【松本 武尊】作業療法士×パラアスリート 「パラスポーツを盛り上げたい!」~パリで感じた新たな思い~
季美の森リハビリテーション病院で作業療法士として働く松本 武尊さん。
陸上競技のパラアスリートでもある彼が、本年8月から9月にかけて行われたパリパラリンピックに出場した。
東京パラリンピックへの初出場から4年。
社会人となった彼は、どんな進化を経て今年のパラリンピックに臨み、今大会から何を感じたのか、パリで見つけた今後への思いも聞いた。
Profile|プロフィール
松本 武尊(まつもと たける)
2001年8月25日生まれ 千葉県出身
高校2年生の時に脳卒中を患い、両手足にまひが残るが、リハビリ後にパラ陸上を始める。
2020年の東京大会でパラリンピックに初出場。
2024年のパリ大会では、男子400m T36とユニバーサルリレーに出場。
2024年4月から季美の森リハビリテーション病院にて作業療法士として勤務。
パリ2024パラリンピック 大会結果
・男子400m T36
4位(アジア新記録樹立/ 個人ベスト更新)
・ユニバーサルリレー
4位
出場したどちらの種目もメダル獲得とはいかなかったが、400mではアジア新記録を樹立。
個人ベストも更新した。
仕事があったから、試合で落ち込んでも切り替えられた。
-- 前回に続いて、2回目のインタビューですね。
自分の気持ちを言葉にするのは得意ですか?
そうですね。
インタビューに限らず、作業療法士の仕事でも、新卒1年目として何ができるかって言うと、まず患者さんとコミュニケーションを取ることだと思うので、どんなに凹んでいても、そこだけはちゃんとしようと思ってやっています。
でも、5月に神戸で行われた世界選手権では、暫定3位となっていたユニバーサルリレーが自分のせいで失格になり、そのことが競技直後のメディアインタビュー中に発覚したので、さすがにちゃんとインタビューに答えることができませんでした。
あの時は、かなり動揺したし、落ち込みました。
次の日には千葉に戻って仕事だったので、無理にでも笑顔を作って患者さんとコミュニケーションを取るというのは意識をして、逆にそのおかげで気持ちを切り替えて立ち直れたと感じています。
仕事をしていなかったら、クヨクヨ考えてしまって、立ち直るのにもっと時間がかかったと思うので。
レースプランに後悔はない。
-- パリパラリンピックを終えた今の率直な気持ちを教えてください。
楽しかった。
いろんな人から激励のメッセージも貰えて、職場に帰って来てからも「見てたよ!」って声をかけてもらえたり、感想をもらえたり、そういうコミュニケーションも含めて楽しめた大会でした。
-- 今回の結果や自分の走りについてはどのように感じていますか?
過去の記録を参考にメダル獲得を目指して、どういうペース配分で走るかっていうレースプランを事前に考えていたのですが、今大会では、銅メダルを獲った選手の記録も自分の記録もそれを越えるものとなり、全体としてみんながレベルを上げてきた大会だったと思います。
レースプランに後悔はないです。
-- 自分の思い描いていた走りはできたけど…ということですね。
はい。
だから、何がいけなかったかって言われるとすごく難しいです。
トレーニングの基盤があってこそ…
-- 5月に行われた神戸パラ陸上から、コンディションなど何か変化はありましたか?
季美の森整形外科で仕事終わりにトレーニングをしていて、そのトレーニングの成果が出てきていると感じます。
今回のレースプランもそのトレーニングが基盤としてあったからこそ立てられました。
-- 自分が苦手としていた部分の改善にも繋がっていますか?
肩甲骨周りとか、背面の筋肉を鍛えたからこそ、腕を振りやすくなったり、楽に走ることができました。
-- その部分の筋肉が足りていないというのは、もともと分かっていたのですか?
Inbodyで計測をして、そこを強化したほうがいいということを知りました。
毎月、計測をしているのですが、どこの筋肉がどれくらい減っているとか、左右のバランスを見たり、ここの筋肉は前の月より増えているからこの調子でやっていこうとか、どこをもっと鍛えればよいかの調整もできて、変化が目で見えるからトレーニングのモチベーションにもなっています。
-- 脳出血を経験したことで体の左右のバランスが変わったりはしたのでしょうか?
