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2020インフラ健康診断書(道路部門・橋梁)

土木学会事務局です。

土木学会では2016年度より、「インフラ健康診断」の取り組みを行っています。これは、土木学会が第三者機関として、橋やトンネル、上下水道などの社会インフラの健康診断を行い、その結果を公表し、解説することにより、社会インフラの現状を広く国民の皆さまにご理解いただき、社会インフラの維持管理・更新の重要性や課題を認識してもらうことを目的としています。

今回は2020年度の健康診断結果から、「道路部門(橋梁)」の健康診断結果と健康状態の維持向上のための処方箋をご紹介いたします。

診断結果は、健康度(現在の状態)がC(要注意)で、維持管理体制(維持あるいは回復するための日常の行動)が、下向き(現状の管理体制が改善されない限り、健康状態が悪くなる可能性がある状況)とされました。

以下で、「道路部門(橋梁)」の健康診断結果を解説いたします。

橋梁の特徴

わが国の道路延長は約121万kmで、約72万3千の道路橋(2m以上)があります。そのうち約66%の約47万4千橋が市区町村管理です。建設後50年を経過した橋の割合は、2019年は27%でしたが、約10年後の2029年では52%まで増加していき、道路橋の高齢化は今後急激に進みます。また、古い橋などで記録が確認できない建設年度不明な橋は全体の約3割の23万橋あります。そのうち約80%が市区町村管理の長さ15m以下の橋で、日常生活に密着した橋ほど高齢化が進んでいきます。

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一方、都市地域では利用交通量は建設当時の予想をはるかに上回っています。58年前(1962年)に最初の路線が開通した首都高速道路では約100万台、56年前(1964年)に最初の路線が開通した阪神高速道路では約75万台の車が現在一日で通行しています。橋の高齢化とともに、交通量の増加などによる橋の負担が増加している状況です。

現状の健康状態

全国の橋の健康状態は、少なくない数の橋で劣化が進行している状況と判断でき、経年劣化による老朽化が進行することが予想されます。2014年から5年を1サイクルとした橋の点検がはじまり、2019年3月までに全国のほぼ全ての橋の1回目の点検が終了しました。個々の橋の健全性は、健全、予防保全段階、早期措置段階、緊急措置段階の4段階で評価されていますが、早期に措置を講ずべき状態である早期措置段階は全国で約6万8千橋、緊急に措置を講ずべき状態である緊急措置段階は682橋ありました。このうち、市区町村管理の橋は、早期措置段階で約4万2千橋、緊急措置段階で647橋ありました。緊急措置段階は、「構造物の機能に支障が生じている、又は生じる可能性が著しく高く、緊急に措置を講ずべき状態」と判断されたものです。

全国の橋の健康度は、生活に密着した身近な橋である都道府県・政令指定都市・市区町村管理の道路、および日本の物流などの経済活動や救急医療や災害時などに命の道の役割を果たす都市間高速道路が、国や都市内高速道路よりも健康度が悪い診断結果となりました。平均的な評価は5段階でCですが、先に述べたように生活に密着した身近な橋に、リスクが顕在化して緊急措置が必要とされる橋が集中していることに注意が必要です。

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維持管理体制

各管理者では橋の長寿命化修繕計画(個別施設計画)を策定し、計画的に点検、診断、措置、記録を行うメンテナンスサイクルの構築が行われています。国・高速道路会社は全ての橋で計画が策定されていますが、都道府県・政令指定都市では89%、市区町村は80% に策定率がとどまります。また、都道府県・政令指定都市・市区町村で計画を公表までしている管理者は68% であり、そのうち修繕費用を示した計画は44% にとどまります。全ての管理者で長寿命化修繕計画を早急に策定し、メンテナンスサイクルを適切に実行することが求められます。メンテナンスサイクルの中で、点検は制度化されほぼ全ての橋で実施されましたが、今後は健康度を維持・向上させるための措置の実施が重要になります。

