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土は資源であることの情報発信に向けて

髙野 昇
依頼論説
(一社)全国建設発生土リサイクル協会


2021年7月静岡県熱海市で発生した大規模土石流災害により「残土処理」問題が社会の注目をあびることになりました。熱海市土石流災害で被害に遭われた方々に対し心よりお悔やみ申し上げるとともに、一刻も早い復興をお祈りいたします。「残土処理」問題が注目をあびるのは過去にも数度ありましたが、多数の人命が失われた熱海市土石流災害での「残土処理」問題への社会の反応は当然ながら過去とは比較になりません。「残土は悪者」、「残土を廃棄物と同じように扱うべき」といった趣旨のマスコミ報道に、これまでの「建設発生土リサイクル」への取組みのPR不足を強く感じたものです。

建設工事から発生する土砂をいつ頃から「残土」と称したかは定かではありませんが、「資源有効利用促進法」に基づく建設省令(1991年)において、『建設工事に伴い副次的に得られた土砂を「建設発生土」という』と定義されました。これ以降、建設省・国交省、東京都をはじめとする多くの地方自治体及び建設業界等は、「建設発生土リサイクル」の課題である「土工期」「土質」「工事場所」「需要と供給」のミスマッチ解消に取り組んできました。具体的には、「土工期」「土質」を調整するストックヤード、土質改良プラント整備、「工事場所」「需要と供給」ミスマッチを解決するため、経済性にかかわらず50km圏内での工事間利用を原則とした「リサイクル原則化ルール」制定、「建設発生土情報交換システム」「建設発生土の官民有効利用マッチングシステム」開発等を実施してきました。その結果、国交省の調査結果によれば、建設発生土有効利用率(現場で発生した量のうち有効利用された率)は2008年度71.7%から2018年度79.8%と向上しており、「建設発生土リサイクル」が進んでいるといえます。ただ、建設発生土発生量は2018年度2.9億㎥、そのうち有効利用できない量(内陸受入地への搬出量)が5,870万㎥、東京ドーム(124万㎥)47杯分と膨大となっており、その一部が不適正に処理されていると筆者は考えています。一部の不適正処理を捉えてマスコミは「建設発生土」全体を「悪者」扱いしているというのが筆者の意見です。

建設発生土搬出及び土砂利用状況
出典:平成30年度建設副産物実態調査結果 参考資料

建設発生土リサイクルは進んでいるものの依然として一部に不適正処理がある実態、さらに、熱海市土石流災害を踏まえて、国交省は危険な盛土等を全国一律の基準で包括的に規制するため、2022年5月「盛土規制法」を制定するとともに、主に民間工事における建設発生土利用促進・不適正処理防止のため2022年9月「資源有効利用促進法」省令、政令を改正し、建設発生土の計画制度を強化しました。

熱海市土石流災害後、マスコミ数社から取材を受けた際、「建設発生土リサイクル」への取組みを是非報道してほしいとリクエストし、世界的に類をみない施設である「東京都建設発生土再利用センター」を取材していただきました。まだ実現していないのは誠に残念ですが、次回の報道の際は「建設発生土リサイクル」が進んでいることを紹介するとのことでした。あらゆる機会を捉えて、「建設発生土リサイクル」への取組みをマスコミ、国民へPRしていかなければならないとの思いを強くしています。

「残土」の名前からイメージするのは、「残りもの」「やっかいもの」と思いますが、「土」が地盤を構成する重要な要素であり、資材、資源であることは疑いようがありません。内閣府「盛土による災害の防止に関する検討会提言」においても「建設工事から発生する土のうち、廃棄物が混じっていないもの(廃棄物と分別後のものも含む。)は、水などと同様のどこにでもある自然由来のものであり、生活環境の保全上の支障を生じかねない廃棄物とは異なり、それ自体が生活環境の保全や公衆衛生上の支障を生じるものではなく、崩落等の安全性に配慮して、適切に活用あるいは自然に還していくべきものである」としています。

(一社)全国建設発生土リサイクル協会(JASRA)は、熱海市土石流災害の3か月前、2021年4月に設立された、資源である「土」をリサイクルする、あるいは「土」に関係する業界団体の全国組織です。「質を重視した魅力ある建設発生土リサイクル業界の確立」を目指して2022年9月に策定した2050年までの長期ビジョン「JASRA VISION2050」では、「建設発生土の貴重な資源としての理解・認識の醸成に努める」ことを活動目標の1つとし「あらゆる機会を捉えた建設発生土リサイクル、JASRAのPR」等を具体的取組みとしています。日夜「土」と接し、「土」を資源としてリサイクルする重要性を認識している土木技術者そして土木学会にもご協力いただき、「土」は資材、資源であることを社会に向けて情報発信していきたいと思っています。

土木学会 第186回論説・オピニオン(2022年11月)



国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/