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土木学会『論説・オピニオン』

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土木学会では、会員だけでなく広く一般社会に、土木に関わる多様な考え・判断を紹介し、議論を重ねる契機とすることを目的に、社会に対する土木技術者の責務として、社会基盤整備のあり方・重… もっと読む
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#カーボンニュートラル

社会インフラとしての「スマートエネルギーマネジメントシステム」の構築に向けて

浅野 浩志 依頼論説 東海国立大学機構 岐阜大学特任教授 内閣府プログラムディレクター 経年火力の休廃止等による電力需給のひっ迫や地政学的に不安定な国際情勢による燃料価格の高騰も踏まえ、リスクを分散するためにも既存の大規模エネルギーインフラを補完する形で、効率的かつ強靭な地域分散型のエネルギーインフラを導入することが望ましい。変動する再生可能エネルギーの出力を含むエネルギーの需給を予測・制御できるデジタル技術や水素・アンモニア等の新たなエネルギーキャリアの安全な利用等、技術

カーボンニュートラルに向けて鉄道の果たす役割と施策

今井 政人 論説委員 北海道旅客鉄道(株) 我が国において2050年カーボンニュートラル宣言(2020年)や地球温暖化対策計画(2021年改定)等を契機に各部門でカーボンニュートラルに向けた取組みが加速しています。同計画では各部門で温室効果ガスの排出削減目標が掲げられ、運輸部門では2030年までに2013年度比35%削減という従来より高い目標が掲げられています。また、運輸部門におけるCO2排出量は、我が国全体の排出量の約2割を占め、その排出削減はカーボンニュートラル達成のた

カーボンニュートラルの加速と生物多様性の保全

中山 恵介 論説委員 神戸大学 2050年カーボンニュートラルの達成に向けて待ったなしの状況であり、技術革新などによる温室効果ガスの排出量の削減、およびネガティブ・エミッション技術の開発が喫緊の課題である。カーボンニュートラル達成のためには、前者のエネルギー産業における構造転換、およびイノベーションの創出による温室効果ガスの排出量の削減だけでは達成が不可能であり、後者のCarbon dioxide Capture and Storage(CCS)やCarbon dioxid

カーボンニュートラル社会の実現に向けたコンクリート工学の挑戦

石田哲也 論説委員 東京大学大学院工学系研究科 カーボンニュートラル社会の実現に向け、世界中でCO2削減に向けた動きが活発だ。CO2排出量の大きいセメント・コンクリート産業への風当たりも厳しい。水と硬化する性質を持つセメントは、原料の石灰石(炭酸カルシウム)からCO2を離脱させるプロセスにより生まれる。セメント製造の際、原理的にCO2は必ず排出される。 コンクリートの低炭素化を図る従来の定番技術は、セメントの一部を高炉スラグ微粉末やフライアッシュなどの混和材で置換するもの

環境に配慮した気候変動の新たな緩和策に向けて

中山 恵介 論説委員 神戸大学 気候変動に起因すると推測される豪雨、豪雪などに伴う自然災害が多発している。その結果、防災への意識が高まっており、土木工学に関わる多くの研究者および実務者がその対応、特に適応策の提案・実施に取り組んでいる。近年の頻発する洪水氾濫、高潮および津波被害等に対して、このような適応策の提案および実施は疑いようのない大切な取り組みである。一方で、このように防災強化および災害適応への関心が高まっている中、土木工学に関わる者として、たとえ効果が現れるまでに時

2050年に向けて、長持ちする土木構造物を建設する意義を考える

岩城 一郎 論説委員 日本大学 教授 総務省によると、2050年におけるわが国の人口は1億人にまで減少するとされている。労働生産人口は約5000万人となり、65歳以上の高齢者人口は4000万人近くに上るとのことである。また、地震調査研究推進本部地震調査委員会では、南海トラフ地震について、30年以内の発生確率が70~80%、首都直下型地震について、30年以内の発生確率が70%程度(いずれも2020年1月24日時点)と予測している。 さらに、2020年10月に菅義偉元総理大臣