橋の措置に対応する修繕率は、早期に措置を講ずべきと判断された早期措置段階の橋への着手は国管理以外では遅れており、修繕に速やかに着手する必要があります。特に、注意すべき点は緊急措置が必要と判定されながら対応方法が未定な橋が市区町村管理で20% あることです。また、予防保全の観点から措置が望ましい橋の着手は、国管理では増加傾向にありますが、その他の管理者ではほとんど行われていません。国管理以外も早期に措置を講ずべき橋の修繕を速やかに行うとともに、予防保全の観点での措置を積極的に行うことが望まれます。措置が適切に行われなければ、橋の健康状態が今後改善に向かうことは困難になることから、維持管理体制は下向き矢印の評価になりました。

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地域の状況

橋の健康度や維持管理体制は、都道府県・政令指定都市・市区町村と身近になるほど低い評価結果となりました。下図は、都道府県・政令指定都市管理、市区町村管理の橋の健康度の指標のうち損傷度が、全国平均を上回る地域と下回る地域を都道府県ごとに色分けしたものです。

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橋は、コンクリート製、鋼製などの材料、アーチ橋、トラス橋、桁橋、吊り橋など構造形式、桁などの上部構造、橋脚などの下部構造、桁や橋の境にある支承や伸縮継手などの部位、などを組み合わせたさまざまなタイプのものがあり、劣化の仕方もこれらの特徴の組合わせによってさまざまです。また橋の健康度は、橋がおかれている環境条件や交通量などの橋に負荷を与える作用や、管理者がどのような管理体制で行っていくかという作用に対する抵抗力の維持や向上方法で変わっていきます。

道路は災害時も含めネットワークとしてその機能を最大に発揮しますので、管理者ごとではなくネットワークの中でその健康度を保つことが重要です。各管理者は、ネットワークの維持を意識して、個々の管理する橋の健康度を良好に保つことが望まれます。

橋の健康度の維持・向上のための処方箋

道路管理者は緊急・早期に措置を講ずべきと判定された橋の修繕に速やかに着手する。また措置すべき箇所のみではなく、その周辺の予防保全が必要な箇所も同時に修繕を行い、予防保全的な措置も併せて進めていく。

道路管理者は、橋の構造形式や部位の多様性を理解し、橋の健全度と重要度、さらには施設管理者の財政・技術力などに応じたメンテナンス技術を適材適所に導入する。

道路管理者は、中期的・継続的に橋梁の維持管理を行い健康度を保つため、現在は不足している維持管理予算の確保を行う必要がある。

住民は、身近な橋の維持管理・更新工事や美化・清掃、点検・通報への協力により、税金の支出などの経済負担を減らしながら、地方自治体が行う日常的な維持管理のサポートを行う。

地方自治体は、住民参加のメンテナンスが実施されやすい方策を考え、導入する。

道路管理者は、各地域の自治体やメンテナンス会議の範囲を超えて、橋の健全度判定を実施する点検・評価技術者同士の情報交換を促進し,診断結果の差を小さくする。

構造形式や部位の多様性、劣化種類の多さなどから、橋の点検結果は、点検技術者の能力に依存する。点検の見落としやばらつきを減らすために点検技術者全体の技量の向上が望まれる。土木学会は、学協会や大学などとの連携を図り、点検技術者の能力向上の取組を行う。

健康診断書の解説動画

土木学会では2020年6月16日にインフラ健康診断書の結果を受けて講習会を開催しました。道路部門(橋梁)の診断結果の解説動画(約14分)を以下でご覧頂けますので、あわせてご覧下さい。

インフラメンテナンス総合委員会

現在土木学会では、インフラメンテナンスを力強くなおかつ恒常的に位置づけるため、既存の関連委員会を発展的に統合し、会長を委員長とする「インフラメンテナンス総合委員会」を2020年度から常設し、活動を推進しています。活動予定など、最新情報は以下のサイトでご確認ください。



国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/