過程において、異なる専門分野を含め、多様な社会課題に接することが土木技術者として重要なことは強く主張したい。

冒頭で課題とふれた急激に増加する経験豊かなシニア技術者の活躍についても、企業を超えた人材交流が鍵で、若手技術者の指導など、業界をあげて活躍できる環境づくりが必要ではないかと考える。

近年、転職支援ビジネスが活発化し、企業にとっては苦労することもあるが、業界全体として見ると、技術者の多様な成長・活躍の機会創出につながる流動化は歓迎すべきことと思う。

最後に、特に、土木分野を目指す学生や若手技術者の方には、社会の変化とともに成長を実感できる建設コンサルタント業界に期待をもってぜひ参画いただきたい。社会貢献と自らの生きがいづくりにつながり、充実した人生となることを約束します。

土木学会 第181回 論説・オピニオン(2022年6月版)



国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/