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スマートインフラマネジメントで未来を切り拓こう!

久田 真
依頼論説
インフラメンテナンス総合委員会・副委員長
/コンクリート委員会・常任委員
東北大学大学院工学研究科・教授

2024年は、1月1日に発生した能登地震による悲惨な災害の発生で幕を開けました。今般の地震で被害に遭われた皆様におかれましては、心よりお見舞い申し上げます。

当日、筆者宅に配達された某紙の新年特集では「日本反転」という特集が組まれていました。この特集では、経済力を示す1人あたりの名目GDP(国内総生産)が、2000年の段階では世界2位だったものの、2022年には主要7カ国(G7)のうちで最下位、世界では32位にまで落ち込み、1980~90年代のバブル経済が崩壊してから伸び悩んだ日本経済の今後の道筋をどう反転させるか、を論じたものです。

いわゆる「失われた30年」から、どのように脱却するかを論じたこの特集では、2024年は日本が停滞から抜け出す好機であると記していました。また、2024年は、昭和の元号のままであれば99年だそうで、日本を世界第2位の経済大国に成長させた昭和のシステムは、99年目となると時代に合わなくなり、日本を「古き良き」から解き放ち、作り変え、経済の若返りに向け反転することを期しています。この特集では、ズバリ「(年功序列や下積みなどの)昭和の慣習が邪魔だ」「『昭和』をやめ、若い力を引きだそう」とまで言い切ってありました。

さらに、1月1日の同紙に掲載された某企業の広告コピーは「失われた30年じゃない。天才たちが生まれた30年だ。」というものでした。これは間違いなく、大谷翔平選手や羽生結弦選手(いずれも1994年生)、ONE PIECE(1997年連載スタート)の主人公などに代表される「若い力」のことだと思います。

危なっかしい、頼りない、本当に大丈夫か?などなど、前の世代の先輩方から新しい世代に対して不安や心配のコメントが発せられるのは、世の常ではないかと思います。かくいう筆者も、危なっかしい、頼りない、本当に大丈夫か?と先達の皆様に思われながら、2023年4月からスタートした第3期の内閣府・戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)という国家プロジェクトに関わらせて頂いているのかもしれません。

さて、現在の我が国の科学技術イノベーション政策では、実現すべき未来社会としてSociety 5.0を目標としています。

画像出典:内閣府HP

Society 5.0とは、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)のことで、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画(2016~2020年度)において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱されました。

2023年からスタートしたSIP第3期でも、Society 5.0の実現を目指して14の領域が選定され、土木工学に密接に関連する「スマートインフラマネジメントシステムの構築」がこれらの一つとして選定されました。

このプロジェクトでは、担い手不足の解消や生産性の飛躍的向上、インフラの老朽化・強靭化への対応、国際競争力の確保などといった、これまでの建設分野が抱えてきた諸課題を解決するために、デジタルデータにより設計から施工、点検、補修まで一体的な管理を行い、持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくりを推進するシステムを構築することを全体のミッションとしています。このミッションを遂行するために、「建設技術のスマート化」をはじめ、他分野のニーズに応え得る「インフラのスマート化」と、スマート化されたインフラの集合体である「未来のまち(スマートシティ)」の3つを構造化し、Society 5.0の実現を目指す計画としています。

出典:土木研究所SIP HP

すなわち、スマートインフラマネジメントとは、建設技術自体がスマート化するだけでなく、アウトプットとしてのインフラがスマート化することで、様々な利用者の暮らしを豊かにし、誰一人取り残さないwell-beingな社会を実現し得るマネジメント手法を構築しようと考えています。また、インフラのスマート化というプロセスで展開される様々な取組みが、今までになかった仕事や暮らしなどの新しい価値を生み出し、未来社会に相応しい地域づくりや地方の創生に繋がり、我が国が反転するための大きな原動力になることを期待しています。

スマートインフラマネジメントで日本の未来をどうやって切り拓いていくか、是非、一緒に考えてみませんか?

第203回 論説・オピニオン(2024年4月)



国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/