筋肉自体のバランスは変わっていないと思いますが、自分が感じる体の使いやすさやバランス能力は落ちました。
今は、トレーニングを見てもらうことで、だいぶ、前よりもできることが増えたかなって。
その分、クラス分けに影響が出てこないか、心配な部分はありますが…(笑)
トレーニングについてもらったり、月1回、体を診てもらえているっていうことが、今回、アジア新記録・個人ベストを更新できたカギでもあるかなと思います。
緊張することは、良いことだと思っている。
-- 今回のパラリンピックで見つかった課題はありますか?
走りの面では、メダルには手が届かなかったですが、レースプラン通りに走れて、自分としては悔いのない走りができました。
-- パラリンピックやオリンピックの舞台は、独特の空気があると聞きますが、他の大会との違いは感じますか?
自分は大きくは感じないですが、あるとしたら競技場が大きいということと、人が多いということですね。
やっぱり、会場が大きかったり、人が多かったりすると緊張感は高まるので。
でも、自分は緊張することが良いことだと思っているので、あまり緊張に対して怖い思いはないかな。
アドレナリンが出る感覚というか、緊張している方が体が軽くなって、力が発揮できる感覚があります。
-- 大会前は壮行会も行われて、法人職員から寄せ書きのプレゼントもありましたね。
選手村の部屋に飾りましたよ!
壁に貼ったら、剥がす時に壁も一緒に剥がれそうで、貼るところがなくて困りましたが、どうしても飾りたくて工夫して貼りました(笑)
全部、読んで「こういう人がこういうこと言ってくれてるなあ」って、だいぶ嬉しかったです。
パラスポーツを次の世代に繋いでいきたい。
-- 社会人になって半年が経ちますが、社会人としては、何か壁は感じていますか?
周りの人がサポートしてくれて、順調にやれていると思いますが、壁と言ったら時間ですかね。
臨床の他に事務作業もあって、事務作業が延びてしまうと、冬場は特に競技場の消灯時間に間に合わずに練習時間が減ってしまう…という感じで。
家に帰ったら家事もしなくてはいけないので…
してみたくて始めた一人暮らしですが、大変ですね…(笑)
-- そこがやっぱり学生の時とは違いますよね。
今後、作業療法士として、またパラアスリートとして、何を目指して、どのように取り組んでいきたいか展望はありますか?
作業療法士としては、技術が先輩に追いつかないにしても、患者さんとコミュニケーションを取って、自分に何ができるかっていうことを考えてやっていきたいです。
アスリートとしては、今大会は4位でしたが、100mの疾走タイムを上げたら、プランも変更して400mが早くなると思うので、次はメダルを獲得したいです。
-- パリパラリンピックを経験したからこそ生まれた思いもあったら教えてください。
今回、同年代の選手と話をする機会があって、「下の世代がいないよね」っていう話になったんです。
自分は4年前の東京パラリンピックにチーム最年少で参加して、今年も自分が1番下なので。
日本の医療が発達して、車いすの方が減ってきているというのは良いことですが、パラアスリートの競技人口もそれに伴って減ってきているという現状があって、上の選手は引退していくけど、下が入ってこない。
オリンピックのスローガンは、「強化育成」となっていて、選手を育成することに注力しているのに対して、パラリンピックのスローガンは、「強化発掘」。
まず、見つけるところから始めないとってなっているんです。
自分は、チームの中でも年齢が1番下で、今まではこういうことを考えたことはなかったんですけど、今回のパリで同年代の選手と話す中できっかけをもらえて、自分が前に出ていかないとなって考えました。
病院の名前も法人の名前も出して、自分が露出することで、誰かがパラアスリートの存在を知るきっかけになるかもしれないなって。
走って結果を出すだけじゃなくて、パラスポーツを盛り上げたいです!
-- 最後に、応援してくれている皆さんにメッセージをお願いします!
今回、4位という結果で終わって悔しい反面、プラン以上の走りができて、アジア新記録や自己ベストを更新するなど嬉しいところも多々ありました。
4年後のロサンゼルスパラリンピックの舞台でも、また自分の力が発揮できるよう頑張ります。
そこでは、今回、達成できなかったメダル獲得ができるよう、これからも一層、トレーニングを続けて頑張っていきます。
応援、よろしくお願いします!