「最初に学ぶのはルール」じゃないの?
スポーツでも芸術でも,そしてすべての学問で最初に習うのは「ルール」です。でも,「研究(探究)ではルールの学習は大事ではない」と思われているようです。そこで,「最初にルールを知ること」の重要性についてまとめてみました。
ルールを知らないほうが自由にできる?
ルールを知っていても創造性はスポイルされませんが,そこが理解されていないと感じています。
子どもを対象にした研究ルール,研究倫理教育をしていると「ルールを教え込むと,突拍子もない発想が萎縮してしまう」とか「ルールなんて気にせず,自由にやることで創造性が磨かれる」という意見をいただくことがあります。
ほんとうにそうでしょうか?
誰にも真似できない独創的な技術を見せる選手,多くの人を魅せる独創的な作品を発表する芸術家,美しく情感に溢れた,もしくは誰もを驚かせる独創的な作品を上梓する作家,などなど。これらの人々は,いずれも「一定のルール」にしたがって活動しています。たとえば,俳句はわかりやすい例かもしれません。
古池や蛙飛びこむ水の音
この句はルールを守らなければ成立しませんし,ルールに従うことで情景の浮かぶ美しい句になりえるのです。そして,もしあなたが俳句を学ぶなら,最初に学ぶのはルールであり,ルールの習得は創造性を伸ばしこそすれ,スポイルすることはありません。
ルールがあるからこそ創意工夫する
「やってはいけないこと」が明示されているからこそ,独創性を育む創意工夫ができます。ルールがあるからこそ,論理的に思考し,より良くするための創意工夫ができます。鬼ごっこでも缶蹴りでも,ルールがあるからこそより良くたのしむための工夫ができるのです。
クラシックでは同じ譜面を演奏しますが,演奏家によって曲は異なったイメージを与えます。演奏法が譜面で指定されているからこそ,演奏家は独創的な方法で曲に新たなイメージを与え,多くの人に感動を与えるのです。
研究をルールから学ぶ手法は新しい
研究ではルールが必要ないという誤解は,研究のルールという考え方が新しいことに起因しています。じつは研究ではルール整備が整ってきたのは,ここ30年,つまり研究のルール,研究倫理はとても新しい考え方なのです。研究のルールが世界的に意識されるようになったのは1990年代,日本で注目されるようになるのは2000年代です。つまり,いまその整備が進んでいる最中です。もちろん,それまでに研究倫理という考え方がなかったわけではありませんが,いまのような形にまとまり始めたのは1990年代からなのです。
最初の話に戻りましょう。「発想が萎縮する」「創造性が養われない」という誤解は,そのように述べる本人がルールを意識せずにやってきたことの裏返しなのです。もしかすると研究のルールを考えることに「窮屈さ」を感じるのかもしれません。しかし,「足でボールを蹴るのが窮屈」だからといって,手で持って走れば別の競技になってしまいます。ルールは窮屈さと同時に,思考の枠組みを教え,創造性を育てることは,これまで述べたとおりです。
やっと研究にもルールが策定され,ルールに沿ったプレーが求められる時代になりました。スポーツや芸術,様々な学問(このなかには理科も含まれます)と同じようにルールを学び,ルールのなかで創意工夫を凝らして独創性を磨く時代が来たのです。
「ルールが大事なのはわかった。でも,わかりやすいルールブックがないから……」
大丈夫です! そんなこともあろうかと,ちゃんと準備をしています。
拙著「13歳からの研究倫理」は,主人公の「ぼく」,しっかり者の「お姉ちゃん」,科学者の「リカさん」の3人の対話で学ぶ,世界ではじめての子ども向け研究のルールブックです。3章,4章の2つの章を使った,事例検討,シミュレーションも収録されていますので楽しく学べます。
スポーツや芸術,学問と同じように,最初にルールを学び,思考の枠を知ることで,創意工夫して独創性を育てていきましょう!
いつもより,少しだけ科学について考えて『白衣=科学』のステレオタイプを変えましょう。科学はあなたの身近にありますよ。 本サイトは,愛媛大学教育学部理科教育専攻の大橋淳史が運営者として,科学教育などについての話題を提供します。博士(理学)/准教授/科学教育