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土木学会『論説・オピニオン』

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土木学会では、会員だけでなく広く一般社会に、土木に関わる多様な考え・判断を紹介し、議論を重ねる契機とすることを目的に、社会に対する土木技術者の責務として、社会基盤整備のあり方・重…
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着実なインフラ整備・大阪港夢洲の場合

徳平隆之 論説委員 阪神国際港湾株式会社 大阪・関西では2025年の日本国際博覧会(大阪・関西万博)やその後の地域開発を見据えたインフラ整備が本格化しており、今年度中には、万博用地の埋立・盛土が終了し、来年からはいよいよ万博関連工事が始まります。さらに、増大する自動車交通に対応するための夢舞大橋の6車線化拡幅工事も今年度に完了するとともに、大阪メトロ中央線の延伸となる臨港鉄道・北港テクノポート線の工事なども本格化しています。 また、これら夢洲周辺の開発に加え、関西広域での

究極の危機管理と流域治水

山田 正 論説委員会委員長 中央大学 わたしはこのコロナ渦と言われる1年半、テレビ、新聞等の従来型メディア(以降、メディアという)を通じた情報ではなく、インターネットを介して専門家が配信する各種のブログやYouTube等から新型コロナの情報を得るようにしてきました。なぜなら、日本の多くのメディアから発信される情報はデータサイエンスとしてあまりにも稚拙であると感じているからです。そして、人の生死に関わる情報でありながらメディアによる扇情的な情報操作に繋がっているのではないかと

人口減少下における留学生教育と高度外国人材の育成

佐々木 淳 論説委員 東京大学 教授 研究コミュニティでの若手の減少がしばしば話題となり、実感を伴った重要な課題と認識されている。国立社会保障・人口問題研究所による2017年の将来推計人口(出生率1.44の出生中位仮定)では、約30年後の2053年に9924万人、2065年に8808万人となり、2021年の人口1億2555万人からそれぞれ21%および30%が減少する。就業人口(15歳から64歳の人口)は2053年に5119万人(出生数63万人)、2065年に4529万人(出

土木の魅力を伝えたい

椛木 洋子 論説委員 株式会社エイト日本技術開発 昨年の年明け早々に始まったコロナ禍は、1年半が過ぎ、ようやくワクチン接種が本格化してきたが、社会生活は以前の状態には程遠く、相変わらずの「不要不急の活動自粛」で閉塞感が漂っている。土木業界が、若者に人気がなく、大学も企業も敬遠されている状況も相変わらずで、せっかく就職したとしても、なかなか定着せず、早期に離職する人が増えていると聞く。さらに直接の人との交流が制限された状況では、個々に様々な問題を抱えていても、相談相手もなく、

危機にあるレディーミクストコンクリートを考える

坂田 昇  論説委員会 委員 鹿島建設株式会社執行役員 土木管理本部土木技術部長 土木構造物の多くは、コンクリートで造られている。現在の土木学会には、29の調査研究委員会が存在するが、その中でコンクリート委員会は昭和3年に発足した委員会で、最も古く長い歴史を持つ組織である。また、すべての委員会の収益の約6割を占めている。このことからも、土木において、コンクリートが如何に大切なものであるかが窺える。そのコンクリートのほとんどが、レディーミクストコンクリート(以下、生コン)であ

リスク、安全率、そして予防的アプローチ

浅見 真理 論説委員 国立保健医療科学院 「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言」は、発出、解除が繰り返されているが、2011年3月11日に発出された原子力災害対策特措法の第15条に基づく「原子力緊急事態宣言」は10年以上解除されていない。この緊急事態宣言は、原子炉から溶融したデブリの処理が終わるまで、おそらく今後何十年か、解除できない。 筆者は2003~4年に厚生労働省で原子力総合防災訓練を担当していた。当時、原子力保安院の作成した訓練のシナリオは、より軽微な事故を対象