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土木学会『論説・オピニオン』

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土木学会では、会員だけでなく広く一般社会に、土木に関わる多様な考え・判断を紹介し、議論を重ねる契機とすることを目的に、社会に対する土木技術者の責務として、社会基盤整備のあり方・重…
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#流域治水

都市における賢い雨水管理へ

古米 弘明 論説委員長 中央大学研究開発機構 近年、豪雨による水災害が頻繁に発生しており、気候変動の影響による雨の激甚化・頻発化は明らかである。そのような背景のなか、令和3年に流域治水に関連する9つの法律が一体的に改正され、気候変動を踏まえながらハード・ソフト一体で、総合的かつ多層的に治水対策を進めるための法的枠組みが構築された。 流域治水プロジェクトが推進されているものの、人口や資産が集中した都市において、河川氾濫だけでなく内水による氾濫に対処するための都市浸水対策は単

流域治水とリスクの見える化

金尾 健司 論説委員 (独)水資源機構 流域治水関連法が2021年11月に全面施行された。 総合治水対策が世に出て約半世紀が経ち、ようやくという思いと同時に、これからの行く末が気になる。筆者は、1980年代にある地方自治体に勤務し、都市河川の総合治水対策を担当した。当時はバブル経済を迎える時期であり、その流域でも都市開発が盛んに行われ、流出増や浸水区域への資産集中に対して河川整備が追いつかず、そこに戦後最大規模の洪水が襲来し大水害となった。都市、農業などの関係部局に対して

流域治水が求める新しいガバナンス

多々納 裕一 論説委員 京都大学防災研究所・教授 流域治水関連法が2021年11月に全面施行され、河川においてもようやく洪水の損害を被る住民の視点に立った総合的取り組みがスタートしました。 私は、新しいタイプの「ガバナンス」が求められていると考えています。流域治水の英文名は、River Basin Disaster Resilience and Sustainability by Allとされています。みんなで河川流域を災害に対してレジリエントで持続可能なものにしていこう

究極の危機管理と流域治水

山田 正 論説委員会委員長 中央大学 わたしはこのコロナ渦と言われる1年半、テレビ、新聞等の従来型メディア(以降、メディアという)を通じた情報ではなく、インターネットを介して専門家が配信する各種のブログやYouTube等から新型コロナの情報を得るようにしてきました。なぜなら、日本の多くのメディアから発信される情報はデータサイエンスとしてあまりにも稚拙であると感じているからです。そして、人の生死に関わる情報でありながらメディアによる扇情的な情報操作に繋がっているのではないかと

わたしが考える土木工学の50年の歩み ~闇夜の河川の水位予報~

山田 正 論説委員会委員長 中央大学 わたしは令和3年1月で満70歳を迎えました。大学生になってから50年ほどの時間が過ぎたということになります。この50年間の土木工学の歩みを顧みると、この分野が我が国の経済発展や人々の安全・安心に暮らす国造りに果たした貢献には計り知れないものがあると思っています。この貢献を数量的に表すことはもちろん可能ではありますが、人々の暮らし方が大きく変貌したという生活目線で見れば、それこそ革命とも言えるような、或いは明治維新による国の模様替えとほぼ

流域治水に内包される「不利益配分問題」に土木の総合力を

藤田光一 論説委員 公益財団法人 河川財団 河川総合研究所 所長  近年、治水インフラの能力を超える豪雨が頻発し、気候変動影響がこの傾向を強めるとの懸念も増している。治水目標達成に向けインフラ整備を引き続き進めること、治水安全度(氾濫生起の可能性が抑えられる度合い)が気候変動影響により後退する局面に備え、それを加速・充実させていくことはもちろん、河川からの氾濫による被害が深刻にならないよう、「被害をマネジメントする」方策を合わせて拡充する必要性が高まっている。  おりしも