【SAJ2021レポート】スカウティングのアナリティクス
メジャーリーグやプロ野球のチームでは、自動でトラッキングされた詳細なプレーデータを所属選手のパフォーマンス向上、およびチーム編成の意思決定に生かすことが一般的になりつつあります。一方で、アマチュアや海外選手のスカウティングでは統一基準のプレーデータが存在しないことも多く、各チームは「スカウト」と呼ばれる担当者を配置して選手を調査し、能力を判断しています。
選手を評価するための重要な知見が属人化しやすいスカウティング領域は、科学的に改善できる可能性が高く、チームの競争優位性を生み出すために投資すべき重要なポイントと考えられています。このセッションでは過去に日米4球団のチーム編成部門で活躍し、現在は福岡ソフトバンクホークスのGM補佐兼スカウト・育成部ディレクターである嘉数駿氏にメジャーリーグと日本のスカウティング最新動向について語っていただきました。ナビゲーターはスポーツアナリストの金沢慧氏が務めました。
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多岐にわたるスカウトの仕事
最初は嘉数氏のキャリアについて。現在は福岡ソフトバンクホークスのGM補佐兼スカウト・育成部ディレクターを務めていますが、以前はMLBボストン・レッドソックスのアジア地域のスカウトなど、日米通算5球団でスカウティングに関わっているそうです。
スカウティングの仕事について、嘉数氏はアマチュア選手をスカウトする「アマチュアスカウト」、他球団から獲得する選手を調査する「プロスカウト」、海外から獲得する外国人選手を調査する「国際スカウト」という3種類が存在することを説明し、日米の違いなどを紹介しました。スカウトが提出するレポートにはある程度の型はあるものの、役割や仕事が多岐にわたります。
スカウトに重要なのは評価の「基準」を作ること
続いて、テクノロジーの進化が及ぼしたスカウトの仕事の変化について。大きく変わったのは「プロスカウト」を評価する指標です。球速のみならず、投手が投げる球のスピン数、打者が打つ打球の角度など、より細かなデータが取得できるようになったため、それらを分析することが増えました。データに触れることによってスカウトの“目利き”も変化しているそうです。
その後、WEBに公開されているMLBのスカウティングレポートを見ながら議論を展開。MLBでは、1軍選手の数値を50(基準)とし、20~80の間の偏差値で評価する方法が用いられています。正解がない中でどう判断するのかという難しい問題に、基準を作ることは重要であり、それを継続することが必要。その中で、ある選手をどう評価するのかが分かれるのは構わないというのが嘉数氏の考えです。
スカウトの仕事には「スカウティング」に加えて、選手を口説く「リクルーティング(獲得作業)」、入団後の「サポート」があり、ホークスでは、入団後のケアも他球団と比べて重要視しており、選手とスカウトの間にある特別な関係を大切にしているというエピソードも紹介していただきました。
スカウティングの未来
本セッションでは最後に質疑応答の時間を設け、リアルタイムにご視聴いただいた皆様から多くの質問をいただきました。嘉数氏には「どうやったらスカウトになれるのか?」「選手の将来性をどこに見いだすのか?」など、難しい質問にもご回答いただきました。
最後はスカウティングの未来について、嘉数氏は「スカウトのやり方を変えるとしたら、テクノロジーを使って選手の評価指標を変えたり増やしていくべきだと思う。一方で、テクノロジーに頼るべきではない。最終判断の基準をどこに置くのか。定期的に振り返りながら、ツールの1つとしてテクノロジーを使うべき」と持論を展開しました。さらに、「AIを用いて劇的に改善するような未来にはならないと思うが、皆の知見・知恵を生かしながら少しずつ改善していく。データであろうが人の目であろうが選手を多角的に評価し、活躍が期待される選手を取りこぼさない」と総括してセッションを締めくくりました。
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